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ありきたりな一日に

ありきたりな一日に 作】葉月奏詩
性別不問 人称、語尾変更可

ピピッ!!ピピッ!!と無機質な音で目が覚める。
今日もまた朝が来てしまった。
俺はまだ半分しか開いていない眼を擦りながら床へ足をつける。
洗面台へと続く廊下はシンッとしており、一人なんだと嫌でも俺に思い知らせる。

冷たい水でしっかり眼を覚まし、歯ブラシを咥えながら今日の予定を思い浮かべた。
また、あの満員電車に乗り職場(学校)に向かう。
好きでもない仕事(勉強)に励み上司(先輩)や後輩の言葉に心のHPはすり減っていく。
はぁ。俺は何してるんだろう。

キッチンで朝食のコーヒーを啜りながら、テレビの音に耳を傾ける。
聞こえてきたのは某ウイルスや事件などの暗いニュースのみ。
スーツ(制服)に着替え俺の「行ってきます」は誰もいない自宅で木霊する。

駅までの道は昨日の雨のせいで濡れていて、俺の気持ちを表しているようだ。
改札口を通り抜けると駅員の「走らないでください」をBGMに俺も電車に駆け込んだ。

数十分壁とにらめっこしていたら、俺の戦場という名の職場(学校)の最寄り駅に電車が滑り込む。
このまま職場(学校)を休んで、どこか遠くへ行きたいと願っても叶うはずがない。

刻々と近づく戦場にため息を零しながら向かう俺は、勇者になれているのだろうか…。

おはようと周りに伝え、自分だけのスペースにカバンを置いた。
今日もまたペンという名の剣を振りながら、仕事(勉強)という名のモンスターを倒していく。

終業の音に今日もよく頑張ったと自分で自分を褒めてみる。
自分に甘い俺は、帰りに大好きなプリンを買って自分へのご褒美にしようと決め帰路につく。

帰りの電車は空いていて、偶然座れた席で俺はコクコクと船を漕ぐ。
夢にあと一歩でたどり着ける頃に
「声劇って知ってる?」「なりたい自分になれるんだよ」と興奮する女子高生の声が耳に残る。
声劇…。この変わらない毎日に楽しみができるのかな…。

駅に到着したらお目当てのプリンを購入し自分の基地を目指す。
その時には女子高生の言葉よりも、目の前のプリンに俺は夢中だった。

帰宅し夕食と入浴を済ませた俺は、黄色いあいつにスプーンを突き立てた。
口元まで運べば卵と牛乳の甘い香りが鼻を擽る。
口に広がる優しい甘さに、俺の頬はきっと緩んでいたと思う。

最後の一口を味わった後によみがえる『声劇』という単語。
携帯で調べてみると、沢山のアプリがあった。
誰でもライターやキャストになれるらしい。
ただ配信を聞くだけでも良い。
好奇心に負けた俺は恐る恐る一つのアプリを登録してみた。

そこには声劇やフリートーク。回答ボイス…。色んな機能があった。
ちょっとだけ…。とタイトルが気になるフリートークにお邪魔する。
自己紹介していないのに名前を呼ばれ驚いた俺は右上の×印を押してしまった。
そこからは色んな枠を出入りした、枠主の声やコメントの心地よい流れに俺はドンドンはまっていくのが分かる。
気が付くと時計の針はてっぺんを超えている。

俺のありきたりな日々は今日から変わる。
今度は俺が枠を立ててみようかな…。

おわり

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