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珈琲の話 〜その2〜

さて、どこまで書いたっけ?
読み返したけど、文書を書くって本当に難しい。あっ!これ書くの忘れたとか、余計なこと書きすぎた〜とか、大人になってから改めて自分の文書能力を知ると、本当小学生の頃から変わってないのだと実感する。(ちなみに小学生のころの国語の成績は5段階中2だった)
お手柔らかに見てください。

季節は夏、ちょうど大学4年の夏休みだった。
大学生のノリで、そこまで仲良くないゼミの男友達3人と1泊2日で旅行に行くことになった。旅行先を検討した結果、カキ氷と温泉を目的に、埼玉の秩父長瀞に決定した。(女子かよ)

とにかく計画性のない旅行で、目的地に行く以外は暇を持て余す時間が続いた。なかなかの苦痛だ。

ちょうど15:00ぐらいだっただろうか、街をひたすら散策していたところ、路地裏に一件の喫茶店を見つけた。夏の暑さで朦朧としていたところに突如出てきた喫茶店は、もはや秩父のオアシスにしか見えなかった。
みな言葉を発することはなかったが、何故かその時は全員アイコンタクトで「この店入ろう」と
いう感じになり、一斉に店に突入した。
この旅行で全員唯一、気持ちが一致した瞬間だった。

店に入ると、レンガ調の外観とヴィンテージのインテリア、古びた時計、そして焙煎したてのコーヒーの甘い香りが広がっていた。なんと素敵な。
まさに私好みの空間がそこにあった。
しかし、お客さんもカウンターにも人がいなかった。留守だろうか?

「すみません」と声を発したところ、奥から白髪で長身細身のマスターが出てきた。年齢は60代だろうか。ぱっと見出てきた時に、綿棒みたいな人だなと思った。

4人がけの席に案内してもらい、メニューを見る。
メニューには産地の違う5種類のコーヒーとワッフルなどの洋菓子が記載されていた。

夏場の暑い日ではあったが、私は喫茶店に訪れると決まってホットコーヒーを注文していたので
今回もそうした。(これも勉強のためとカッコつける。ちなみに他の野郎どもはアイスコーヒーを注文した。)

歩き疲れてて、4人で話すことも特になかったため、私はカウンターに座り、マスターがコーヒーを淹れている様子をじっと見ていた。

純喫茶ならではの、使い込まれたネルドリップを使い、銅製の細口ホットからゆっくりとお湯を注ぎコーヒーを抽出していた。コーヒーの香りが立ち、ゆっくりとした時間が流れた。(他の野郎どもも疲れきっていたのか、全員無言で1人は爆睡していた)

10分ほどして、マスターが全員分のコーヒーを持ってきた。私はインドネシア産のストレートを注文した。初めて飲むインドネシアのコーヒーだ。香りが強くチョコレートのような匂いだ。

飲んでみる。
えっ!? 美味しい!!!!

口当たりが柔らかく、酸味と苦味のバランスがとても良い。ブラックコーヒーなのにほのかな甘さを感じ、鼻から抜ける香りも爽やかだった。

今まで飲んだコーヒーの中で1番美味しかった。

冷房がほどよく効いた、BGMが流れていない店内でコーヒーの時間を楽しんだ。

コーヒーも飲み終えたころ、マスターがお冷を持ってきて、私に話しかけてくれた。
昔からそうだが、私は割と人から話かけられやすい。そういうオーラを出しているのだろうか。

「コーヒーお好きなんですか?」とマスター。
こんな年下に敬語なんか使わなくてもいいのに。

「ここ数年ですが、コーヒーを好きになって、色々と勉強してるんです。」と私。(不純な理由でコーヒーを始めた事はもちろん言っていない)「今日のコーヒーは、今まで飲んだコーヒーの中で、1番美味しかったです。」と正直な感想を伝えた。

すると、マスターは丁寧な口調で話し始めた。

「私はコーヒーに出会って40年近く経ちますが、初めて喫茶店でコーヒーを飲んだ時の感覚は今でも忘れていません。お店の雰囲気、マスターの人柄、そしてコーヒーの味。あのときの味を求めて今でも追及しています。あの瞬間、私はコーヒーに恋をしてしまったみたいです。」

素敵!!!!!なんとロマンチックな!!!!!
すこし照れ臭そうに、でもちょっと幸せそうに語ってくれたマスターの表情がとても印象的だった。

その瞬間「はっ」と気づいた。
うん?ちょっと待てよ??これは今の自分の状況と同じじゃないか???

自分の好きな空間。そして今までで1番美味しいコーヒーを飲み、マスターの人柄に触れている。
私も今まさに、若い頃のマスターが経験したそれを肌で感じている。鳥肌が立った。

マスターは続けて
「このお水を飲んでみて下さい。不思議な感覚になりますよ。」と言ってみた。
なんの変哲もない、普通の水だ。

飲んでみた。本当に衝撃だった。
水が甘かったのだ。
まるで砂糖水のような甘さだった。

「品質の高いコーヒー豆には、微量に糖分が含まれているんです。それが口の周りに付着して、水を飲むと甘く感じるんです。」
とマスターは言った。
そうなのか!面白い!普段飲んでいるコーヒーではそんなこと感じたことがなかったから、すごく衝撃だった。

その後も、マスターはコーヒーの知識や淹れ方について色々と教えてくれた。
豆の産地による味の特徴、抽出する際の粉の大きさや、お湯の温度による味の違い、器具別の正しい淹れ方などなど、話題は尽きなかった。
(その間野郎どもはスマホをいじっていた。1人はまだ爆睡していた)

気づけば店内に滞在してから、2時間が経とうとしていたが、感覚的にはもっと長く居たのではないかという感じだった。
それぐらい時間の流れがゆっくりだった。とても不思議な空間だった。

そろそろ宿に行こうと友人が席を立ち、お会計をした。お店を出る時に、マスターが一言。

「良いコーヒーに出会うことは、素敵な女性と出会うのと同じです。見つかるといいですね。
見つかったときは、またお店にきてください。」

どこまでロマンチックなんだ。。。でもそんな照れ臭そうに話すとマスターが大好きになった。
きっとこの人は、素敵なコーヒーに出会ったんだなと思った。そして自分ももっとコーヒーの事が知りたい、マスターみたいにとことん追及してみたいと思うようになった。

この店に来れて良かった。
幸せな気分で店を後にした。

あの後店名が思い出せなくて、ネットでお店の情報を調べたが、まったく出てこなかった。世にも奇妙な物語みたいな話だか、これが本当なのである。
※写真はお店の内観。知ってる人がいれば教えてほしい。

あの旅行からもう10年近くなるが、私はまだコーヒーを勉強している。マスターが淹れてくれたあのコーヒーの味は未だに忘れてないし、それを再現しようと日々奮闘中だ。

サイフォン、フレンチプレス、直火式エスプレッソマシンなどの器具を使い、器具別による味の変化を確認したり、数年前からは産地別で生豆を購入し、自家焙煎をしたり新たな挑戦を始めた。

下心からスタートした私のコーヒー生活は、日常を超え、一生モノの趣味となった。

いつか言っていたカフェを開きたいという夢も
あながち遠い未来ではないのかもしれない。
もしそうなったときには、マスターに会いに行って、またたくさん話をしたいな。

今日も焙煎した珈琲を淹れた。この投稿を書きながら淹れたところ、90℃のお湯が足にかかった。
熱い。

まだまだ、修行が足りませんな。

おわり。

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