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[目指せインテリ右翼!]荒原朴水先生が勧める右翼理論書の紹介。

「右翼は感性、左翼は理性」と時折耳にする。この区別が正当なものであるかは別として右翼に理性が、さらに言えば「理論」が不足しているのはしばし指摘されることである。この場合の右翼は主に戦後の右翼である。なぜ戦後の右翼に理論が不足しているのか、またはそう思われているのかについて多くの指摘が可能であるがひとまず今回は置いておこう。

戦後右翼の理論の欠乏に憂いた荒原朴水先生によって編まれたのが『われらの教典ー日本民族主義理論体系ー』である。この本は『大右翼史』の著者で知られる荒原先生が上記の問題意識のもとで、幾人かの思想家や活動家の著作と論文を集めたアンソロジーである。これに加えて荒原先生の「愛国陣営」の思想潮流に関する解説・考察が序説として綴られている。

愛国陣営の現状に即して「教典」の出版は心に迫るわれらの長い間の懸案であった。そこで数百冊にも及ぶ先輩諸氏の名著とその他のもの等を丁寧に「思想」と「理論」と「文学」の三つに区分けして、その中の理論的なもの六十余冊を、これも亦多くの著作の中から選び出したのである。

「愛国陣営の現状」が、冒頭に取り上げた右翼の理論不足に関することだというのは想像に難くない。

荒原先生としては「理論的な六十余冊」全てをまとめて選集として世に出したかったそうだ。これが実現していれば筑摩書房の『現代日本思想体系』の右翼版とも言える壮大な叢書となったに違いない。だが著作権や出版費などの事情によりそれは叶わなかった。以下に紹介するのは『われらの教典』に実際に収録された八つの著作である。なお荒原先生は細かに分かれている右翼のイデオロギーを「純正日本主義」「国家社会主義」「農本自治主義」の三つに大きく区分し、『われらの教典』に収められている著作もこれに従って収録されている。

純正日本主義文献

・上杉慎吉『新稿憲法述義』(抄)

・文部省『国体の本義』

・杉本五郎『大義』

国家社会主義文献

・高畠素之『国家社会主義大義』

・北一輝『日本改造法案大綱』

・北一輝『維新革命論』

農本自治主義文献

・権藤成卿『自治民範』(抄)

・橘孝三郎『日本愛国革新本義』


以上八つの著作が『われらの教典』に収められている。『われらの教典』そのものは『大右翼史』よりは比較的入手しやすいが、そうは言ってもやはり値段はそれなりにする。だがそれぞれを単体で読むのはそう難しい話ではない。

例えば北一輝の『日本改造法案大綱』は中公文庫より現在も出ているので、そこそこの大型書店であれば置いてあるはずである。また北の書いたもののいくつかは書肆心水という出版社から出ている『増補新版北一輝思想集成』で読むことができ、簡単にAmazonで新刊本として手に入れることができる。残念ながら『維新革命論』は収録されていないが、これに関してはみすず書房『現代史資料23 国家主義運動』で読むことができる。さらに同じくみすず書房からは『北一輝著作集』が出版されている。なお『現代史資料』シリーズの国家主義運動篇は三冊が刊行されている。右翼関連の事件の資料、右翼人の著作や檄文などが収録されており、目的は全くことなるが、私としては『われらの教典』同様に右翼の理論が学べる重要な叢書だと思っている。閑話休題、ともかく『われらの教典』でなくとも荒原先生が重要だと感じた諸先輩の著作は容易に読むことが可能である。

上杉慎吉『新稿憲法述義』、権藤成卿『自治民範』、橘孝三郎『日本愛国革新本義』は自宅のPCやスマホから国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができる。文部省『国体の本義』も同じサイトで閲覧できるが、こちらに関してはAmazonKindleで「名著復刊文庫」というシリーズから出ているのを購入することもできる。また希少本の復刊で有名な呉PASS出版よりソフトカバーの形で販売されている。書籍の復刊に力を入れる出版社や研究会は意外と多く、杉本五郎『大義』も大義研究会というところが復刊しているのをAmazonで購入することができる。

残念ながら高畠素之『国家社会主義大義』を現在読めるのは、私が調べた限り『われらの教典』以外になかった。高畠素之の著作の大体は先程紹介した国立国会図書館デジタルコレクションで自宅からでも閲覧が可能だが、『国家社会主義大義』は見つけられなかった。『国家社会主義大義』は高畠の講演を文字に起こして当時の『やまと』新聞に掲載したものであり、高畠の死後に石川準十郎の手によって小冊子として再び世に出たらしい。非常に重要な資料であるから簡単に手に取れないのは残念である。

偉大な先輩方が精魂込めて執筆したであろう著作を読み、吟味することは言うまでもなく非常に大切なことである。戦前と戦後の右翼の断絶が激しいのは言うまでもない。だが我々は先輩の思想を、著作を通して触れることができる。また自分と異なる時代に綴られた文章によって自分の時代を相対化して冷静に観察することもできるだろう。己の知的武装と精神武装こそ、諸先輩の著作を読む醍醐味ではないだろうか。「右翼は理論が足りない」と令和になっても言われ続けるのでは先輩方にあわす顔がない。先輩方が残した書をしっかりと活かせるよう私も精進したい、荒原先生の偉業に触れそう強く感じた次第である。


ここまで読んでくださりありがとうございます。以上で私の拙い文章を締めたいと思います。もし誤りのご指摘やご質問などがあればお気軽にお聞かせください。

日向登




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