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音楽家、曲り家、温泉、こけし

何処そこへ行く、あるいは来ていると報告すると、
概ね、そこには何があるの?と訊かれる。
あくまでも話のタネであって、特段意味のない返しとは分かってはいるし、あからさまに興味なさげにされるよりかはむしろ有り難いとも思うが、
それでも少しだけ思うところがある。

何があるか知っているならわざわざ足を運ばないし、
例えば群馬には、かの有名な草津温泉があるが、そのひと言が言えるだけでは「知っている」ことには到底なり得ない。

草津には湯畑があって、湯もみの文化があって、そのいずれもが高温の源泉を入浴できるまで冷ます伝統であることは、教養高い諸兄はともかく、現地を訪れなければ案外知らないものだ。

草津温泉の湯畑

そういう意味で、金と時間と労力を使ってわざわざ旅に出るのは、知らないことを新しく知るためでもある。
現地を訪れるまではその土地について知らないことばかりだし、むしろ知らなくて良い。

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福島駅に降り立つと「古関裕而」の名が目につく。

古関裕而氏とは何者なのか

野球と音楽のどこに共通項があるのか。しかもある程度市民権を得たものだろう。
強いていうなら「六甲おろし」か。と思ったら、ちゃんと「六甲おろし」の作曲者なので侮れない。

都道府県レベルでは観光地や名産品をアピールすることが多いが、市町村レベルだと出身者を前面に出すことが少なくない。

例えば、山形県高畠町では「浜田広介」がそうだ。
名前だけだとほとんどの人が知らないだろうが、「泣いた赤鬼」の作者といえば誰もが頷く。
高畠町はデラウェアの生産量が日本一でワインで有名だが、改札を出て目に留まるのはブドウではなく鬼のポスターである。

高畠駅

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飯坂温泉は、福島駅から私鉄で20分強という好立地の温泉街。道路の舗装状況を見るに、全国的に有名というほどではないが、ちゃんと金が掛かっている感がある。

鯖湖湯という公衆浴場が中心にあって、これが滅茶苦茶に熱い。歴史ある外湯にありがちなことだが、47℃はもはや痛いの領域だ。
地元の常連客の言われる通りに「10回掛け湯をしてから一気に入る」と確かに全身浸かることはできる。できるが、数分で出て、を繰り返すことになる。

ともかく、地元に愛されているというのは良い。公衆浴場を支えるのは日常的に訪れる市民だ。我々観光客はそのおこぼれに与る程度で良い。

鯖湖湯

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福島市民家園は、江戸から明治にかけての民家を中心に保存した公園で、「江戸東京たてもの園」に近い。

江戸東京たてもの園

しかし、こちらはあくまでも民家が中心なので、あまりパッとはしない。

保存された民家

こういうパッとしない、民間では維持しづらいものこそ行政で守ってゆかねば、後世に語り継げない。
入園無料というのも良い。妙に入場者数が把握できると、「選択と集中」なる愚かしき思想に呑まれかねない。
果たして福島市の何処にこれだけの財源があるのかは謎だが。

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土湯温泉は市街地からバスでおよそ50分の山間に位置する。硫黄の香りがゆるやかに漂う。

土湯温泉街

こけしが有名らしく、至る所に発見することができる。

巨大なこけし

同じように見えるが、地域や作者によって形状も表情も異なる。こけしが集合した曼荼羅こけしなるものもある。

多様なこけし

観光交流センターでこけし作り体験をする男女を見ながら思う。伝統工芸はどのように守れるか。ただのお節介だとは分かってはいる。
秋田県の角館で木の皮を使った皮細工の職人と話した時のことを思い出す。彼は60代か70代かに見えたが、今度妻と初めて瀬戸内に行くと話していた。

若くして日本各所に旅に出る環境を得た我々は、同じ場所に何度だって訪れることができる。
だから、まずは知ることだ。知ることに集中するのだ。まず知らなければ、インターネットの誰とも知らない他人からの情報でしか旅程を組めない。次はここに泊まろう、これを食べよう、あれを体験しよう。そうやって初めて自分なりの旅行ができる。

UFOにもふれあえる福島

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