見出し画像

伝統技術を土台に、新たなチャレンジをしつづける ~セキネシール工業株式会社(埼玉県比企郡小川町)~

変わらない伝統技術があるから、新しいことに挑戦できる

セキネシール工業株式会社は、昭和21年に和紙で有名な埼玉県比企郡小川町で操業を開始しました。実は同社のルーツはその手漉き和紙にあります。同社が手掛ける「特殊機能紙」と呼ばれる素材の製造方法は、手漉き和紙の技術をベースにしています。

創業者は現社長の関根俊直さんの祖父で、もともと和紙づくりを生業としていました。洋紙の普及や暮らしや住まいの洋風化などの時代の変遷に伴い、和紙の需要が減る中で目を付けたのが自動車産業でした。エンジン部品として使われるオイルシートのガスケット材をはじめ、摩擦材・断熱材なども手がけ、自動車産業の発展の波に乗って会社は大きく発展したといいます。

同社の製品には和紙づくりの伝統技術が生かされている

そして2024年1月、会社は創業者の孫である関根俊直さんに引き継がれました。同社は再び大きな挑戦の時を迎えています。現在のガスケット材料の需要減から売上や受注数がピーク時の3分の1ほどになってしまっている中で、今後は自動車業界がエンジンを搭載したガソリン車からバッテリーを搭載した電気自動車への切り替えへが求められます。

そんな中、付き合いのあった取引先からEV自動車に使われる断熱材をつくれないかという相談が舞い込みました。それが「特殊機能紙メーカー」という自社のポジションを再発見するきっかけになったのです。

「『伝統技術を生かして新たなことに挑戦していく』。それが当社の特徴であり、これまでずっとやってきたことだと気づいたんです。コアとなる伝統技術で、今まで数千種類もの特殊な紙の製造を手がけてきました。これは他には真似できない当社の強みです。もともと和紙の技術を生かしたガスケット材も、モータライゼーションの波が来るという祖父の研究心や挑戦心から生まれたものでした。その時と同様に、これから電気自動車が増えることを見据えた上で、時代の波に合わせて自社も変化をしていかないといけません。大事なことは当社の強みである伝統技術を生かすということ。これは変えてはいけないところです。土台となる伝統技術があるからこそ、新しいことに挑戦していけるのだと思います。」

土台となる伝統技術があるからこそ、新しいことに挑戦していける

同社が製造する特殊機能紙のバリエーションは、配合する原料によって数百種類にも及びます。製造現場でのやりがいを入社3年目のNさんは次のように語ります。

「僕は毎日同じことを続けるのが苦手なタイプなんですが、この会社は日によって仕事内容が日替わりみたいなところがあります。見た目は同じようでも、準備の仕方からつくり方も違うので憶えるのは大変ですが、だからこそ飽きません。」

特殊機能紙の配合を同社では「レシピ」と表現しています。レシピの多さは数々の挑戦を繰り返してきた賜物といえます。伝統技術を土台にしながらも挑戦を続けきた同社のDNAは、現在も確実に引き継がれています。

社員全員で会社のアイデンティティを共有する

関根さんが同社に入社してからは丸4年、社長業を引き継いでから約5か月が経ちます。その中で感じていることがありました。

「当社は創業から80年ほど経ちますが、やはりそれくらい時間が経つと大事にしてきた社訓や会社や事業を立ち上げたときの想いといった部分が薄まってしまっているように感じました。業務に関する部分はこなせていたとしても、一緒に働いている仲間としてそれでは寂しいです。こうした精神的な部分も大事に伝えていきたいです。」

きっかけは会社に関する社員アンケートを実施したこと。「会社がどこ行くかわからない」という回答があったといいます。

会社が大切にしていることを社員にも伝えたい

「ショックでしたね。事業の方向性に関しては全体集会などを通じて伝えていたものの、どんな会社を目指すのか伝えられていなかったのです。会社のアイデンティティを取り戻さないといけないと思いました。自分たちが何者で、何を大切にしていて、どこに向かいたいのかを、それらを社員と一緒につくることを始めました。」

具体的には、企業経営の中で取り上げられるミッション、ビジョン、バリューのうちミッションとビジョンは会社がなぜ存在をしていて、どこに向かっていきたいかに関すること。そのため、それを示すのは経営者の役割といえます。
一方、3つ目のバリューは、会社がどういった価値観でどんな行動を大事にしたいかに関することであるため、社員全員が共有する必要があると関根さんは考えました。

「もともと創業者が社訓として掲げた「勇気」「創造」「誠実」「融和」という言葉がありましたが、私は社員みなが共感をしていないと感じました。だからこそ、改めて皆でこの言葉の意味を考えたいと思い、社員全員を巻き込むことが必要だと感じたのです。」

会社が大事にしたいことを社員全員でつくる

そこで関根さんは、プロジェクトメンバーと一緒に、どういう会社にしたいか、将来どういう会社だったら誇れるのか、そのために何を大事にしていきたいかを社員にひたすら聴いているのだといいます。

「プロジェクトメンバーは私のほかに4人いるのですが、将来的な幹部候補生を選出したわけではなく、あくまで挙手制で選びました。結果的には、会社の中でも比較的責任ある立場の社員が自ら手を挙げてくれました。そういう意図があったわけではないのですが、結果としてそういう社員が手を挙げてくれたのは嬉しかったですね。」

伝統や歴史はただ守るだけではなく、引き継いだ者が自らつくっていくものでもあります。同社の歴史にまた新たなページが加えられようとしています。

粗探しではなく、「良いこと探し」の好循環

同社で取り組んでいるナイスポイント制度についてのお話を伺うことができました。
ナイスポイント制度とは、前社長が他社の取組を参考に始めたもので、誰かが良い行動をしたときにそれを投票し、社員全員に共有する制度です。投票が多く集まった社員を表彰もしています。
昨年、表彰を受けたという3年目のNさんは次のように話してくれました。

「誰かは分からないけど、自分のいいところを評価してくれた人がいるということに感謝を抱きました。自分も誰かのいいところを見つけたいという気持ちになりました。そうしたら人の粗探しではなく、良いところに目が行くようになりました」

粗探しではなく、良いところに目を向ける

自分がしてもらって嬉しかったことを、他の社員の方にもしたい。Nさんの言葉から恩贈りの姿勢が感じられました。
関根さんも次のように手応えを語ります。

「Nさんとは別の方で、昨年自ら投票をした回数が一番多かった社員を特別表彰したんです。そのときに『自分が表彰されたときに嬉しかったので、自分も他の人に返したい。だから積極的に自ら投票をしているんです』と言っていたんです。良いことを言うなあと。そういう意図で始めたわけではなかったのですが、そう感じて行動してくれたのがすごく嬉しかったです。」

ヘルメットには「ナイスポイント賞」のシールが貼られる

同社には「シスコサイクル」という考え方があります。これは、社訓である「誠実」「融和」「勇気」「創造」を一つのサイクルとなるように円でつないだもの。このサイクルが回れば、必ず会社も組織もよくなり、いい仕事ができるという関根さんの考えが示されています。同社で行われている表彰も、ただ褒めるだけではなく、なぜ褒めるかという理由をシスコサイクルと関連づけて説明を始めるようにしたと話します。

「ナイスポイントを投票するときに誠実・融和・勇気・創造を選べるようにしています。これは会社が大事にしてることを認識してもらう狙いがあります。ビジョンやミッションといった抽象的な言葉を、社員が納得して行動してもらいやすく伝える『伝道師』であることも僕の役割です。」

こんな人に来てほしい!

伝統技術を生かした特殊機能紙の製造を支えるのは、「抄造(しょうぞう)者」と呼ばれる職種で、10名ほどの社員がそこに配属されております。
当然、専門的な知識や技術が求められますが、業務を経験しながら身につけるものなので入社時に必須な資格などはないといいます。

「重要なのは人間性の部分。ここはしっかり見ます。まずは誠実であること。嘘を言ったり、裏表がないかなどは注意しています。次に融和。周囲の人間と関係を築けるか、その上で自分で勇気を持ってチャレンジしたことを聞くなど、採用面でも社訓を意識するようにしています。」

最も大事なのは誠実さ

特に最近では10代、20代の方の採用に力を入れています。

「製造現場は50代が多く、近い将来、退職者が増えてくることが見込まれます。そのため、知識や技術は仕事上でもある程度求められますが、若い方でも数年間働いて能力さえつけば早期に主力になれる職場です。」

複数社のサービス業を経て、2年ほど前に入社したNさんは入社時のことを次のように振り返ります。

初めての製造現場も研修のおかげで理解度が深まった

「製造業の会社で働くのは初めてだったのですが、入社してから2週間くらいかけて本社や工場を回らせてもらい、会社や仕事のことを学べる研修がありました。そのときが初めての試みだったと後で聞きました。担当の職場の前後の工程や取引先でどんなふうに加工されて、どんなふうに使われているのかも知ることができたので、仕事に対する理解度が上がりました。」

Nさんと同期の塩田さんも「私は高校を卒業してすぐに入社したので、研修期間をしっかりとっていただいたおかげで心の準備ができました」と話してくれました。
和紙づくりの伝統技術を生かしていることは、地元近くの高校生に興味を持ってもらえるポイントにもなっているといいます。また、高校生に限らず、大卒や他業種からの中途採用などにも広く門戸を開いています。
近年では福利厚生の充実にも力を入れています。若者の採用・育成に積極的で、若者の雇用管理の状況などが優良な中小企業を厚生労働省大臣が認定する「ユースエール企業」として、2023年度に比企地域で初めて認定されました。

若手や女性が働きやすい職場づくりに力を入れている

また、関根さん自身も1年半ほど前に約2か月の育児休暇を取得するなど、自ら率先して制度を利用し、社員への周知を図っています。今年度は男性4人、女性1人が育児休暇を予定しているほか、フレックス制の導入によって育児休暇から復帰する女性の働きやすい環境づくりなどにも熱心に取り組んでいるそうです。

同社の福利厚生は、家族旅行手当や昼食のお弁当の補助など、細かい内容を入れればキリがありません。それも制度を1回つくって終わりではなく、社員それぞれが働きやすい環境につくり変えていくことをモットーとしています。同社の挑戦のDNAはこんなところからもうかがうことができました。

【こんな人と働きたい!】

・誠実であること
・周囲との融和を考えられる
・若手人材

経営者様に聞きました

Q 一言でいうと貴社はどんな会社ですか?
和紙づくりという伝統的な技術を活かしつつ、新たなチャレンジを続けている会社です。

Q これからの会社のビジョンはなんですか?
昔も今も共通することですが、伝統技術を土台にしながら、新しいことにチャレンジし続ける会社でありたいということです。和紙づくりの技術は弊社のコアな部分ですので、そこは変えてはいけないと思います。
これまでは自動車産業がメインでしたが、当社が培ってきた特殊機能紙の製造技術を生かして、さまざまな産業の発展に貢献していきたいと考えています。


Q これからの会社の成長のためにどんな人材を求めていますか?
社訓である誠実・融和・勇気・創造を大事にできる人材です。特にすべての始まりである誠実さと仲間との融和を重視しています。

Q 社員には会社の成長にどんなふうに関わってもらいたいですか?
常に「誠実」に接し、社員の「融和」で未来を作り、「勇気」を持って新しい道を開き、「創造」する喜びを持つというシスコサイクルの実現を目指してほしいと思います。

Q 貴社の特長、PRポイントを教えてください。
会社の挑戦と共に、社員にとって「はたらきがい」のある企業づくりにも力を入れております。直近では地域唯一のユースエール認定企業にも選ばれるなど、福利厚生にもとても力を入れております。

Q メッセージをお願いします
私たちはこの100年に1度の大変革期をチャンスと捉え、長年培ってきた和紙の製造技術・お客様の信頼を基に、これまでにないスピードと発想で新しい未来を次々と創造して参ります。新商品の開発・新市場の開拓・デジタル化・全員参加の改善活動。そのためにも個人個人が自ら学び、強い意思を持って行動する。その地道な積み重ねこそが変革期を乗り越えるために必要だと考えています。まだ見ぬ未来への挑戦を私たちと一緒に楽しみましょう。この価値観に共感してくださる方と出会い、一緒に働くことを楽しみにしています。

【プロフィール】
代表取締役 関根 俊直(せきねとしなお)さん
休日の過ごし方:子どもと遊ぶこと
趣味:(子どもができる前は)テニスに週1で通っていた

Q 一言でいうと貴社はどんな会社ですか?
社員の方も、会社も雰囲気のいい会社です。

Q 入社を決めた理由、きっかけを教えてください
工場見学をして、職場の雰囲気が良くて働きやすそうだと思ったからです。

Q この会社を選んで良かった、この会社のココが好きと思うことは何ですか?
新しく仕事を覚える人に対して、面倒見が良いところがありがたいです。

Q 仕事を通じてどのように成長していきたいと思いますか?
初心者の方にも優しく教えられるようになりたいです。

Q 「この会社に入るとこんな成長ができる」と思うことは何ですか?
工具が使えるようになることと、工業系の知識が身につくこと。

Q メッセージをお願いします
悪い人はいないので、人間関係で困ることはないと思います。

【プロフィール】
抄造者(2年) 塩田 旭陽(しおだ あさひ)さん
休日の過ごし方・趣味:会社に入ってから免許を取り、購入したバイクで出かけること

若手社員の方に聞きました②

Q 一言でいうと貴社はどんな会社ですか?
やっていることは同じでも、扱うものが日替わりというくらい違うので、毎日やっていても飽きないものづくりの会社。

Q 入社を決めた理由、きっかけを教えてください
前職を辞め、転職先を探していたところ、地元の製造業の会社ということで興味を持ちました。これまではサービス業だったが、和紙漉きにはなじみがあり、その技術を応用して自動車部品をつくっているというのがおもしろそうだと思い、入社を決めました。

Q この会社を選んで良かった、この会社のココが好きと思うことは何ですか?
・小さな会社ゆえに、社員間の距離が近く、親しみやすいこと。
・与えられた一つの仕事をずっとやっているのではなく、能動的に動き、考える仕事があること。
・福利厚生がしっかりしていること。
・家から近いこと。


Q 仕事を通じてどのように成長していきたいと思いますか?
さまざまな知識、技術が求められる仕事なので、これからもいろいろなことに挑戦していきたいです。資格取得の補助等もあるので、今後は資格なども取っていきたいです。

Q 「この会社に入るとこんな成長ができる」と思うことは何ですか?
一人ひとりのウエイトが重いので、一つの仕事だけではなく幅広いことに挑戦できます。今持っている知識や技術を活かしつつ、より成長できます。

Q メッセージをお願いします
製造業ですが、ずっと同じことをやり続けるということは少ない職場です。
社員同士の仲も良いので楽しい会社だと思います。
今年、社長も代わり、新しいことにも挑戦、改善中なので、一緒に盛り上げていきましょう!

【プロフィール】
抄造者(2年) Nさん
休日の過ごし方:休憩時間にはタバコを吸ってくつろぐ
趣味: DIYが好き

基本情報

・企業名 セキネシール工業株式会社
・所在地 355-0323 埼玉県比企郡小川町下里1503
(GoogleMAP)→ 
 https://maps.app.goo.gl/WCrNiepfCtJFKNEC6
・設立年 1962年
・事業内容 ガスケット材・断熱材・絶縁材の製造、販売
・従業員数 53名(2024年1月現在)
・ホームページURL
 http://sekineseal.co.jp/

・その他の参考情報

高校生向け企業紹介動画
https://www.youtube.com/watch?v=79nmh_rzRLc

社員の高齢化、紙文化……経営課題の解決に向けた3代目の3つの改革
https://smbiz.asahi.com/article/13780793

「とがった製品」づくりにゼロから挑戦 研究体制や働き方の整備も加速
https://tensyoku-j.com/2023/06/19/sekine/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?