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人物紹介)ドリュ・ラ・ロシェル(1)

私の好きな作家であるドリュ・ラ・ロシェルを、僭越ながら紹介したいと思います。今回は特にコラボトゥールの作家、ファシストとしてのドリュに重点を置いています。ただそれでも紹介したいことがたくさんあるので3回か4回くらいに分けたいと思います。今回は生まれから第一次世界大戦までを紹介します。
最後に参考文献も載せましたので、詳しく知りたい方はそちらも是非読んでみてください。なお素人が書いた文章ですので、誤字脱字、事実誤認があると思われます。誤りのないように気をつけていますが、もしそういった箇所を見つけた方がいらっしゃれば教えていただけると助かります。拙い文章ではありますが、どうぞよろしくお願いします。

ピエール・ウジェーヌ・ドリュ・ラ・ロシェル(Pierre Eugène Drieu La Rochelle)はフランスのコラボトゥール作家、そしてファシストとして知られています。
1893年、フランス共和国パリに生まれました。母方の祖母に溺愛される一方で、父親は家庭も顧みずに遊び呆けていました。ドリュはそんな父親を憎んだそうですが、彼自身も将来は父親と大差のない放蕩生活を送るようになります。ドリュと家庭、特に父親との関係は後の彼の文学に影響を与えましたが、今回は深入りしません。
福田和也『奇妙な廃墟』によると、あまり明るい性格ではなかったドリュは、コレージュ時代(フランスの中等学校)にはバレスやアミエル、ダヌンツィオの作品を好んで読んでいたそうです。バレスは後々に登場しますが、フランスの小説家、ジャーナリストであり、政治的立場は極めてナショナリズム寄りでした。
話を戻すとドリュは祖父母の期待を背負い、1910年に政治学院に入学します。ドリュは政治学院で外交官を目指していました。実はドリュのファシズムは非常に外交官的な視点のものが多く、また国際情勢の分析に長けていると思わせる文章をいくつか残しています。政治学院での勉学が、後のファシスト・ドリュに与えた影響は大きいでしょう。
しかし残念ながらドリュは1913年に、政治学院の卒業試験に合格することができず、外交官の道は閉ざされてしまいます。この時の心情について、後に『秘められた物語』という手記において「真剣にセリーヌ河に身を投げることを考えた」とまで書いています。ドリュは真剣に自殺を検討しました。この「自殺」もドリュの文学や思想に大きな影響を与えました。
卒業試験に合格できなかったドリュには、歴史的大事件が待ち受けていました。翌年から始まる第一次世界大戦です。そこで戦争という大事に直面したドリュですが、戦後には作家として活動していくようになります。個人的には、芸術家を志し美大を受けるも不合格となってしまったヒトラーと、外交官の夢が叶わなかったドリュを思わず比べてしまいます。
各国の参戦ムードと同じく、ドリュも最初は嬉々として従軍しました。不合格のせいで憂鬱になっていた気持ちが、戦争によってヒロイズムや冒険心あふれた前向きな気持ちに変わっていったのではないでしょうか。
しかしいざ戦地に向かうと、そこに待ち受けるのは凄惨な現実でした。ドリュの戦意は当初の明るい気分と、現実の戦場との間で浮き沈みします。
この時のことを、先程も紹介した『秘められた物語』にて以下のように綴っています。
「1914年の大戦の初期、つまりその翌年、私は何もかもおっぽり出すことを考えた。(中略)戦争に出陣して、私は漠とした相反する感情のとりこになった。交互にわたしは、群衆を夢中にさせ、軍隊すらも夢中にさせた熱狂に完全に身を任せたかと思うと、懐疑と不信の微光を取り戻すのだった」(平岡篤頼(訳)『秘められた物語/ローマ風幕間劇』)
浮き沈みする戦意の一方で、ドリュは死と隣り合わせであるはずの戦場に、確かな生命の充実を感じるようになります。一体これはどういうことなのか、次回以降で具体的な作品を引き合いに紹介したいと思います。
第一次世界大戦を経験した当時の人々の気分を象徴するような戦場での心情を、ドリュは先程から紹介している『秘められた物語』に綴っています。この文からは大戦での経験が、いかに後のファシズム運動と結びついているのかが感じられると思います。少し長いですが、最後に引用したいと思います。
「個性だ、独創性だ、わたしの独自性だ、例外的な自分だなどといったすべてのまやかしが、雲散霧消して、残ったのは、自分は蟻塚にへばりついている一匹の蟻に過ぎないという事実だった。わたしが失われてしまった以上、どうしてもっとそれ以上にわたしを失ってはいけないのか。わたしを全体のなかに、そしてわたしと全体を無のなかに見失ったその喪失感を癒すには、ただひとつの手段しかなかった。それはとことんわたしを失うことだった。酩酊気分が湧きあがってきて、それとともにさらにもっと飲みたいという気持ち、ある種の瞬間に酔っ払いの胸を噛むあの、グラスの底のほんとに壊滅的な最後の一滴まで飲み干してしまいたいという欲望がやって来た・・・」(同上)

今回はここで終わりたいと思います。次回は第一次世界大戦後からのドリュについての紹介を予定していますが、調べる必要のあることが多いので時間がかかると思います。
最後まで読んでくださりありがとうございます。これを機にドリュ・ラ・ロシェルに興味を持っていただけたら感無量の極みです。

(画像出典)
ドリュ・ラ・ロシェル、若林真(訳)、『ジル(上)』、国書刊行会。

(参考文献・引用文献)
福田和也『奇妙な廃墟』。
ドリュ・ラ・ロシェル、平岡篤頼(訳)、『秘められた物語/ローマ風幕間劇』、国書刊行会。

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