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[4]ロシア軍のトラック軍用中国製タイヤ ~オープン・ソースから考える中国のサイレント・インベージョン

ニュースの概要

ロシアによるウクライナの侵攻があった4月頃に、中国製タイヤを使った軍用トラックが立ち往生してしまうという話題が上がっていました。

ウクライナ侵攻、ロシア軍の苦戦原因は「中国製の安いタイヤ」だった?
https://merkmal-biz.jp/post/9140

Merkmalより

この話題を見たとき、安全保障上、今後問題があるのでは無いかと考えました。今回はこのニュースについて考えていきます。今回もマニアックな内容になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

立ち往生の2つの原因

①鹵獲したトラックからタイヤが劣化しているという情報
②「乾燥路ではそこその性能を発揮するようだが、泥沼状態だと性能が大きく落ちる」という証言

タイヤの劣化について考える

劣化について気になっていたのが、気温です。よっぽどロシア軍が酷い使い方をしない限り、通常の軍用タイヤであれば劣化による破損をするとは思えません。軍用であるため、普通はヘビーデューティーである前提でタイヤ設計をしているからです。
ウクライナの侵攻は2月24日でしたが、あの時期に起こった理由として北京オリンピック期間中を避け、凍土が溶ける前のギリギリのタイミングであったとされています。パラリンピック終了まで待つと凍土が溶けてしまうのでオリンピック終了~パラリンピック開催前の間に電撃的に作戦を終えるという計画だったということです。そして、侵攻前には演習という形で国境付近に部隊を配置させていました。侵攻時のウクライナの気温は-5~-10度程度。非都市部で放射冷却などを考えると-10~-20度だったと考えられます。また、演習はそれよりも寒い時期で有ったため、-15~-25度前後での長期間の演習という形でタイヤにストレスが掛かっていたことが推定できます。
ゴムの種類や添加剤などの配合によって変わってきますが、一般的に天然ゴムは0度付近から低温になると急激に伸びにくくなります。ゴムの破断は伸びに関係するのですが、低温であるほど伸びにくく切れやすくなります。食品に輪ゴムをしたまま冷凍庫に入れて、切れてしまったという経験がある方も居るとおもいます。
つまり、タイヤの主成分である天然ゴムにとって厳しい温度環境に加え、演習や実践というタイヤへの負荷により小さな亀裂が多数発生してしまったのでは無いかというのが私の仮説です。そして、気温が上がり凍土が溶け始めた始めてきた3月下旬頃、スタックしてしまう車両を動かすために空気圧を下げて接地面積を増やそうとする際に亀裂が伸展し、駆動力を掛けた際にパンクしたのでは無いかと思います。

湿地路面への食いつき

ラフロードの場合、ブロックパターンによる影響が大きいはずなのですが、ミシュランのデッドコピーでブロックパターンは一緒なのです。ということは、証言が正しければ乾湿差は材料によるものとなります。スタッドレスタイヤなどでは、路面にできる薄い水の膜による摩擦係数の低下を防ぐために材料を工夫しているものもあります。全く配合を気にせず、それこそサマータイヤの材料をそのまま使っている可能性すらあります。

値段からの考察

今回、問題が起きたとされるYellow Sea製タイヤとMichelin製のXZLシリーズという軍用トラックタイヤの市場価格を調べてみました。同じサイズ同士で実に4倍以上の価格差があります。この価格差は、開発費の差だと思って間違いないと思います。
材料費だけでは4倍の差は出ません。材料費に差が有ったとしても数十%のレベルだと思います。軍用トラックタイヤは乗用タイヤほど数がでません。つまり、タイヤ一本当たりで負担するべき開発費や設備投資費が大きくなります。設備投資費でそこまで大きく差が出ることは考えにくいため、開発費しか無いわけです。
タイヤに必要な技術は大きく3つになります。
①ブロックパターン設計技術
②構造設計技術
③材料設計技術
物創りはトライ&エラーの繰り返しになりますが、1番開発費が大きく掛かるのは①のブロックパターン設計になるでしょう。試作の場合、昔は職人さんがタイヤの溝を掘っていました。(今はどうなのかは知りません。)金型作成にお金も時間も掛かるためなのです。幾つものパターンを試してブロックパターンが決まります。②の構造設計に必要な金型は①よりは小さく少なく済みます。③の材料設計の場合、個別の調整よりは全体でのラインナップの開発に占める割合が大きいように思います。
少し話は逸れますが、中国のコピー技術は色々な意味で凄い物があります。3Dスキャナーを使って形状をデジタルデータにしてしまいコピーするのです。恐らくYellow SeaもMichelinのタイヤを3Dスキャンし、サイドウォールのタイヤのロゴマークなどをデジタルデータ上で書き換えて、金型を作っているのだと考えられます。驚くのは、それぞれの形状の意味を考えずに丸ごとコピーしてしまうこと。3Dスキャンで読み取れない、内蔵されている部品などは無視してしまうため、全く性能が違う物になるのです。その様な猿真似製品を幾つか見て目が点になったことがあります。同様にスキャナなどでコピーできない製品は、コピーの出来が悪かったりします。鋳物や樹脂などの型に流し込むものは、それなりにコピーできるわけです。ただし、材料の収縮にノウハウが無いので全く同じ形状にはなりません。
ですから、Yellow Seaは①に掛かる費用は殆ど無いため、安くできるわけです。そして、②も③も殆ど真面に設計せずに技術供与してもらった(或いは非合法で入手した)サマータイヤの構造や材料をそのまま使っていることは想像に難くありません。そりゃー安くできるわな、ということです。因みに彼らはバイクだけでなく、エンジン以外の車1台丸ごとコピーします。我々の尺度で考えてはいけません。

今後の予想

彼らの欲しがるもの

パンクの原因も、ゴムの配合に起因する物だけでは無く、プライやスチールコードと呼ばれるタイヤの構造物が真面目に設計されていない可能性があります。つまり、上記②③の構造・材料設計技術が課題となります。ロシア軍からも相当なクレームが来ているはずですし、人民解放軍からも「指導」があったでしょう。解決が急務になっていることでしょう。
では、その課題を自らの力で解決するかといえば、Noと断言できます。企業買収や非合法活動により解決しようとしてくるはずです。

ターゲット

コピー元のミシュランが一番危険なはずですが、日本にはスパイ防止法がありません。経済安全保障の意識が薄く、ガードの低い日本を狙ってくることは間違いありません。寧ろ、狙わないと考える方が異常です。
その場合、どのメーカーが狙われるのかを考えてみました。
①ブリヂストン
前の記事にも書きましたが、既にブリヂストンは防振ゴム事業を中国企業に切り売りするまでの赤字になっています。今も財務状況が盤石とは言えません。
更に、彼らが狙う動機として考えられることがあります。

トヨタ メガクルーザー

自衛隊でも使用されている(というよりは、日本版ハマーとして自衛隊用に設計された車)メガクルーザーのタイヤがブリヂストン製だからです。ここまで明確な軍用車両は無い気がします。(知らないだけかもしれませんが)
よって、日本メーカーで一番リスクが高いのはブリヂストンになるのでは無いかと考えます。
②横浜ゴム
上海の西にSuzhou Yokohama Tireがありますが、ここには開発施設があります。調べた限り他のタイヤメーカーは中国には開発施設は置いていません。中国は「みなし輸出」が出来なくなっていますので、事実上ここの知的財産の引き上げは出来ないということになります。つまり、金庫を置いた状態で移動ができない。後は何時開けられるかということです。
リーチ状態にあると考えられます。
③住友ゴム(ダンロップ、ファルケン)、トーヨータイヤ
何れも中国に工場がありますので、中国市場での赤字反転は中国共産党の想いのまま。油断はできません。(日本のタイヤメーカー全て)
また、中国国家情報法があるので、中国人は本人の意思とは無関係にスパイをやらされます。どの会社も中国人エンジニアは居るので、中国共産党の命令一つになります。だからこそのセキュリティークリアランスなのですが、法律が追い付いていません。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。
皆さんは、どう考えますか?
これを切っ掛けに安全保障への意識が高まれば幸いです。
(了)

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