座敷わらし


 青森、岩手、秋田などに伝わる子どもの姿の妖怪で、棲みついた家をスピードワゴン級に速攻大繁栄させるという業界随一のお役立ちスキルを有しています。その代わり、座敷わらしが去った家は急転直下の没落コースをたどるのだとも言います。

 座敷わらしに会える宿として、金田一温泉郷の旅館「緑風荘」がつとに有名ですね。原敬や本田宗一郎、松下幸之助などといった錚々たるレジェンドの運気を大いに向上させたということで旅館は有名になり、経営者はさぞホクホクだろうと思っていたら、2009年に座敷わらしの祠を残して建物が全焼。それってつまり座敷わらしが去ってしまったのでは……と、僕らはそんな気がしてならないのですが、経営者はその後も座敷わらしの名のもとにファンドで再建の資金を集めたり、「株式会社 座敷わらし」を設立したり、「 ざしきわらしの唄~真白のように~」という謎の座敷わらしソングを発信したりと、なおも座敷わらし推しで頑張っておられるので、世の妖怪ウォッチャーたちは現代の座敷わらし譚の行く末を静かに見守っているところだよ。

 さて、みんな大好き『遠野物語』には座敷わらしのこんなお話が記されています。
 山口孫左衛門さんのお宅には幼女の神さま二人が住んでいるという言い伝えがありました。恐らくはそのおかげで山口家は財をなし、現代文明で例えるならば自宅のトイレにジェットタオルがついている、というくらいのセレブな暮らしをしておりました。
 あるじの孫左衛門は鄙にはまれな学者タイプのキャラで、わざわざ漢籍を取り寄せてはハンパな知識を吸収し、「きつねを祀れば金運さらにアップ」というハンパな仮説を思いつきました。京の都に上って稲荷を勧請し、敷地に祠を建てて毎日油あげを供えてみたところ、野生の狐に慕われるようになり孫左衛門さん得意顔。あるじの外法に感化されたものか使用人のガラも悪くなり、暇つぶしにヘビを捕まえて殺すという偏差値低めの悪行を平気で行うようになります。世はまさに世紀末だね。

 そんなある時、村の男が橋のほとりにたたずむ幼女二人に声をかけるという事案が発生しました。「幼女と成人男性という組み合わせを見たら犯罪と思え」という現代の格言にしたがうならば、すぐさまみんなで男を取り囲み、QUEENの名曲「Don't Stop Me Now」のメロディに乗って手にした鈍器でテンポよくタコ殴りにすべきなのですが、いかんせん防犯意識の低い時代だったのでそのような血の粛清は行われませんでした。
 しかしまあ、そんなことはどうでもよいのであった。とにかく、男が幼女二人に「どこから来たの?」と問いかけたところ、幼女ふたりは「山口さんの家から」と答えたそうな。はて、あのきつねオタの家にこんなに可愛い幼女がいたかしら、と男の脳内にインプットされた全村幼女ファイルを検索しつつ、「これからどこへ行くの?」となおも不審な質問を投げかけると、幼女らは「何某の家」と答え、そのまま歩き去っていくのでした。
  しかるのち、山口家は主従もろとも毒キノコにあたり、七歳の女児を除いて一家全滅。財産は親類縁者に残さずかすめ取られ、女児は不遇のまま孤独な人生を終えたとのこと。いっぽう何某の家はといえば、現代文明でたとえるとジェットタオルを右手用、左手用と二台並べて自宅のトイレに設置しちゃうレベルのスーパー豪農として遠野界隈でブイブイいわせたとの由。
 きっと孫左衛門さんたちは、座敷わらし先生の心象を害してしまったのでしょうね。

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