庄内の風と土と祈り 2023年8月号

私たちは、堅固な大地に支えられて土の上に立ち、自由な風が吹きまわる大空のもと、この風景の広がりを臨む。
やわらかで自由な大空と、強く堅固なる大地。地球表面の境界の僅かなる”あわい”の場所に多くの生命が活動している。
土中を頼り地面に潜るミミズやモグラがいたり、大地を辞して大空に住処を見い出した鳥や羽虫がいる。土の恵みに根差しながら、天の光を志向し大空に腕を伸ばす植物たちがいる。
この自由と不自由とはざまで、私たちは海岸での棒倒しのように微妙なバランスで社会を構築している。そこに生きる砂つぶのようなこの一個の人生が、世界の中心点となり、その遥かなる”あわい”の世界を見つめ返している。
「時間」についてを同じように眺めてみる。
過去は大地のように堅固に決定づけられており、逆に未来は宇宙へと続く大空のように自由な空白である。このはざまの〈今〉の一点にだけ私はリアルに物を見ることができ、音を聞くことができ、大気を呼吸することができ、ここに立たずむことができる。
この過去と未来の切り結ぶ現場に本当の〈今〉を受けとる。 未来にも過去にも、上にも下にも非対称に広がる不思議なあわいの世界。海水と淡水が混ざり合うかのような曖昧な境界に僅か開かれた〈今ここ私〉という一点をありありとこの身に感じ取ること。 正反対なる性質の、”あわい”の両手が重なるところに、私たちは世界から祈られるように包まれ、そこでまたひとり、祈るようにじっと佇んでいる。

※こちらの文章と写真は庄内の無料地域情報誌「BLOOM」2023年8月号に掲載されました。

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