庄内の風と土と祈り 2023年12月号

森の中を歩いていると、時に少し開けた場所にその森のヌシのような大樹が鎮座していることがある。 しっかりと自分の領土とそこで受け取れる光と水を確保し、他の植生との沈黙の生存競争に勝ち残った姿に確かな尊厳と親しみをおぼえる。 樹齢を千年も超えるような大樹は神として人々に祀られるようにもなる。彼らは極めて無口であるが、教わることは多い。
深く根を通して大地と契約し、枝葉をゆっくりと天に延ばし大空から光と水の恩恵を受け取る。 もし地球上の全ての樹々が、地表面のすべてに太い根を張り巡らし水分養分を吸い尽くし幹を太らせ、枝葉を隙間なく伸ばし天空を支配し、陽光が地表に注がないように遮ってしまえば、自分の身を脅かすライバルの生育を阻止できるだろうし、そのような進化もできのだろう。樹々が あえて木漏れ日をつくるのは何故だろうと不思議に思う。木の命は木だけでは成り立たないことをよく知っているからだろう。自分がそこに立つために、宇宙のすべてが参加していることをよく知っているのだろう。
逆に我々は、地表をアスファルトとコンクリートで隙間なく舗装することで世界を均一に平らかにしている。その便利さの背後にある無配慮さを森に入りデコボコの土の上を歩くとよく教えられる。
かつて苦行によって心身を疲弊させ、仲間との修行を挫折した青年が、絶望しながら大きな木の下にゆっくりと坐した。そこで坐り続けた彼は、やがて生命の本質を見抜き、後世に長く轟く教えを残す人となった。その時の彼の悟りの傍らには、大樹が物言わず寄り添っていた。

撮影地:山五十川「玉杉」

※こちらの文章と写真は庄内の無料地域情報誌「BLOOM」2023年12月号に掲載されました。

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