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【HILLOCK✖︎ミロアートラボ】220615【梅雨の季節に】偶然のであいを寿ぐまなざし


この日、ミロは遅刻をしました。

梅雨の真ん中だったこの日、ヒロックの小さいそうぞうびとたちと梅雨の話をしてみたいなと思い、梅の実を買っていこうといそいそとヒロックへ向かう電車に揺られていた。
うっかりしてひとつ前の駅で降りてしまった。そうしたら、そのあと15分も電車が来ない。 梅の実も買えずに大急ぎで駅からヒロックまでの道を走って汗だく。

「こんにちはー、遅れてごめんね」と扉を開けると、
あーミロさんだー。ミロさーん。こんにちはー。待ってたよー。わーいミロさんだー。といろんな声が飛んでくる。 その声のどれもが、ミロがきたことを寿いでいる。

ゼェゼェしながらみんなが円座になって座っている輪の中に座る。
Hちゃんが「ミロさん、マスクとって大丈夫なんだよ。お水飲んでいいよ」と声をかけてくれた。

優しい。

見渡すと、全員の目がワクワクに満ちてこちらを見ている。 誰ひとりとして、遅れたことをこれっぽっちも責めてはいない。 ただ【ミロさん】が来たことを喜んで迎えてくれている。
小さいひとたちに伝える言葉が違っていたことに気がつかされるまなざしに押されて 「待っていてくれてありがとうね」とゆっくりと声に出した。

今ここに、みんながいて、ミロがいることをただ彼らが受け入れている。 「なぜ遅れたのか」過去のことを聞くひとがひとりもいない。
なんとなく用意していた言い訳のようなものを、お水と一緒に流し込んで、それでおしまい。
ヒロックのちいさいそうぞうひとの柔らかなやさしさにふんわりと包まれて、この日のヒロックのそうぞうびととの時間が始まる。

梅の実がないのだけれど、梅雨の話をする。雨の絵画作品を画面にうつして見ながらみんなで話す。

雨といってもいろんな表現がある。「何が描かれているいちまいでしょうか?」と聞くとそれぞれ発見がある。 Iちゃんが、「道路が鏡みたいになって、電気の柱が道路にうつってるから雨が降ってるってわかる。
雨が降ってると道が鏡みたいになるんだよ!」と教えてくれた。日常の中の景色をよく覚えているんだなとわかる。

別のいちまいでは、雨を通じて、いのちの育みまでもが語られる。小さいひとたちはナラティヴだ。作品を自分ごとに引き寄せて物語を紡ぐ。それまでに彼らが体験したささやかな出来事の積み重ねに下支えされて、その物語たちは紡がれる。
対話型鑑賞のあとは、水を使って表現する。この日は絵の具を用意していた。特にテーマも課題もない。戸惑いながらスケッチブックへと手を伸ばすひとたち。テーブルに向かってスケッチブックに向かっての活動。


黙々と手を動かすひともいれば、キョロキョロと同じテーブルのひとの様子を伺うひともいる。
「どうしたらいいか決まらなくて困っている」状態と(おそらく大人なら)判断する環境。その宙ぶらりんの所在なさを受け入れて、身体を動かして「何か」を模索するひとたち。
答えのない時空に耐え、自分なりの表現を模索して世界へと置いていく。この瞬間に育まれるものがある。ネガティヴケイパヴィリティーと呼ばれる力だ。
少しした頃、とある子が「もうこういうのつまんない!絵とか好きじゃない。もう飽きた。工作したい。もうこれ飽きたしつまんない〜」と気持ちを伝えてくれた。それを受けて、シェルパの与平さんが言った。
「あのね、ぼくさ、音楽つくるじゃん。そういう時さ、偶然が面白いんだよね。音楽作ってると、こうしようって自分がつくったんじゃないリズムとかの発見があるんだよね。それが本当にきれいだったりするんだよね。ほら、こことかよく耳を澄まして見てごらんよ。与平さん、こことかすごいきれいだと思うんだよね。そういう偶然との出会いが好きなんだよね。」

そう言いながら与平さんが指差した、その先を覗き込んだ男の子が言った。
「わぁ、宇宙がうつっちゃった!」
小さな水の膨らみに発見された小さくて大きな宇宙との出会いから、場の空気が変容を見せる。おそらくは彼らの中に流れるフモールの質が変わって、それが空間にシナジーを生んで広がっていく。


それぞれに、画面の上にあわられでた「水と絵の具と部屋の空気や窓から入り込む風、それから自分の息やもちろん動かした手の軌跡の」奇跡に驚きを持って出会っていく。


「ねぇ見て見て!ここ!虹!」
「ここ見て見て!すごいきれい」
「混ぜたらこんな色になった!」
「こすったら、雲みたいになったよ!」

少しばかり用意していったごく身近にある生活用品。例えば、ストローとか、綿とか、綿棒とか言ったものを片っぱしから使って、手の届く範囲にあるありふれたものからまだ見たことのない表現を生み出していくひとたち。


それぞれの偶然とのであいの発見の驚きを誰かとシェアしたくて、彩が共鳴する。 「見て見て!面白い!」とひときわ大きな声をあげてくれたのは、さっき「つまんない〜」と伝えてくれたひと。 見にいくと、ストローを使って、絵を描く道具をつくっていた。 特別な道具がなくても表現はできる。 小さいひとは、ささやかでとるにたらないものに心の手を伸ばし、工夫して世界を楽しむまなざしをしっかりと携えている。


偶然の「今」との出会いを面白がるまなざしが世界を寿ぐことを、今日もヒロックのちいさなひとから教えられました。 さて、7月は何しよっか。 「今日は個人個人で別々だったから、今度はみんなで何かつくりたい」と伝えてくれたひとが何人かいた。
それもいいよね、みんなでだからこそできること、7月はそれをしよう!
また来月も楽しみです。

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