あなたの為の試行錯誤【#ガーデン・ドール】
ぼくの名前はヒマノ・リードバック。
ぼくは悩んでいた。
あるごせんせーとの約束を。
ラーメンパンを作る。
それはただ合わせるだけでは強みを消してしまうもの。
現にあるごせんせーが的あての景品として出していたラーメンパンは
ただそのままのせただけでべちゃっとしていて何とも言えない味だった。
…あれを改良するにはどうしたらいいか。
うーん、いい案が思いつかない。
そんな折、ロベルトさんがラーメン屋台を出していた。
これはぼくの奮闘のお話。
「ということでロベルトさんいらっしゃいますかー?」
ぼくはロベルトさんの屋台、通称めんどころへ来ていた。
目的はラーメンを食べること、それによってラーメンパンに繋がるアイディアを掴むこと。
「ヒマノ先輩、いらっしゃいませ!」
屋台の裏から仮面が顔を出す。
ロベルトさんだ。
まあ、まずは何か頼もうか…
そう思ってメニューを見ているとふと目に入るものがある。
りゅうこつ。
聞きなじみのない言葉だ。どんなものなのだろう。
食べてみることにした。
「承知しました。少々お待ちを…」
ロベルトさんがぱぱっと準備を始める...眺めていると、できたようだ。
「お待たせしました。竜骨ラーメンです」
「ありがとうございますー。」
そういってコインを渡す。
スープは…うん、独特な匂いがして、あまり食べない味な気がする。
…ずず…
「うーん、このスープがねっとりと絡みつく感じ…面白い味ですが…ちょっと癖が強いですねえ…」
喉にガツンと来る感じと、後味が残るこの感じ。
ちょっと心なしかドロッとしているようだし、麺に馴染んで味も染みてる。
悪くはないけど…ちょっとパンにはさむには癖が強すぎるかなあ…
「これをそのままパンにはさむのは…ちょっと…」
そんなことを言いながら完食。
ラーメンとしてはおいしいのだけど…うーん
「お粗末さまでした! 確かにこのままだと、パンに挟むのは難しそうですよねぇ…」
そうなんですよねえ…何かいい方法はないものかー。
…ラーメンをパンにはさむ…べちゃっとしないように…。
あ、そういえば。似たようなもの最近作ったような。
ぼくの頭にふととあるものが思い浮かぶ。
焼きそばパンだ。
炒めた麺にソースを絡めて、よく水分を飛ばしてから挟む。
…もしかしてこの手法なら解決するのでは?
そう思ったぼくはロベルトさんに注文してみることにした。
「ロベルトさん。ラーメンをもう一つ追加で。ただし、麺とスープ、それに具材を分けてください。スープはしょうゆとりゅうこつをコップ一杯分ずつくらいでいいです」
りゅうこつのみでは癖が強すぎる。そこでしょうゆのスープも混ぜ合わせて、味を調える。
それを麺に絡めて炒めれば…。挟むにはちょうどいいかもしれない。
「承知しました!」
「お待たせしました。全部で二コインになります」
ロベルトさんが注文通りに品物を出してくれる。
落とさないように慎重に持っていくことにしよう。
「はいー、こちらですー、ではいってきますねー」
ぼくはコインを払ってキッチンへ向かう。
-キッチンにて-
スープを味見をしながら配合し、ソースとして使うに十分な味ととろみになったことを確認した。
あとはこれを麺を炒めているところに少しずつ入れながら馴染ませて…
最後に細切れにしたチャーシューを入れ、さらに炒める。
これをパンにはさんで上に別で炒めておいた野菜をのせて…完成だ。
試作ラーメンパン。べちゃっとする問題は焼きそば…いや、焼きラーメンにすることで解決。
味についてはしょうゆとりゅうこつを合わせ食べやすく。
完成したこれはロベルトさんに食べてもらうことにして、パンに入りきらなかったラーメンをパンにのせて食べてみる。
…まだ調整は必要かもしれないが、これならおいしくできたといってもいいのではないか。
ぼくはキッチンを軽く片付けた後、グラウンドへと向かった。
-グラウンド 屋台前-
「ロベルトさんー、戻ってまいりましたー」
ぼくはパンをもってロベルトさんの元へ戻ってきた。
「ちょっとこちらを食べてもらえますかー?」
「おかえりなさいませ。新しいラーメンパン、ですか?」
頷く。そして説明する。
「そうですー。しょうゆとりゅうこつのスープを混ぜながら味を見て、それを絡めながら炒めたものですー。それにチャーシューを細かく切って混ぜて、上に野菜をのせてますー」
「なるほど……いただきます」
ロベルトさんが口に入れるのを固唾を飲んで見守る。
口に合うといいけれど…。
「これ、美味しいですよ。癖のあるりゅうこつスープとしょうゆのバランスが素晴らしいです。こうして具材と麺の茹で方で、焼きそばパンとも差別化できていると思います」
…よかった。うまくできていたようだ。
「おー、それはよかったー。味見はしていたのですが口に合うかは不安でー。」
「あと、これはロベルトさんが茹でた麺の加減がよかったのもありますー。ぼくたち二人の本気、ってやつですね」
…いや、ラーメンパンの案を含めると、アルゴ先生も含めて三人の、だろうか。
「えへへ。よかったです」
さて、早速これを食べてもらいたい人がいるわけですが…いるかな?
「あるごせんせーにも食べてもらいたいところですがー…呼んだら来てもらえますかねー?」
軽く屋台の方を見てみる。
アルゴ先生の影はない。
どうやらいないようだ。
「どうでしょう、ね」
そういいながらロベルトさんは追加で麺を茹でている。
…自分の分かしら?
と思っていたら湯切りが終わった麺と先ほどと同じくらいの量のスープを差し出してきた。
「はい。こちら、本番用です」
「あ、ありがとうございますー?」
驚いた。注文するつもりではあったけどもう準備をしていたとは。
ぼくが慌ててコインを取り出そうとしているとロベルトさんは手で制してきた。
「これは先ほどいただいたコインの分です。私がいただいた分は、試作ですから」
「いいんですかー?ありがとうございますー」
...正直少し気が引けたが、好意を無駄にするのも忍びない。
ぼくは軽くお礼を言って受け取り、その場を去ることにした。
「ではー、作ってせんせーのところにもっていきますねー。ありがとうございましたー」
「いえいえ。こちらこそ、美味しいラーメンパンをありがとうございました!」
よし、あとは一度作った経験をもとに作るだけ…
-アルゴ先生の部屋の前-
あの後キッチンへ向かい、ラーメンパンを作ったぼくはアルゴ先生の部屋の前に来ていた。
目的はもちろん試食してもらうためだ。
「せんせー、いらっしゃいますかー?」
パンをもっていない方の手でノックし、声をかける。
「はーいなのです」
すぐに返事が返ってきた。
アルゴ先生はぼくが手に持っているパンを見て察したようだ。
「ヒマノさん、それは……ラーメンパン、なのですよね?ロベルトさんの出店で何かしていたの見てましたなのですよ!」
…隠すつもりはなかったけれど、どうやら見られていたようだ。
せんせーには隠し事はできない、か。覚えておきましょう
「あらー、見られていたなら話が早いのです。試しに作ってみたので食べていただけませんかー?」
「もちろん食べますなのですよ!いただきます、なのです!」
ぼくがパンを差し出すと、先生は遠慮なくかぶりついた。
「……これは……」
…どうだろう、アルゴ先生はラーメンが大好きだ。
半端なものを出したら失礼と思い本気で配合を考えた。
口に合うといいのだけど…
そんなぼくの心配をよそにアルゴ先生はもぐもぐと味わうように噛みしめていた。
「とっっっても美味しいなのです!!!」
よかった。本当によかった。
もちろんラーメンパンを作ってみたいという興味もあった。
ただそれ以上においしく食べてほしい。
だからこそ、『美味しい』。
その言葉は料理を作るものにとって何よりもうれしい言葉で。
「…ほっ。口にあったようでよかったのですー」
「刻んだチャーシューと野菜も乗ってますし、麺もパンに合っていて美味しいなのです……」
ぼくは緊張を解くように息を吐いた。
…まあ、それはそれとして。
まだ美味しくできるはずだ。
何故ならパンとは無限の可能性だから。
ということで聞くことにしようか。
アドバイスを。
「…それで、ここをこうした方がもっとよくなる、とかありません?更においしいものとするためにー。」
「オレちゃん作のラーメンパンより圧倒的に美味しいので、非の打ち所がない完璧なラーメンパンだと思いますなのですよ!」
…うん、特にアドバイスはなかったけど喜んでもらえているならいいか!
「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいのですがー、ラーメンパンという発想はあるごせんせーから、ラーメン自体はロベルトさんのものを、そしてぼくはパンと組み合わせるためのバランスを。全員の本気を合わせてできたものなのでー、まだ美味しくできる余地があるのではないかとー、思っているわけです」
「みんなの本気……とても良いことなのですね!あとでロベルトさんにもお礼を言いますなのです。ヒマノさん、ありがとうございますなのですよ!」
「いえいえー。まあそれはそれとして、一旦はこれでよし、としておきましょうか。あるごせんせー、試食していただきありがとうございましたー。また食べたくなったら言ってくださいねー」
「ところで、このラーメンパン……作り方を教えてもらっても良いですか、なのです。オレの出店の景品として置きたいなのです!」
…あー、景品として出す。
それは確かに魅力的なのですがー。
あれ、コスト度外視なんですよねー。
冷えた時のことも考えていませんし。
まあ、作り方だけ教えましょうか。
「もちろん大丈夫ですよー、スープの分量がこれくらいでー」
そういって作り方を教えていく。
口に出して改めて思った。
これ手間がかかってるなあ…ちょっと量産には向いてないかも。
「…と、こんな感じです。美味しく作るコツは汁気を飛ばすことと味が濃くなりすぎないこと、ですよー」
「……想像以上に手間暇かかってますなのですね……オレちゃんの出店の景品にするか悩みますなのです……」
「景品にするかは置いといて、自分でも作って食べてみますなのですよ!」
景品として出てくるか、それはまあアルゴ先生次第として。
どんなアレンジを加えるかちょっと楽しみである。
「まあそこはおいしくするためにはある程度仕方ないのですよー。たくさん作れるわけではないのが難しいところですねー。」
その後少し話した後、帰ることにする。
「はいー。では、ぼくはこれで部屋に戻りますねー。」
「ありがとうなのですよ、ヒマノさん!レシピ改良したら教えてくださいなのです!」
「はいー。その時はまた試食をお願いしますー」
ラーメンパン。
パンとラーメンの可能性。
美味しいものに美味しいものをただ合わせるだけでは強みを消してしまう。
だからこそ手を加えて強みを生かせ。
…これは魔法にも言えることではないか?
…まあ、そこは思いついたときにでも試してみよう。
ぼくは上機嫌で部屋へと戻った。
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