インド哲学、五火ニ道説

【輪廻】
 輪廻は、サンスクリット語で「サンサーラ」と言います。サンサーラの語源は「歩き回る」です。輪廻は、始まりのない循環だとされています。その主体となっているのが、自己の内側にある「アートマン」と呼ばれる固定的な実体です。そのアートマンが、主客対立の原因ともなっています。輪廻の世界観では、生命は、常に生まれ変わっているので、厳密には、死後の世界というものがありません。例えば、地獄などもこの世の一部にすぎないとされています。輪廻の思想は、王族「クシャトリア」によって、教え伝えられてきました。もともとは、アーリア人以前の先住民族の宗教だったとされています。
 輪廻は、ウパニシャッド哲学の思想です。ウパニシャッド哲学では、輪廻の他に「霊魂不滅」や「カルマ」の思想が説かれています。それらは、カースト制度を支える思想となりました。

【カルマ】
 輪廻の原因とされるのが業「カルマ」です。カルマは、もともとは単なる「行為」のことだったとされています。そのため「良い」や「悪い」という意味合いは、ありませんでした。カルマ「行為」は、果報と対になる言葉だとされています。果報とは、行為によって招かれる結果のことです。前世での行いも、現世で受ける環境に影響を与えるとされてます。カルマによって生じる次の行為とその結果は、次から次へと連鎖的に起こるものとされました。
 ある行為を行なった後、その行為の結果が自分に返ってくることを「因果応報」と言います。因果応報説は、輪廻の思想とセットで展開されました。インド占星術やヴェーダ哲学の根底には、この因果応報説があるとされています。不滅の霊魂「アートマン」が、さまざまに姿を変えて生まれ変わるのは、因果応報の法則に従っているからです。それは、行為というものを超越しないかぎり、終わらないとされています。

【五火二道説】
 ウパニシャッド哲学では「五火二道説」という輪廻思想が説かれています。五火二道とは「二つの道」と「五つ過程」のことです。その二つの道は、善行をした者が辿るとされています。そのひとつが「祖道」です。祖道では、祖霊たちの道をたどって月の世界に行き、そこから、この世に人間として再生するとされています。五火とは、再び人間に生まれるまでの五つの過程のことです。

五火の過程
①人は、死んだら火葬され、月の世界に行くとされています。
②月の世界で、雨となって、再び地上に降りてくるとされています。
③その雨は、植物に吸収され、植物の種子になるとされています。
④男性が、その植物を食べた場合、体内で精子になるとされています。
⑤男女が交わることで、その精子が女性の胎内で胎児となり、月満ちて、この世に再生するとされています。

 二道のもう一つの道が「神道」です。神道「路」では、梵天界に達するとされています。梵天界とは「ブラフマーの世界」のことです。そこで、アートマンは、ブラフマーと合一するとされています。ブラフマーと合一したものは、もはや再生しまん。それを解脱「悟り」と言います。解脱とは、ウパニシャッドにおける理想の心の境地で、人生における最高目標とされました。

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