流れ星に思いを馳せて【#ガーデン・ドール】

6月15日。
その日、ガーデンにいたマギアビーストの討伐が確認された。

ガーデンからの通達により、ぼくたちは避難所からすぐさま移動することになった。
これはその時の一幕。

「ロベルトさんー、いきましょうかー」

ぼく、ヒマノ・リードバックは花の入った花瓶を抱えて移動する。
ロベルトさんが寮から持ち出したものはあまりにも多く、一人では大変そうだと思ったからだ。

「…ええ、参りましょう」

荷物をまとめ、もはや仮面でしか判別できないくらいに荷物を抱えたロベルトさんと共に
避難所としていた美術館を出る。

…いくらか歩いた頃。
ふと空を見上げるといつからか欠けるようになった月の隣を、光るものが駆け抜けていった。

「…ロベルトさん、空を見てください」
「なんでしょうか…おや。」

通知を確認する。流れ星が観測されるようになった。

「これが…流れ星というやつですか」
「グロウ先生が、見たいと仰っていた……」

ロベルトは空を見上げて立ち尽くす。上下に歪んだ仮面の口から、ぽつりと言葉が漏れた。

「どうして、今なんですか。どうして、今更……」

グロウ先生が来た時、ガーデンから通達されたミッションの中に流れ星を探そうというものがあった。
ぼくは特に実行に移す機会がなかったので気にしていなかったが、
このタイミングで流れるようになったということは…

「元々は流れ星なんてなくて、マギアビーストが討伐されたことにより概念が生まれた…
そう、海や月の満ち欠けのように。そういうことですか」

マギアビーストを討伐することにより箱庭に新たな現象が起きることがある。
月の満ち欠けに、海の出現。…今回の流れ星もそのパターンのようだ。

「なるほど?…ということは見えもしない流れ星を探すことをミッションとしていたわけですか。ガーデンは」

まったく…いつものことながら趣味が悪い。
どうしていつもそうなのか。
…いやまあそういうものと思っておくしかないだろう。
ガーデンの意図なんてぼくらドールがわかるわけもない、今のところは。

「しかし綺麗なものですねー。…アルスさんが見たらどう思ったのでしょうねー」
「……どうでしょう」

案外、食べ物でもないからどうでもいい、と思っていたのかもしれない。
ロメリアさんはどうだろう?
…まあ、わからないか。
そして...思い出してしまう。今までのマギアビーストについても。

「…今回のマギアビーストもそうですが、ぼくたちは倒すことでしか止める手段が存在しない、それがどんなに辛くても。苦しくても…どうしてここはこんな感じなんでしょうね。」
「……」

この世界はあまりにも理不尽で、不可逆で。どうしようもなくて。
それでも。

「だからこそ知りたい…ぼくの持てる手段をすべて使ってでも。」

ぼくは改めて決意した。マギアビーストとは何なのか、どうしてここに生まれてくるのか。それを知ることが何かにつながると信じて。

「…足を止めてしまってすいません。帰りましょうか」
「いえ、ありがとうございます。丁度いい休憩になりました」

そういって再び歩き始める。
その表情は…どこか寂しげだった。


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