「六道テレビの夢」

ある時不思議な夢を見ました。私はなぜか見知らぬ病院に病院のベッドの上にいます。

そこは奇妙な病室で、窓もなく電気もない真っ暗な部屋でした。身体はベッドの上に拘束されており、両腕と頭だけが自由でした。両隣には私と同じようにベッドに縛り付けられた人がいました。どうも大部屋のようで沢山のベッドが並び患者が寝かされていました。そしてベッドで寝ている人の目の前には何故か、アームで固定されたテレビがあり、ずっとその画面を終日見させられていたのです。

数日もすると、それぞれの目の前にあるテレビにはチャンネルが6つあり、6つの放送局があることが分かりました。

天国チャンネル、人間チャンネル、修羅チャンネル、畜生チャンネル、餓鬼チャンネル、地獄チャンネル。これらのチャンネルはどうゆう仕組みなのか、自分でリモコンを操作して切り替えることができません。とあるタイミングで急にチャンネルが切り替えられてしまいます。次にどこのチャンネルが映るのかその法則性もよくわかりません。

天国チャンネルで綺麗な音楽と美しい風景を見ていたと思ったら、修羅チャンネルに画面が切り替わり戦争映画が始まりました。そうかと思ったら沢山人が死ぬような地獄チャンネルのむごい映像を見せられたり。

この病室の人たちが自分で操作できるのは2つのボタンだけ。一つは電源を消すボタン。ボタンの脇には「一度消してしまうと二度とテレビの電源はつきません」と注意書きされています。

電源オフボタンの隣には「無」と書かれたボタンがあり、それを押すと砂嵐が映ります。しかし砂嵐なんか見てても何もならないので仕方なく他の6チャンネルのどれかを見ています。

周りの人もそうやって6つのチャンネルを見せられています。地獄ばかりがなぜかずっと映ってしまう人もいるようで、時に自分でテレビの電源を消してしまう人もいます。テレビドラマの中の主人公が死ぬタイミングで電源が落ちる人もいれば、また何故か、番組の内容とは関係なく急にテレビの電源が落ちる人もいました。電源が落ちたテレビの人はなぜか死んでしまいました。そして誰かがやってきてベッドごと運ばれていきます。そうするとその空いた場所に新しい人がベッドに乗ってやってきて同じようにテレビを見させられます。

そうやって数年間私はこの病室でテレビを見ていました。途中で何度か隣人のテレビが消えて去っていき、はまた新しい隣人がやってきます。

隣の人とはどのチャンネルが面白いか、どのチャンネルが今映っているかとか、天国ばかり見たいよねとか、たまには修羅チャンネルで気に食わないやつをぶん殴ってやりたいよねとか。そんな話ばかりに夢中です。

ある日、新しく隣に来た人は、ずーっと砂嵐の画面を見ていました。あんな砂嵐の画面ばかり見て何が面白いのだろう。テレビが故障しているのだろうか?頭がおかしいのだろうか?といぶかしく思いました。実は以前にも砂嵐ばかり見ている人はいました。ただ、その人は心を病んだ人で、常に口を半開きにしてよだれを垂らしていました。今となりに来た人は、普通の人に見えます。挨拶をしても優しく穏やかに返事を返してくれました。私はその人に尋ねてみました。「そんなに砂嵐ばかり見てて何が面白いんですか?」

その人は答えて言いました。「どのチャンネルを見るか、それは大事なことではありませんよ。このテレビの電源が確かに点いているということが大事なのです。あなたも、周りのみんなもテレビを見ているつもりでいるけれど、実際は誰かからテレビを見せられてるだけ。

私は自らの意思で、他の誰にも見ることができない、自分だけに開かれているこの光を見ているのです。この光が何かということ気がついたなら、別に砂嵐でなくてもどのチャンネルの光でもよいのです。この光は、実は私にしか見ることのできない光なのです。あなたにもまた、あなたにしか見ることのできない光があるのですよ。是非ことに気がついてください。」

それから、私は自ら7番目の砂嵐のチャンネルばかりをよく見るようになった。

そして、そこで眼が覚めた。窓からはカーテンの隙間から朝陽が差し込んでいた。

 

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