ぼくの進むべき道を問う【#ガーデン・ドール】

ぼくはヒマノ・リードバック。
これは新しく来たアルゴ先生に疑問に思ったことを聞いた話。
そして…道を一つ諦めた話。

6月17日。

昼頃、先日ガーデンに配属された新しい教師AI:アルゴ先生が今はもういないグロウ先生との会話を校内放送で流していた。

ぼくはゆっくりとそれを聞いていたのだけど、その時気になることを言っていた。

『オレは教師AIなのです。ほとんど何でも知っていますなのです。』

…確かにせんせーを始めとする教師AIはガーデンのことについてよく知っていた。
ただ、無機質なそれに質問しても正確に返ってくるとは思えず、そもそも質問するにはとあるミッションを達成する必要があった。
…アルゴ先生には前に質問してみたことがある。
確か生徒指導の役割とは何か、と聞いたはずだ。
その時は成長できるようにいい感じにサポートすることが仕事と言っていたような、気がする。

…少なくとも端末のせんせーよりは話ができるし、ダメ元で聞いてみよう。ぼくの今考えていることを。
それは、ミッションを達成したら聞こうと思っていたこと。

そう思ったぼくは夕方、アルゴ先生の部屋に行き、質問した。

「せんせー…あるごせんせーは何でも知っているのですかー?…知っているとしたらぼくの知りたいこと、答えられる範囲で答えていただけませんかー?」

まずは質問していいか聞いてみる。

「大体のことは知ってますなのですよ!オレちゃんが答えたいと思ったら答えてあげますなのですよ〜」

うん、気分次第ではあるが答えてもらえそうだ。
心の中ですべて終わったら好物のラーメンでも作って持っていこうと思いつつ…続ける。

「…マギアビーストとドールの違いは何なのでしょうかー?わかりあうことはできないのですか?」

これはぼくが常々思っていたこと。
アルスさんはとある力によるものとはいえ、意思疎通ができていたぼくの好きな存在。
マギアビーストだった存在。
色々と動いた結果、願い叶わず成体となり…討伐することになってしまった、存在。
もしそうなる前にわかりあうことができたなら…今でも話をすることができたのだろうか。
流れ星を一緒に見ることが、できたのだろうか。
時々、そう思う。

ぼくのその問いに、アルゴ先生はいつもの調子で返す。

「マギアビーストとドールの違いは見た通り、化け物と生き物なのです。分かり合えると思いますか?なのです」

化け物と生き物。マギアビーストが化け物で、ドールは生き物。
...違う存在だから、分かり合えない。確かに成体となった後は会話も成立しなかった。
わかっていたことだ。
ドールとマギアビーストだから…ダメだとするなら。
ぼくが同じ存在、あるいはそれに近い存在なら…意思疎通ができ、逃がすことはできたのだろうか。
そして…ふと思い立ったことを聞いてみる。

「やはり、違う存在だから無理、ですか…そもそも生きていない、と。…そのままわかりあうことができないとしたら…せめてぼくたちドールがマギアビーストになる、あるいは似たような存在になることはできるのでしょうかー?…例えばドール自身で異常を制御することは可能か、とか」

これも考えていたこと。
なんらかの方法でマギアビーストになることができたら。
アルスさんと同じマギアビーストになれたら。
…違う未来もあったのだろうか、と。

「ドールはマギアビーストになれますなのですよ。勿論マギアビーストになった瞬間、キミはもうヒマノ・リードバックではなくなりますなのです。浮遊魔機構獣ヒマノパンマツリみたいな名前になって、姿形もすっかり化け物になって、ドールを襲うだけになるでしょう、なのです」

…返ってきた答えは、思ったものとは違って。
されど希望などなくて。

…どうやらマギアビーストになることはできるらしい。方法はわからないけど。
ただそうなった場合、生き物から化け物へ変わることになる。
ぼくではなくなる。
マギアレリックが壊れて別の存在となるように。
元には…戻れないのだろう。

もし、可能なら。ぼくはマギアビーストになりたかった。アルスさんと同じ存在に。
でもそれは成った時点でぼくではない。
ガーデンの仲間を、傷つけることになる。
そして、倒され…物言わぬ道具となる。

マギアビーストか、ドールか。
どちらかを選べばどちらかを敵に回すことになる。
…この未来は選べない。
少なくとも、今は。
何よりそうしたとしても失ったものは戻ってこないから。

数刻、考えるように黙り込んだ後、言葉を整理し…紡いだ。

「…なるほどー。ありがとうございますー。正直答えが返って来ないと思っていましたー。ちょっと踏み込みすぎたかな、と。
…自分がなくなるのはいやなのでそっちの方面を追うのはやめておきますー。」
…何より、ぼくにはまだ情報が足りない。
マギアビーストとはなんなのか、ドールは何のために作られたのか。
そして…『この情報にはプロテクトがかかっています』。

それを知るまでは。
歩みを止めるわけにはいかない。
ぼくの今知りたいことをすべて教えてくれたアルゴ先生には感謝しかない。
だから…

「お礼に、ラーメン作りますよー、スープは何がいいですかー?」

得意な料理で返すことにしよう。

「醤油ラーメンが良いなのです!!」

「はーい!ではできたら呼びますのでお待ちくださいー。」

ぼくはアルゴ先生の部屋を出て、ラーメンを作るためにキッチンへと向かった。
折角だし、麺とスープから。

…喜んでくれるといいのだけど。

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