龍とナーガ

【龍】
 仏教の龍は、インドのナーガがモデルです。ナーガは、漢字表記では龍ですが、中国の龍とは異なり、インドコブラの神格化だとされています。一般的なナーガは、上半身が人間で、下半身が蛇の半身半蛇の蛇神です。そうした蛇神に対する信仰は、インド土着のインダス文明の頃からありました。ナーガは、水中に住み、雲や雨をもたらす水の神だとされています。その住み家は、地下世界のバーダーラ王国です。バーダーラ王国の諸王をナーガラジャと言います。ナーガラジャは、仏教に取り入れられて、龍王とされました。法華経で、釈迦が悟りを開いた時、その教えに耳を傾けたのが八大龍王です。八大龍王には、仏法を守る役目があるとされています。龍は、天龍八部衆の1人です。興福寺の沙羯羅「さがら」像も龍だとされています。沙羯羅とは、大海という意味です。そのため、龍宮の王だとされています。

【ナーガ】
 ナーガは、ブラフマーの子「カシュヤパ仙」と、造物主プラジャパティの娘「カドゥルー」の子供です。カドゥルーは、1000個の卵を産みしました。その卵から誕生したのがナーガ族です。カシュヤパ仙は、カドゥルーの妹「ヴィナター」とも結婚していました。そのヴィナターが産んだ2個の卵から、誕生したのが暁の神とガルーダです。ガルーダ「迦楼羅」は、ナーガを食う天敵とされています。カドゥルーは、契約によって、ヴィナターを500年間奴隷にしていました。しかし、ガルーダが、ヴィナターを解放したので、ナーガ族の優位性は失われたとされています。
 カシュヤパ仙とカドゥルーの間に生まれた1000人のナーガの1人がシェシャです。シェシャも、ナーガラジャの1人とされています。乳海攪拌の時、シェシャは、マンダラ山を回転させる綱の役割を担いました。しかし、苦しみのあまり毒を吐き、世界を滅ぼしかけたとされています。その毒を、飲み込んだのが破壊神シヴァでした。そのため、シヴァは、首から上が青黒くなったとされています。シェシャは、八大龍王の1人です。別称を「九頭龍王」と言います。九頭龍王「くず」の九は、数が多くて強力という意味です。

【アナンタ】
 シェシャは、世界蛇アナンタと同一視されています。アナンタとは、シェシャが、自らの尾を咥えた時の名称です。その名前の由来は「無際限」や「永遠」です。アナンタは、1000個の頭を持ち、その千の頭で、大地を支えているとされています。この世が始まる前の「原初の海」と、世界が終わる時には、ヴィシュヌとアナンタだけしか存在していませんでした。そのため、アナンタは「原初の龍」だとされています。原初の海では、ヴィシュヌの船の代わりをしました。アナンタには、ヴィシュヌの日よけと寝台としての役割があったとされていいます。一説では、アナンタの大きさは、宇宙と同程度です。その宇宙を破壊することがアナンタの役目だとされています。また、地下世界の最深部で世界を支えているともされました。アナンタは、叙事詩のマハーバーラタでは、クリシュナの兄「バララーマ」に、ラーマーヤナでは、ラーマの弟「ラクシュマナ」に化身したともされています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?