ペットを飛行機の客室に持込む是非
「ペットは家族だ!」「動物は物じゃない!」
羽田空港で発生した飛行機事故で、JAL機の荷室に預けられていた2匹のペットが犠牲になったそうです。それについて、SNS上で意見が交わされています。犬や猫が、飛行機の客室内で家族と一緒に過ごすのを認めるべきだという意見が高まりました。同時に反対意見も多く聞かれるようになりました。
この機会に、ペットの客室内持ち込みについて整理してみました。色々誤解もあるようなので…。
事実を知る大切さ
様々な意見の中には、事実を踏まえていないモノもあります。ペットの客室内持ち込みができない事で、日本が動物愛護“後進国”であるかのような批判があります。また、「客室内に持ち込める、イコール、一緒に緊急避難できる」 との思い込みもある様です。
ひめりんごと平蔵は大切な家族だし、この子たちはモノでもありません。冒頭のコメントには大賛成です。だからこそ、反対意見にも耳を傾けつつ、「じゃぁ、どうしたらいいのか」を事実に基づいて理性的に考えるのが必要ではないでしょうか?
ということで、手始めにそのあたりのFACTを客観的にまとめてみました。
手荷物として持ち込める日本の飛行機
日本の航空会社では、基本的にペットの客室内持ち込みはできません。唯一の例外は、福岡県を拠点に主に国内便を飛ばしているスターフライヤー。「手荷物」としてペットを持ち込むことができます。
高さ40センチ・幅40センチ・長さ50センチを超えないサイズのクレートに入れ、中で「無理なく立ち上がる、横たわる等の動きができる」ことが条件です。となると猫と小型犬に限定されますが、日本の航空会社で "定期便の客室"にペットを持ち込めるのは今のところここだけです。
料金は高額
「手荷物」扱いですが、持ち込みには50,000円の費用がかかります。料金設定の根拠を同社の経営企画本部長に直接聞いたことがありますが、1座席分の定価だそうです。スターフライヤーの場合、クレートは座席の上に置いてシートベルトで固定する規則です。
わんこのために座席を1つ確保する必要があるので、その分の料金ということでしょう。理にかなった説明です。
ただ、人間のチケットは1万円台で購入できます。例えば羽田から福岡空港まで行く場合、2024年1月15日の「STAR 1」というチケットは12,880円です。予約変更などに制限のない「普通運賃」でも46,800円。
あくまで手荷物①:「酸素マスクは使えません」
また、スターフライヤーの「ぺットを機内に持ち込む際の遵守事項 」には、こんなことが書かれています:
料金は人間以上でも、扱いはあくまで手荷物。
手荷物扱いなのはアメリカの航空会社も同様ですが、緊急時の酸素マスクについては少し表現が違います:
助動詞 "may" が使われているので、文法上、可能性の目安としては50%ほどのニュアンスです。使えるかもしれない。一方、スターフライヤーは「ご利用いただけません」と断言しています。
なお、これはテキサスをハブとするアメリカのLCC「サウスウェスト航空」の例ですが、その他にも何社か同様の表記をしています。
同社のペット持ち込みは、ユナイテッドと同じ125ドルです(クレートは足元、前の座席の下に置きます)。単純にサービスを考えると、スターフライヤーの料金は割高な印象を受けます。また、座席を1つペットのために確保しているので、酸素マスクの数も足りています。使えない理由は、別途、問い合わせてみます。
あくまで手荷物②:緊急時は置き去り
緊急脱出の際は、おいて行かなければならない決まりです。仮に今回の様な事故で2匹のペットが客室内にいたとしても…:
一般的に、どの国でも飛行機から緊急脱出するケースでは手荷物を一切持たないルールだと聞きました。離陸前に機内でそう言われますし、JALは公式ウェブサイトでも説明しています。羽田の事故でも、「荷物は持たないでください」と繰り返すCAさんの声がニュースで流れていました。
今回の事故は、ペットが乗る場所が貨物室か客室かと言った議論で解決できるほど単純ではなさそうです。
なお、アメリカ連邦航空局(FAA)も、客室内に持ち込んだペット(のクレート)には手荷物としてのルールが例外なく適応されるとしています:
国や航空会社によって異なる規定
話を持ち込みの可否に戻します。先ほどご紹介したように、ユナイテッド航空を利用する場合はペットの客室内持ち込みができます。一方で、アメリカン航空は受け入れていません。例外として、軍と政府の公的機関で働いている人たちが、勤務地の変更で転居する場合は認められるそうです。
ユナイテッド航空でも、国際線の場合は目的地や出発地によって許可されないケースがあります。それぞれの国で動物の扱いに関する法律が違うことが要因のようです。その他、エールフランス航空やルフトハンザドイツ航空は基本的にOKです。一方、動物愛護先進国のイメージがあるイギリス(これも実際には色々あるのですが、それはまた別途…)のナショナルキャリア「ブリティッシュ エアウェイズ」はNGです。
お隣、韓国の航空会社はペットの客室内持ち込みを認めています。大手の大韓航空やアシアナ航空だけでなく、LCC(ローコストキャリア)のチェジュ航空なども客室内で一緒に過ごすことができます。
このように、ペットの客室への持ち込みは、欧米だけでなくアジアも含めて一律でないのがよく分かります。動物愛護先進国かどうかは関係のないことです。そこを議論しても、建設的な解決策は生まれないでしょう。
望むのは動物の幸せ
だいぶ飛躍した意見もあります。「客室に入れろ」ではなく、「ペットを貨物室に入れる事そのものを禁止すべき」というオンライン署名が立ち上がっています。でも、今回の様な悲しい出来事は、客室内への持ち込みだけでは防げません。
さらに、航空会社が「では、ペットの輸送は全面的にお断りします」となる可能性もゼロではありません。中型以上の犬は、どんな事情があってもその航空会社の便では移動できなくなります。かえって事態を難しくさせてしまうでしょう。
望んでいるのは、動物たちの幸せなのに…。
という事で、今回はまず、事実をメインに簡単にまとめてみました。今後は、「じゃぁ、どうするのがみんなのためになるのか?」を、もう少し掘り下げていきたいと思っています。