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宇宙の風について

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遠い宇宙
薔薇星雲から音がする
ひゅおうひゅおうと風の音

星のねどこを突き抜けて
風は走り抜けていく
びうう びううと風の音

太陽系の展示室に
ひっそり置かれた緑の星へ
風はそのまま飛んでいく
知らない銀河の熱気を帯びて
狂った口笛吹いている

何もしらない幼い天使が
災厄の実を枝に刺して
皆に見せようとするように
新しい熱気にあてられて
緑の星にいくさがおこる
ごおう ごおうと音がする

赤い惨劇と気のふれた眼差しの中
風は疲れて滞る
無知な天使はもうおらず
壊されようとも死ねない息吹が
夢のあとを引きずり逃げる

燃え立つ砦を後にして
黒い波を見下ろし黙る
飽きたらない暴風雨のはらわたで
声を殺して風は吹く
どこへゆくのかわからないまま

遠い島の月夜の窓で
薔薇の刺繍のカーテン揺れる
ねどこのあるじはまだ幼くて
今宵の全てを知らないでいる

何光年の漂流の果て
少女の髪も揺らせずに
小さな流れはそのまま潰え
見えないものから見えないものへ
訪れるように消えていく

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キモ顔の哀れなノトス
常識もなければ優しくもないエレボス
チンケなエゴを剥き出したゼピュロス
世をすねた空っぽのエウロス
この世に渦巻く性欲の風は
無意味で滑稽で残酷で吐き気をもよおす。

その風が全て吹き出たあとエーテルだけが残る。
女への愛
生への愛

無垢なエーテルだけを捧げられたらどんなにいいか。
本当の罵り合いに耐えた二人
互いの無知と打算をあざ笑った二人
乾燥した営みをこなした二人
どうもしようがなくなった二人だけが
やっと気がつく宇宙の風
女への愛
生への愛

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町の噴水広場に みすぼらしい異邦人
君は何処から来た?
「凪の郷から」

この町の大人たちと
この町の子供たちに警告を
あの空の気まぐれさと
やがて降る止まらぬ涙に告解を

「近いうちに風が吹く。
葦はそそり立ち、風見鶏が軋む。
至天に薫る薔薇星雲の産道から
生まれる八百万の天使たちが
あなた達に降る紅蓮の雨を
窓を叩いて笑いに来るだろう。」

大人たちは驚かない
そんなことは知っている
飽きる程に繰り返された詩

そんなことより聞かせろよ
凪の郷から来たフーテンよ
お前の故郷の静けさは
果たして誰かの夢の跡?
それとも件の薔薇星雲?

災いの兆しよりも
理想郷の在りかを求めるその声に
街路樹の葉が密かになびいた

▶︎ 詩せる死人の酒場『バッカナール』

掲示板で使えるモンスターアイコンが増えるよ。