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狂犬病ワクチンはどうなの? その4 … 現在の法律は非科学的?

ジステンパーやパルボウイルス感染症などと同様、狂犬病についても抗体検査が行われています。にもかかわらず、検査結果は例外的にワクチン接種の要否判断として認められていないことを、前回、ご紹介しました。また、北米では狂犬病のワクチン接種に関する法律が地域によってバラバラなこともわかりました。(前回はこちらです

狂犬病ワクチン接種に関する法律は非科学的?

あまり多くが語られていないようですが…、

アメリカには狂犬病ワクチンの過剰接種に警鐘を鳴らす専門家がいます。カレン・ベッカー獣医師は、ワクチンが動物を病気から守ってくれる期間(免疫持続期間:DOI)に関する科学的な検証が不十分だと言います:

…ごく最近まで、獣医師の世界ではこの分野の研究が事実上無視されてきました。「動物用ワクチンの毎年接種」と言うガイドラインは数十年前に設定され、それを作ったのはワクチンメーカーなのです

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また、狂犬病予防注射に関して、人間の場合は抗体検査が有効とされているそうです。

…私たちすべての獣医師狂犬病予防接種を受けなければなりません。その後は狂犬病に対する抗体検査を受けます毎年、自動的にワクチンを打つわけではありません

として、動物への狂犬病ワクチン接種も同様の扱いであるべきだと語っています。

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さらに抗体検査で陽性が確認されても接種が免除されない法律を、科学的根拠(エビデンス)に基づいていないと批判します。

狂犬病ワクチンの接種は法律で義務化されているため、抗体検査で陽性が確認されても病気から守る免疫があると - 法的には - 解釈されません。科学的根拠に基づかない法律が、狂犬病に対する免疫を既に持ったペットに繰り返しワクチン接種を行うことを強要しています。こうしたワクチン接種は、役に立たない - つまりペットの”免疫力をより高める”ことにはならない - と同時に、場合によっては害になり得るのです

エビデンスに基づいたワクチン接種を主張する研究者

もっと積極的に狂犬病ワクチンの過剰接種に(ワクチン接種「そのもの」にではありません。大事なことですので念のため)注意喚起を行う学者もいます。ウィスコンシン大学マディソン校・獣医学大学病理学部のロナルド・シュルツ名誉教授の研究では、

狂犬病に対する抗体検査で陽性が確認された犬には、
抵抗力が7年は持続していることが確認

されたそうです。2016年2月、シュルツ教授が「関係各位」宛にウィスコンシン大学として出した声明には以下が明記されています。要点のみ、和訳しました:

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アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の指導により、狂犬病の感染リスクが高い職業従事者は2年ごとに抗体検査を受ける。抗体価が基準を満たせば狂犬病に対する免疫があると判断され、ワクチン接種は行わない
・ほとんどの地域で動物の抗体価に関わらず毎年または3年に1度の狂犬病ワクチン接種が求められている。「これは科学的に欠陥のあるアプローチ!」である。ワクチン接種の目的は、病気を安全に予防することであり、単に行政上の要求を満たすためであってはならない
・ペットへの狂犬病ワクチン接種は公衆衛生上必要不可欠である。しかし、死亡を含む副反応などのリスクは避けられない。そうした症例は多くないが、抗体によって既に狂犬病から守られていると判断できる動物リスクに晒すのは不当なものである
・狂犬病ワクチンの成犬への再接種に関しては、まず抗体の状態を確認すべき。その上で、感染リスク(筆者注:生活環境などウイルスに接触する機会が高いのかなど)を検討し、必要な場合に再接種を行うのが科学的に意味のある方法である。これは、人間ではあたりまえに行われている
・ワクチンの効果を確認するため、動物を狂犬病ウイルスに感染させる実験を行った。過去に2回の狂犬病ワクチン接種を受け、抗体検査で陽性が確認された場合は狂犬病への抵抗力が7年は持続していることが確認できた

ワクチンによる免疫が何年も続くことを研究で実証

シュルツ教授は、1970年代半ばから狂犬病を含む犬用のワクチンを研究しているそうです。2006年には、様々なワクチンによってもたらされるDOIに関する論文を発表しています。狂犬病ワクチンは、接種後の長期間にわたって犬をこの病気から守るとしています。

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研究では、ワクチンを接種した約1000頭の犬を対象に何年も継続的に抗体検査を行ったそうです。並行して、一部の犬たちには

「攻撃試験」を行い実際に発症するかどうかを確認した

そうです。攻撃試験というのは、実際に病原体に晒すことでそのワクチンの有効性を評価する試験手法です。例えば狂犬病ワクチンを打った後、その動物を狂犬病ウイルスに晒して発症するかどうかを確認します。この結果、

狂犬病ワクチン接種後の「最低でも3年」は狂犬病から守られた

そうです。なお、ジステンパーウイルス、アデノウイルス、パルボウイルスに対しては最低7年という結果が出ています。

同教授が2016年に発表した論文では、

抗体は犬用のコアワクチン、すなわちジステンパーウイルス、パルボウイルス(CPC-2)、アデノウイルス(CAV-1)および狂犬病ウイルスへの主要な防御免疫メカニズムである。…(狂犬病を含む)犬用コアワクチンの場合、再接種の間隔を延ばしても病気に罹る危険性は増えない。また、それによって(= 注射の回数を減らすことで)副反応のリスクは確実に減る

として、手術などと同様、ワクチン接種も獣医学的に必要と判断された場合にのみ行うことを推奨しています。

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次回は、もう少しこうした主張をご紹介した後で、主流となっているワクチンの定期接種必要論の根拠(?)をご紹介します。私は、「こじつけ」という印象を受けますがみなさんはいかがでしょうか?