庄内の風と土と祈り 2023年10月号


庄内人の宗教観・死生観はとても独特で、人は亡くなると出羽三山に籠もって仏道(修験)修行をし、三十三回忌まで勤め上げると今度は山の頂から天に昇り神になると信じられている。
出羽三山は「生まれかわりの山」とも言われる。森林限界を超え二千メートル近い標高の月山の頂からの眺望は、そこに立ってみればまさにこの世と冥界との境目であることが実感できる。 この深く高い山によって人は仏に成り、そして神として子孫を護ると信じられてきた。
お盆の時期には先祖たちが山を下り、すそ野に広がる森を抜けて各家に帰ってくる。お盆の終わりの時期に庄内地域独自の供養「モリ供養」をするというのは、そのすそ野の森に向かって帰るご先祖様に供養をするという説もあるようだ。
明治時代の廃仏毀釈の影響は庄内も大きかったようであるが、それでも江戸時代以前の日本人本来の信仰、即ち神仏習合の信仰の形がまだ色濃く残っている。各家の仏壇にお参りに出掛けると、庄内の家屋の造りにその宗教観がはっきりと象徴されているのがわかる。仏壇の真上に神棚を祀るという位置関係は、仏から神への道すじを表わしているのだろう。私は東京の下町の生まれであったが、神棚と仏壇は全く別の方角に祀られていた。 私は出家してからこの地に来たが、ここで暮らすうちに、学校で教わるでもなしに山岳信仰や龍神信仰、この自然風景や文化風土、そして風景から僧侶としての宗教観や土地の霊性を体感として教えてもらったように思う。
同じように、長くこの平野と山と海に囲まれて暮らしてきた庄内人たちは、この偉大で美しい風景から、自分たちの信仰の物語を紡いでいったのだろう。

撮影地:鶴岡市 月山

※こちらの文章と写真は庄内の無料地域情報誌「BLOOM」2023年10月号に掲載されました。

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