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小樽・札幌ゲーセン物語展 Web版7「小樽文学館・館報掲載文」

下記の文章は、令和3年3月31日発行の市立小樽文学館報・第44号に掲載されたものを、小樽文学館の許諾を得たうえで掲載しています。

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 『小樽・札幌ゲーセン物語展』の企画に携わりました藤井と申します。2012年開催の『テレビゲームと文学展』、2014年開催の『ボードゲームと文学展』に続く3回目のゲーム展となりました。

 ボードゲームと文学展終了後、ビデオゲームをテーマにした展覧会を再度行ないたいと思いながら、なかなか実現できずに時間が過ぎていきました。大きなきっかけとなったのは、2020年1月に開催された文化庁メディア芸術祭・小樽展。小樽文学館も関連イベント会場のひとつとなっていました。オープニングイベントで来場者から「ゲームセンターを復活させたい」という要望があったと小樽文学館・玉川館長から聞きました。たしかに、かつてビデオゲーム文化の中心地であったゲームセンターは2010年代以降、大きな様変わりを余儀なくされていました。ゲームセンターそのものは、まだかろうじて残っているものの、店舗数のピークと言われる1990年代中期からその数を大きく減少。また店内に置かれているゲームも、かつてのビデオゲームは大型の音楽ゲーム(音ゲー)くらいで、UFOキャッチャーに代表されるプライズゲーム、メダルゲームといったものがメインとなっています。かつてのゲームセンターは、今の世の中でほとんど消えかかっているのです。

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 それでも昔ゲームセンターで親しまれていたレトロゲーム・クラシックゲームの一部は現行の家庭用ゲーム機やパソコンなどでダウンロードして楽しめます。レトロではないビデオゲームの新作も家庭用ゲーム機、パソコン、スマホでリリースされています。個人レベルで制作されたインディーズゲームも多くリリースされており、ビデオゲームそのものはまだ健在です。コロナ禍の2020年では家で楽しむツールとしてビデオゲームは大きく再注目されました。しかしゲームセンターという「場」は大きく変化しており、道内随一のクラシックゲーム設置数を誇っていた「スガイディノス札幌中央店」が2019年に閉店したことは、その大きな象徴のひとつとして多くのゲーマーに捉えられていました。前述の「ゲームセンターを復活させたい」というメディア芸術祭・来場者の声もそのひとつです。そして2020年からの新型コロナウィルスの影響は現存するゲームセンターにも大きな打撃を与えています。

 こうした状況からわたしが認識したのは、かつてのゲームセンターが文化として消えていこうとしているのだということでした。それは「博物館で保存・展示される対象」になったという認識にも繋がります。小樽文学館で最初に開催した『テレビゲームと文学展』は、地方の文学館でビデオゲームをテーマにした展覧会を行なうというある種のギャップ感を売りのひとつにしているところがありました。しかし今回の展覧会は博物館としての王道・スタンダードとなる内容です。そのため奇をてらう必要はなく、博物館本来の発想でゲームセンターについての展覧会を行なえばいい。こうして後に『小樽・札幌ゲーセン物語展』と名付けられる展覧会の軸が決まりました。

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 ゲームセンターが最も盛んだった1980~90年代。当時のゲーセンで使われていたポスターやチラシといったグッズ類を集めて展示できないか。そういったところから展示企画の模索がスタートしました。この時点では、わたしの友人が所有しているゲーム基板を借りられる目途は立っていたものの、その基板で実際にゲームをプレイするというところまではまだ現実的になっていませんでした。先行き不透明のなか始まった企画ではありましたが、その後幸運にも、そして必然的に協力者は増えていきました。人づてやSNSでの呼びかけが功を奏した形ですが、ここまで多くの人に協力いただけたのは「かつてのゲームセンターが消えていく」という喪失感が強く共感されるものになっていたということが大きかったのだと思います。展覧会の意図を詳しく説明しなくても、協力してくれた全ての人にすぐ理解されたということは、自分の中で強く印象に残っています。

 展示品収集の過程で、基板と共に実際にゲームをプレイするために必須であるゲーム筐体が借りられることになったのは本展において、かなり重要なものでした。「実際にアーケードゲームをプレイできる」という要素は、多くのゲーマーが抱えるゲーセンの喪失感に応えるものとなります。前述のとおり、当時のアーケードゲーム自体は現行のゲーム機などでプレイできます。しかし、ゲーセンで青春時代を過ごしたゲーマーにとっては、当時と同じゲーム筐体でプレイできることに大きな意味がある。それは音楽が配信で聴くことができるようになった現代においても、当時のプレーヤーでレコードを聴きたいという思いと本質は同じです。電子書籍ではなく、紙媒体として本を読みたいという思いとも一緒でしょう。約40年というビデオゲームの歴史が、そういった音楽や書籍と同じ意味合いを持たせるようになったのです。

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 実際にプレイできるゲームの展示というところに注目を集めがちな本展ですが、それ以外の展示物にも大きな意味合いがあります。ポスター、チラシ、パンフレット、関連グッズといった当時の販促・広報アイテム。当時のゲーマーたちにとって重要な情報源だったゲーム雑誌。早い段階からゲーム愛好家たちの間で制作されていた同人誌。ビデオゲーム文化を多様なものにしたゲームミュージックの音源(レコード、カセットテープ、CD)や映像媒体(ビデオ、DVD)。こうしたものを多数、展示できました。これらは、わたしを含めて個人的なコレクションを借りています。1980~90年代のアイテムとなりますが、これらはインターネットがない、あるいは一般的に普及していない頃のものです。これはビデオゲームに限らない話ですが、インターネットがない時代、そこに暮らす人々はどのように情報に接し、それを他者と共有していたか。わたしを含めて当時を知る者にとっては当たり前の話ですが、インターネットがあらゆる場面で活用され、ネット無しでは社会が成り立たなくなっている現代において、インターネットが無かった時代の人の暮らしについて当時を知らない人にはイメージが難しいのではないか。そうであれば、当時の様子をしっかり記録していく意義が強まっていると言えます。例えば80年代のゲーム雑誌は月刊誌が多く、来月号を入手するまで同じ誌面を何度も読み返すことが普通でした。それは現代のようにネット上で大量の情報が流れてくることがなく、SNSで隙間の時間が埋まることもない環境だからできたことです。何度も読み返すことでどうなるかというと、例えばそれほど関心のない情報でも知識として蓄積されていきます。そして情報源となる雑誌などのメディア数は限られているので、同じレベルの情報が不特定多数の中で蓄積され、それが自然と共有されやすかった。こういった要素も本展の開催にあたって当時のゲーマーの皆さんから多くの共感と協力を得られやすかったことに繋がったのではないでしょうか。そうした「時代の変化」を鑑賞者に感じてもらえる展示になっていることも特徴のひとつです。

 かつて札幌市内のゲームセンターの店長をされていた方の協力を得られたことで、当時のゲーセンで使用されていた「ゲーセンノート」をお借りして展示することができました。ゲーセンを訪れたゲーマーが思い思いにノートに書き込みをする。今ハマっているゲームの攻略や新作ゲームへの期待。マナーやゲームへの向き合い方についての議論。文字だけではなくイラストを描く人や、ゲームとは関係ない雑談や日記的なことを書き込む人もいました。これらもSNSが普及した現代ではネット上で行なわれることですが、当時はノートへの書き込みとして行なわれました。ネットが一般的ではない時代に、どのようなコミュニケーションが行なわれていたかを知る貴重な資料と言えます。

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 ビデオゲームの歴史が40年を超えたことで、文化としてのビデオゲームを記録・保存する意義が強まっています。それに気づいた80~90年当時にゲームメディアに所属していた人たちは、すでにゲーム文化保存の活動を始めており、本展のバックアップもしてくれました。小樽文学館で『テレビゲームと文学展』が開催されてから、ビデオゲームをテーマとした展覧会も増えています。わたし自身、本展の企画に携わったことで、こうした取り組みを今後も可能な範囲で続けていきたいという思いが強まっています。幸いなことに次のテーマが見えてきており、それは家庭用も含めたビデオゲームに関する書籍(雑誌・攻略本・同人誌)にフォーカスしたものです。そうしたゲーム書籍をテーマにした展覧会を小樽文学館で開催する検討が始まっています。


■ 小樽・札幌ゲーセン物語展_Web版 バックナンバー
https://note.com/hilow_zero/m/md0bdc74a1814

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