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愛犬の混合ワクチンは年に一回?①

目的と免疫持続期間について

インフルエンザの予防接種って、免疫の効いてる期間が3ヶ月位らしいです。なので、「ひと冬に2回打つべき」と言う人もいるそうです。ワンコにも感染症予防の「混合ワクチン」がありますよね。1年に一回というのを聞くような気がします。改めて「それで充分なのかな~」と思ったので、調べてみました。最近よく聞く、「エビデンス(= 科学的根拠)」に基づいた考え方がだいじですよね。

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ワクチン接種の目的
ワクチンは、愛犬を病気から守るのが一番の目的ですよね。でも同時に、感染症の流行が起きる可能性を最小限に抑える、いわゆる「集団免疫*」をつけることで、他の犬たちを守るためにも大切です。狂犬病予防接種のように法律で決められてはいませんが、定期的な接種が求められます。

集団免疫:ある疫病に対し、集団の大部分(70%という話を聞きます)が免疫を持っていると感染症の拡大が抑えられるという考え。新型コロナウイルスに関しては、当初イギリスがこの対策を採用した。

ワクチンの種類:世界のガイドライン
世界小動物獣医師会の「ワクチネーションガイドライングループ(VGG)」は、エビデンスに基づいて世界的に適用できる犬と猫用のワクチン接種に関するガイドラインを各国語で作成しています。このガイドラインでは、ワクチンの種類を大きく3つに分類しています。

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1.コアワクチン:世界中で感染が確認されている、致死性の高い感染症を引き起こすウイルスから守るものです。国や地域の特性に関わらず、世界中すべての犬と猫に接種すべきとされています。犬の場合は、以下のウイルスによる感染症を予防するもの:

・犬ジステンパーウイルス:呼吸器や消化器系などに重い症状をもたらす
・犬アデノウイルス:重い呼吸器疾患を引き起こす
・犬パルボウイルス(2型):激しい下痢や嘔吐の原因となる

2.ノンコアワクチン:地域環境や飼い主のライフスタイルによって、リスクが生じる可能性がある感染症に対応するワクチン。以下は日本で一般的に使用されるワクチンの例:

・パラインフルエンザウイルス:風邪症状の原因となる
・ボルデテラ(細菌):呼吸器疾患などを引き起こす
・レプトスピラ(細菌):多くの場合は無症状
重症化すると発熱、嘔吐、粘膜からの出血や黄疸などの症状が見られる。主にネズミの尿から土などを介して感染する

3.非推奨:使用を正当化するための科学的なエビデンスが不充分なもの

今回は主に、世界的に全ての犬に接種が必要とされているコアワクチンについてご紹介します。

子犬のワクチン接種
子犬を家庭に迎えると、何度か混合ワクチンの注射を打ちますよね。その前に、ブリーダーかペットショップで最初の接種を受けているのが普通です。

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子犬はお母さんから受け継いだ抗体(「移行抗体」)によって、生後数週間はウイルスから守られているそうです。で、この間は注射を打ってもワクチンが働かないそうです。ご家庭に迎えられる直前に最初の接種が行われるのは、生後8~12週で移行抗体の働きが低下しワクチンの効果が期待できるようになるからだそうです。

でも、この移行抗体が機能する期間はきょうだい間でも大きなばらつきがあるんだそうです。だから、最初のワクチン後、16 週またはそれ以降までに2~4週間隔で注射を打って、充分な免疫をつけることが推奨されています。

晴れて充分な免疫を得て「お散歩デビュー」を果たした後は、一般的に1年に一度、混合ワクチン接種を行うケースが多いのではないかなと思います。

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その後のワクチン接種の頻度は?
人間用も含め、すべてのワクチンには実験で得られた「エビデンス」に基づいて免疫持続期間(DOI)が明らかにされています。つまり、注射を打った後、どの位の期間、対応するウイルスや病原菌への感染を防ぐことができるかの「最低値」が科学的に分かっています。

VGGでは、ペット用コアワクチンのDOIのほとんどを「最短3年」としています。でも、日本では1年ごとに接種するケースが多いような気がします。海外でも、そのような例は少なくないそうです。

この原因を、世界小動物獣医師会は製薬会社が説明書の更新を行っていないか、法的規制がある場合は当局がその変更を行っていないことが原因と考えられるとしています。(後者は狂犬病ワクチンが該当しますが、それについては、別の機会にご紹介したいと思います。)

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念のため日本で販売されている混合ワクチン(コアワクチンを含む)の添付文書または説明文章をいくつか見てみました。子犬への接種方法に関しては「用法及び容量」に記載がありましたが、成犬への接種頻度に関する特記は無いようです。

このDOI、愛犬の健康と安全に、とても重要だと思います。長いですが、VGGの日本語版から、該当する文章を以下に抜粋します:

ほとんどのコンパニオンアニマルのコアワクチンに関しては比較的最近まで、最短のDOI が1 年間とされていたため、年1 回の再接種が推奨されていた。近年は、同じ製剤の多くで最短のDOI が 3 年(場合によっては4 年)で承認されている
実際、多くの国ではコアのMLV ワクチン(筆者注:MLVワクチン=生ワクチン)のほとんどについて、成熟動物への3 年毎の再接種が承認されている。しかし、同じ製剤の最短のDOI が今でも1年のままの国は少なくない。これは単に製造業者が製剤添付文書の推奨事項を変更していないか、または国の規制当局が変更を許可していないことによる。
(中略)特に、コアワクチンのDOI を3 年とした承認は最小の値であり、ほとんどのコアワクチンでは真のDOI は接種された大多数の動物で、終生とまでは言えないにせよ、はるかに長い可能性が高いことを忘れてはならない。(* 強調は全て筆者)

次回は、混合ワクチンによる副作用のリスクと、安全な接種の考え方についてご紹介します。