庄内の風と土と祈り 2024年4月号

友人の僧侶が数年前より「ひと息坐禅」というユニークな坐禅法を提唱している。
時と場所を選ばず実践できる呼吸法で、大きくゆっくり息を吸って、息を吐く時に微笑みながら「ほっ」とひと息を吐くのだ。すると、みぞおちが柔らかくなり、横隔膜が緩む。やってみると気がつくが、口をすぼめて息を吐くよりもずっと、口角を横に上げて笑顔で息を吐いたほうがお腹の底深くから息を吐き切ることができる。一息で緊張を緩め、場の空気を緩め、気持ちを緩め、心身を柔らかくすることができる。私も人前でお経を唱える前や、お話をする前によく密かにこれをやっている。
仏像はよく「アルカイックスマイル」という微笑みをたたえていることが多いが、その仏のやわらかな息遣いまで伝わってくるようである。 釈迦がその悟りを弟子に初めて継承をしたエピソードにおいても微笑みは重要な意味を持っている。釈尊は大勢の弟子たちの前で黙ったまま一茎の花を捧げて見せる。弟子たちは意味がわからず動揺したが、高弟の迦葉尊者だけがひとり釈尊の意を理解し微笑みを浮かべたという。
「華開世界起」
他の花に先んじて春の訪れをひとり告げる梅花。庄内の冬は寒く、長く暗い夜のようである。本当の冬をじっと耐え抜いた分だけ、春の歓びはひとしおである。植物も動物も虫も人も、待望していた春開演の空気。毎年この季節には庄内平野全体が、冬の寒さから解放され、心ほどけ微笑んでいる気がする。
庄内で春を迎えるたび、本当の春とはこうゆうことだったか、と教えられるのである。

撮影地:鶴岡市福田
『華開世界起』「忽開華のとき、華開世界起なり。華開世界起の時節、すなわち春到なり」(『正法眼蔵 梅華』道元 )

※こちらの文章と写真は庄内の無料地域情報誌「BLOOM」2024年4月号に掲載されました。


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