コーヒーと紅茶

実生活において、「(日直)ちゃんって紅茶めっちゃ飲んでそう」と言われたことがある。
それも一度ではなく複数人から複数回言われているのだから、周りに私の姿はそのように映っているのだと思う。

だが、実際の私はコーヒーが好きで、紅茶が苦手だ。

コーヒーは大学生になって急に飲めるようになったし好きになった。しっかり深煎りフルボディのイタリアンロースト(=苦い)がとても好き。

一方、紅茶は独特のフローラルな感じというか、植物っぽい香りと味がどうしても苦手で、レモンやミルクを入れてもどうしても飲めない。

以前地元の書道教室で作品展に出す用の作品の練習をしていていたら、師匠のお母さんが「(日直)ちゃんよぉ頑張っちょるねぇ、そろそろ休みんさいね」と紅茶とお菓子を出してくださったことがある。
1回1時間くらいかかる作品を何度も書くことよりも、その紅茶を飲み切ることの方が余程苦行であったとも言える。残す方が心苦しいし。
おばちゃん、その節は本当にありがとうございました。お菓子おいしかったです。

このように、「この飲み物をこの人が飲むだろう」というイメージは、強い力を持つにも関わらず往々にして些細な、しかし重大な行き違いを生む。

私にとってこの行き違いが最も多く生まれるのは、喫茶店だ。

私は喫茶店に行くのが好きで、初めて行く土地では必ずと言っていいほど喫茶店を調べる。
そして、(体調が悪くてカフェインがキツいとかではなければ)大抵ブレンドコーヒーを頼む。
それぞれのお店のコーヒーの味の特徴を知って、好きだな、そんなに好きじゃないな、という感じでまた来るか次回は見送るか決めたりする。これがまた楽しい。

1人の時はこれで全く問題ないのだが、2人以上で行った時に少しめんどくさいことになったりする。

これはおそらく偶然なのだが、私の友人にはコーヒーをブラックで飲む人がほとんどいない。
そのため、大抵私がブラックコーヒー、友人が紅茶やメロンソーダ、ココアなどを注文する。

ここまでは何ともないのだが、いざ飲み物が運ばれてきたとき、ほぼ例外なくまず私の前に紅茶が置かれるのだ。
気心の知れた女友達同士で行った時は「またかよ~笑」と笑い話にして済ませることができるので、もはや楽しくもある。

問題は異性と2人の時である。

これは実際のエピソードなのだが、私が元彼と初めて2人で食事に行った時、私がコーヒー、元彼が「俺コーヒー飲めんねんな」とアイスティーを注文したところ、上記のような状況が例によって起きてしまった。
すると、元彼の表情がみるみる曇っていく。
どうしたの?と訊くと、

「俺、これでグラス交換したら、女はコーヒー飲めるのに男はコーヒー飲めへんのやって目で見られるのが耐えられひん」

衝撃である。
別に男性がアイスティー飲んで女性がコーヒー飲んだっていいでしょうが、と思ったが、どうやらそのようなことが起きるとプライドを傷つけられてしまう男性がいることをそこで知った。
また、この元彼は、女はこうあるべきみたいなのをだんだん押し付けてくるようになったので、3か月くらいでかなり強引に縁を切らせてもらった。俺の手のひら返しは世界最速。

それ以降、私は誰かと喫茶店に行く時は誰と行くかによって飲みたいものを変えるつもりはないのでもちろんコーヒーを頼むのだが、異性と2人の時は少し後ろめたい気持ちを抱えながらコーヒーを注文するようになった。

自分や飲み物についてまわるイメージはきっととても根深いもので、きっと一生かかっても変えることはできないだろう。
私はコーヒーが飲めて紅茶が飲めない。
でも、それは決して変なことではないと私は思っているし、変だなと思わないでほしいなと思っている。

いつか罪悪感を持たないまま堂々とコーヒーを注文できるようになりたい。
そして、それをなんとも思わないような、何も気にしないような人と幸せになりたい。




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