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日本語の作文技術をレベルアップするための覚書 1の補足 ハとがの違いをはっきり認識しよう

 本多勝一の『<新版>日本語の作文技術』を読んでから(1の記事)、これまで作文に感じたさまざまな疑問のほとんどが解けたように思う。
 しかし、ハとガの区別について、依然として理解不足を感じた。残ったシコリを解消するために、本多氏が注にあげた主要な参考文献を当たることにした。
・川本茂雄『ことばとこころ』(岩波新書・1976)
・久野暲『日本文法研究』(大修館書店・1973)
 上記の両書ともハとガの部分だけを読んだ。前者は文学的な例を中心とし、文章の深層感覚とリズムを深く踏み込んだが、文法に関する学術的な論述が少ない(だが鋭く的を射る)。後者は極めて学術な文法論だが、難解な部分が多く、解読するのに労力を要した。そして、前者が「ハ」、後者が「ガ」の性格の本質を鋭く捉えた。
 ここではまずハとガに関して重要と思われる部分を抜粋・要約する。次に、1の中の文章を例に、応用を解説してみる。
 「【】」で囲まれる部分は、私の備考である。ほかに明記がない限り、全て提示した文献を要約・抜粋したものであり、自分の意見を含まない。

川本茂雄『ことばとこころ』(岩波新書・1976)

本田氏の本は
「「が」と「は」の対比」の節でハの重要な性格:文の中心から外す。

  1. 格助詞(ガヲニ):構文の基幹
    論理的な構造
    係助詞(ハ):題目化=文の中心から外す=対等な関係を「題目+述説」に変える
    論理的な構造+心理的構造(発話者の心理的な姿勢に対応する)

  2. 疑問代名詞にハが使えない理由:文の中心から外すハだから、情報の中心の後ろに付かない
    ex. 「誰が花子に本を貸したか。太郎が誰に本を貸したか。太郎が花子に何を貸したか。」の中で、「誰は」「何は」とは言えない

  3. 論理的な構造に心理的構造を加える4段階プロセス
    ex. ❶       太郎が花子に本を貸した。  …元文   
        ❷ 太郎が+は 太郎が花子に本を貸した。  …題目化したい名詞句を外に出し、ハを添える
          ❸ 太郎が+は     花子に本を貸した。  …取り出した名詞句を元の文から消す
       ❹ 太郎は        花子に本を貸した。  …格助詞ガ+係助詞ハ=ハ

「深層構造・表層構造・変形」の節で、変形生成文法を説明した。

  1. 表層構造:最終的に表に現している構造。
    深層構造:表層構造の下に潜んで存在している論理的な関係を示す構造。
    変形:深層構造から表層構造への道筋。埋め込み。話者の深層構造と聴者の捉えた深層構造との間に不一致が生ずる時がある。
    変形生成文法:文の埋め込みを含む深層構造を作り、それを変形することによって日常使っているようなさまざまな文(表層構造)をを作り出す。文を生み出す文法という意味で、「生成文法」と名付けられる。
    ex. 表層構造:唄を忘れたカナリヤは、後の山に棄てましょうか。
           母親が坊やにご飯を食べさせる。
           学生が先生に作文を書かせられた。
      深層構造:わたしたちが カナリヤが唄を忘れたカナリヤを+は 棄てましょうか。
           母親が坊やがご飯を食べ(る)させる。(二重文)
           学生が 先生が 学生が 作文を書(kak-) させ(る)られる。(三重文)

変形生成文法とは
文の基本構造

久野暲『日本文法研究』(大修館書店・1973)

「Ⅱ助詞」という部分でガの重要な性格:総記=「だけが」

  1. ハ:主題、対照
    ガ:総記、中立(叙述)
      総記:「だけが」、該当者・該当物を全て列挙しないといけない。【限定的】
          文の述部が状態又は普通的・習慣的動作を表し、文頭の「名詞+ガ」に数詞、数量詞が含まれていない場合には、総記。これ以外の場合、総記の意味が中和され、中立の意味になりうる。
    ex. 太郎が毎日学校に行く。
      今話題になっている人達の中で、毎日学校に行くのは太郎です。

  2. 目的格を表す「が」
    僕はお茶飲みたいです:お茶が飲む(まれる)ことを望まれている。
    僕はお茶飲みたいです:僕が飲むことを欲する。

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 の冒頭に、私がa・bを書いた。
a. 日本をベースとして研究者を目指す外国人の自分にとっては、b.日本語の作文技術がどうしてもネックになる。
a-1. 日本をベースとして研究者を目指す外国人の自分にとって、b-1. 日本語の作文技術はどうしてもネックになる。
a-2. 日本をベースとして研究者を目指す外国人の自分にとっては、b-2. 日本語の作文技術はどうしてもネックになる。

 三つの文とも非文法ではないので、ここの差はまさにニュアンスの差になる。
 私にとって、日本語の作文技術がネックになることは間違いない。しかし、このことは私のことだけに限った話ではなく、むしろ日本をベースとするほかの研究者も悩んでいる問題である。「にとって」で閉じると、私一人の問題に限定してしまうので、これではこのノートを始めた趣旨と異なる(「にとって」の後ろに「が」があるように考えるとよいと、Hiraosにアドバスされた)。そのため、aの最後に広がりをもつ「ハ」を加えることで、私から話題を拡散させた。bの部分は単純に事実を述べているので、中立的な叙述を示す「が」を使った。b-2のように「は」に変えると、第二の「は」が対照を表すという規則によって、日本語の作文技術がネックになるが、ほかのことが全く問題にならないというニュアンスになるので、意図した内容とは明らかに異なる。

 次回からは接続詞についてまとめていく。
 


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