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「ペーパーマリオオリガミキング」メインストーリーを完走した感想(2020/07/22)

0.めっちゃおもしろかったです

あの急な発売告知から2ヶ月しか経っていないとは思えない大ボリューム作品で、たいへん・たいへん・満足している。顧客が何を求めているか、あらゆる方面に目配せをして、行き届いた配慮を巡らせた佳作と言えるのは間違いない。
前作と前々作でストレス要素・冗長・理不尽と罵られた箇所はことごとく改善され、よりフェアな謎解きに徹することができるよう工夫されている。とはいえ、不条理即死トラップクソなぞなぞなんかのテキトーでナンセンスなノリも、シリーズを貫く醍醐味ではある。そのへんを全て棄却せずに程よく残した判断も素晴らしい。喝采を贈りたい。

さて、私が個人的に<マリオストーリーシリーズ>に求めるものとは、ま〜お察しの通りご多分に漏れず、

・堤幸彦監督作品ばりのネタ&パロディ奔逸
・他の任天堂作品ではなかなかお目にかかれない、生き生きした“人間臭い”キャラクターたちの姿 
・それらが織り成す破天荒でツイストと毒気と風刺がたっぷり、でも不意に泣かせてくる情緒不安定気味ハイテンションストーリー

以上の三要素がデカい。これらを極めた作品としては、「スーパーペーパーマリオ」(2007)が挙げられる。あれはアクションゲームとしては不出来かもしれないが、脚本・ギミック・舞台装置の噛み合い方や空気感の作り方において右に出る者はいない傑作なのだ。ルミエマ……(鳴き声)
こたびのオリガミキングは、「ペーパーマリオ スーパーシール」(2012)の“ストーリー撤廃路線”から再帰した結果、物語において何をどこまで成すことができたのだろうか。上記の三要素は含んでいただろうか。私見ながら各章毎にざっくり振り返っておきたい。序盤に訪れる博物館の地階を見れば一目瞭然だが、本作は全6章構成となっている。

1.赤紙テープエリア

最高の導入!
作品全体を通底するホラー要素の片鱗を見せつつ、オリビアというキャラの育ちの良さゆえのふてぶてしさ、オリガミとキノピオを主題に据えた本作の異常性をこれでもかとインパクティックに提示してくるし、実際それに成功している。
アクション面でもちょっと飽きたかな〜ぐらいのタイミングで新しいギミックをほいほい導入されるので、目まぐるしくも退屈はしない。
そして目を引くのは音楽とグラフィック。まさかこんな作り込まれたゲームをお出しされるなんて思わないじゃん。
また、計算し尽くされたマッピングが少しずつキノピオという種族の生態や生活を提示するのに一役買っていて、プレイヤーを世界観にグッと引き込むような求心力がある。
話自体はそんなに進まないしまだまだ謎も多いけど、この世界の住民への愛着が嫌でも湧いてしまいそうな台詞回しが続く。
段々高まる、「あれっ、私は最高のゲームを買ってしまったのでは?」という疑惑。

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初見で1章クリアまで4時間以上掛かり、尺のスケールにビビった

2.青紙テープエリア

ロジックの飛距離!
プレイ中いちばんボリューミーに感じたのは断トツで2章。謎解きが一気に複雑化し、当初の目的を達成するために何ステップも何ステップもクエストをこなさなければならないという状況が二回ほど続くが、逐一ヒントはくれるので詰みにくい。恐ろしいことに、すべてのギミックには一応筋が通っているのだ。
そして唐突に現れる、とある新規仲間キャラクター。当然私は歓喜した。マリオストーリーの醍醐味、それはキャラがエグいぐらい立ってる仲間キャラクターとの珍道中にあると言っても過言ではない。この新キャラのあまりのふてぶてしさを目の当たりにして、あ〜、ほんとに俺たちのインテリジェントシステムズさんが帰ってきたんだなぁという感激に、ついつい涙がホロリ。
2章後半のトンチキなノリもたまらなく好きだ。「白鳥の湖」アレンジBGMが狂おしいほど好き。2章のボスも、今作全体的にただのやられ役だった章ボスの中では一番キャラの描き込みが感じられて好みだった。

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急に歌うよ〜

3.黄紙テープエリア

まぁ普通に泣いたよね。というかここで疑惑が確信に変わったのだ……このゲームはシナリオにも余念が無いのだと!
というかあれは普通にシリーズプレイヤーからすると、ミスリードとかどんでん返しの類じゃないでしょうか。だってさ、それまでにいっぱいでっかい硬い木箱があってさ、あ〜あいつがなんか覚醒してフィールドであれが使えるようになってポケモンの秘伝技みたいなノリで行動範囲が広まんのね〜みたいな。それを見事に裏切られて、最終的に、オリビアちゃんLove...になってしまった。
そしてはたと気付くわけだ。なぜこんなにオリビアに感情移入させようとする? 愛着を持たせようとする? 最終的に殺してプレイヤーのハートをぐちゃぐちゃにする気満々じゃん!
私はこの時点で気づいていたのだ、かしこいので。とはいえ、心のどこかには、オリビアロスになって傷心抱えてこれからの数カ月生きていきたいなぁ〜という願望も、ちょっとあった。ちょっとだけね。
3章後半も、最高の一言だ。1カ所理不尽な謎解きがないでもないが、あれも一応筋を通すことはできる(古代の情報なので今も波模様の煉瓦に囲まれているとは限らないということだ)。
3章仲間キャラとオリビアの掛け合いも軽妙で楽しくなっちゃうし、終盤の一連の演出を考えた奴は天才以外の何者でもない。スリラーやユーロビートは良いとして、このシリーズのオタク文化への激しい擦り寄りは一体なんなんだ???

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きょうび80年代音楽古臭くね?みたいなノリ自体が古臭くて最高


4.紫紙テープエリア

問題の章。
章立てにしながらも、あまり章に囚われた作り方はしていないのかなぁ〜とは思うのだが、それにしたってこの章だけ色々と要素が足りなくないだろうか?
ストーリーとしては、一応オリガミ兄妹の出生の秘密が語られるということで重要な局面ではあるのだが、遺跡周り・テープ周りの演出がどうも他と比べると貧弱なように思える。どちらかというとフィールドアクションに重きを置いていたのかなぁという印象だ。
仲間キャラもいるにはいるが、そのエキセントリックなキャラを活かしきれていたかというと疑問符が付く。ここまでこの章が単体で浮いていると、もしかして章ごとにコンセプトライターが違うのかな?などと思ってしまう。実際どうなんだろう。
プリンセスピーチ号周りは図らずも世相との相乗効果が生まれ、より上質なホラーに仕上がっていたのが良かったと思います。
あと扇風機のくだりはあんなん笑わんのは無理よ。ずるいもん。すごい勢いで前作をおもちゃにしていくやん。

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「館ミステリの快楽受容体」を的確に刺激してくる

5.緑紙テープエリア

なんというか、尻窄みの感が否めない。
「クッパ軍団との共闘」とは歴代作品でも大変熱い局面を演出してきた主題で、本作もまたそれに違わず少年漫画的な王道の共闘関係が築かれ読んでいて気持ちが良かったのだが、やはり演出面でもギミック面でもどこかで見たなぁというものが増えてきて、冗長さの度合いも上がっていった感じがある。
5章の舞台コンセプトが2章後半と若干被っているのも痛い。話の繋がり上、4章と5章はひとまとまりにして考えた方がいいのかなぁという気がしないでもないんだけど、それにしたってこれまでより薄味なんじゃないかなぁという疑念は晴れない。
状況設定は巧かったと思います。「じゃあみんなでピーチ城に殴り込みをかけよう」という流れになるまでの誘導がとても自然。わりと自然に共闘関係が築かれるということは、ここはやはりマリオストーリーシリーズを色々経てきた上にある世界なんだなぁということが窺い知れて、良いよなぁ。

6.エンディング

最終章、つまり今回の黒幕とその顛末について……。
いや今までの描き方からすると、明らかに安易すぎませんか。
あんだけ他のキャラが立ちまくっとる中で、黒幕の行動理念が薄っぺらすぎる! いやさすがに薄すぎやろ、なんか真の黒幕でもおるんちゃうの?と思ったら本当にそれだけの理由だった。しかも発端は勘違いだったという救いのないオチ……。
ま、まぁええわ、問題はそこちゃうねん。
はっきり言ってこの時点で、おそらく多くのプレイヤーの中の共通認識として、この作品はオリビアちゃんのビルドゥングスロマンなんだというのが形成されていたはずですね。世間知らずお転婆天衣無縫のオリビアちゃんが旅の果てにどういう幕引きを選ぶか、それをみんな固唾を飲んで見届けたんだと思います。
彼女の選んだ結論、それは究極的自己犠牲忘我的自己贈与でした。
4章5章のとっちらかったシナリオからその根拠を引き出すことはむずかしいので、やはりここでも肝要になってくるのは3章序盤のあのイベントなんでしょうな。
我々はオリビアちゃんの決断を胸に、これからも心に深い創を負ったまま生きていくのです……と、思うじゃん。
ここ、センター長ブチ切れポイントなんですけど、エンディング見た後にリスタートしたら、ラスボスの手前のところで始まってやんの! 「ゼル伝botw」スタイルかよ! そんなんオリビアちゃんといつでも遭えるやないか、ふざけんな!
遭えるんやからええやん、ロスとかなくて良かったな〜とか思いますか? 違いますよ。これはね、「ボケットモンスター サン/ムーン」(2016)において“リーリエロス”という全トレーナーの傷心を慮った制作サイドが、次作「ウルトラサン/ウルトラムーン」(2017)で改善を図った結果、意図とは裏腹に「俺たちの感傷を返せ!」みたいな感じになっちゃったのと同じ話なんですよ、きっと。
もう二度と会えないからこそこれまでの日々が美しく輝くんちゃうんか。私は“その日”を見越していっぱいオリビアちゃんの写真を撮ったし、彼女の晴れ舞台だって一度もスキップしなかったんですよ?!
つまりね、「俺たちのオリビアロスを返せ!」と言いたいわけです。まったく人間とはまことに身勝手な生き物ですね。こんな人たちまともに相手にしてちゃダメですよ、任天堂さん。

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感傷を掻き立てる予定だったスクショ群からの一枚。バカうけ〜

7.総評

……というわけで、総評っぽいことをします。
「ペーパーマリオ オリガミキング」は平均的の高い佳作と言えます。アクションよし謎解きよしBGMよし演出よしキャラクターよし、シュールでキュートなペーマリ世界への良い入り口には違いありません。
ストーリー重視路線も、その復活の兆しは明らかに見せてくれていました。しかしその徹底具合は、いまだ発展途上と言えるでしょう。あるいは途中から力尽きたのかは知りませんが、とにかくこれはキャラとシナリオにこだわればついてきてくれる客層がいるということを開発側が再認識したメルクマール的作品なのだと私は思っています。
令和のマリオストーリーシリーズの真価は、次回作にて再び問うことにしましょう。インテリジェントシステムズ先生の次回作にご期待ください!





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