夏季限定!戯曲公開:「まわる、めぐる、ひかりのわ」①

まえがき:この作品は、2016年に戯曲本舗プロデュース企画「戯曲見本市」内ドラマリーディングにて公開された同名作品に、若干の加筆修正と、note公開用の編集を加えたものです。

昨今の事情を鑑み、戯曲本舗・結成10周年を誰にも会わずひっそりと祝い、8月に上演予定だった「10周年記念公演」の公演中止の無念を弔う企画でもあります。(作品の内容は10周年公演とは関係ありません)。

舞台は、現代。ある村の夏祭り。

劇場で普通に上演しても良いけれど、どこかの河川敷で実際に祭り会場をセッティングするのも良いですね。その際には観客の皆様にも浴衣を着用していただき、会場内を歩き回って、各シーンに臨場していただくのも、また一興・・・。


【タイトル】「まわる、めぐる、ひかりのわ」

作・ひきだ愛音(戯曲本舗)


第一部 〈ちいさく燃え盛るその周りを〉

登場人物:

みづえ(女子高生)

まきの(女子高生)

男の子(5歳くらい)

男の子の母親(30代)

僧侶


祭のお囃子、雑踏。田舎の夏祭りがはじまる期待感があたりに漂う。

辺りはゆるゆると、黄昏時の薄暗さへ。

目の前には、祭りでよく見かける屋台が一台。屋根の幌には大きく「シシカバブ」と書いてある。

その屋台の側に、二人の女子高生―みづえとまきのが、折り畳み椅子にけだるげに座っている。みづえは浴衣をはだけさせ、団扇を扇ぎながらラムネを飲んでいる。まきのは学校の体操着の短パンに派手な色のTシャツ姿。携帯をいじりながら、時々屋台のコンロを覗きつつ、トングでつついたりしている。二人とも大量の汗をかいている。

みづえ   ・・・ぁ゙ぁ゙あああ〜ン甘っ・・・。

まきの   ・・・。(携帯をいじる)

みづえ   もうさ、ただのぬるい砂糖水だよ・・・

まきの   (携帯から目を離さず)・・・捨てれば?

みづえ   もったいない。こういうときしか飲まないじゃん、ラムネなんて普段。

まきの   飲めば良いじゃん、普段ラムネ。

みづえ   こぼすじゃん!フタ開けるときビー玉でブシャアってなるじゃん!家でできないっしょ。

まきの   台所でブシャアすれば?

みづえ   味気ない!シンクでブシャアはむなしい!やっぱ屋台のおっちゃんが、氷の沈んだビニールプールに手ぇ突っ込んで勢い良くブシャアしてくれるのがいいっつーか・・・ねえ、オトンから連絡きた?

まきの   ・・・(コンロをつつきながら)まだー。

みづえ   渋滞かなぁ。

と、そこへ寺の僧侶らしき格好の男性が近づいて来る。両手には他の屋台で買ったらしい、いろいろな食べ物がぎっしり詰まった袋を提げている。

僧侶    こんばんは。焼けてますかな?

まきの   はい?(振り向く)

僧侶    ここは・・・「シシカバブ」?はて。

まきの   シシカバブっていうのはトルコ風の串焼きみたいなもんなんですけど・・・

僧侶    ほほう、トルコ!味の見当は皆目つかないが、故に興味深い。では適当に二つほど見繕っていただけますかな?

まきの   すみません。実はまだ、準備中で。

僧侶    おや、それは残念。いやなに、可愛らしい店員さんが見えたものだからね、これは是非にと思ったんだが・・・

みづえ   ありがとうございますぅー!

まきの   ただの手伝いです。あの、お急ぎだったら、あっちにも串焼き屋が何軒かありますんで、よかったらそっちに・・・

僧侶    ほほう、商売敵を躊躇うことなく勧められるとは懐の深いこと、感心ですな。

まきの   いや、お祭り始まってんのに間に合わなかったうちにも責任あるんで。

僧侶    成る程。ますます感心。では・・・(行きかけて、まきのに)今夜は蒸しますな。火の元は余計に身体にくるでしょう。お気をつけなさい。

まきの   どうも。

僧侶、去って行く。

みづえ   あの人、誰だっけ、和尚さん?

まきの   高松寺じゃね?小学校の裏手の。  

みづえ   肉とか食うんだね。やばくね?

まきの   宗教的に?さあ、宗派によるんじゃね?

みづえ   ふーん。・・・あのさ、もう今更なんだけど、

まきの   (携帯をいじりながら)んー?

みづえ   これ、まだ火ぃつけなくて良かったんじゃね?

まきの   (携帯をいじりながら)んー。

みづえ   だってまだ、肉も来てないじゃん。

まきの   (携帯をいじりながら)んー。

みづえ   ムダに酸素だけ焼いてるんですけど。つーか、顔もなにげに焼けてるんですけど。

まきの   (ちらっとみづえを見て)脂肪燃焼したらいいよね・・・

みづえ   喧嘩売ってる?

まきの   (携帯いじりながら)いや。半分は自分に言ってるから。

みづえ   半分は、ね・・・はああ、あっづい・・・

まきの   浴衣なんか着るからだよ。

みづえ   何言ってんの!祭だよ?浴衣着なきゃじゃん、普段着れないじゃん浴衣なんて。

まきの   着ればいいじゃん、普段から。

みづえ   どこの作家先生だよ!じゃなくて、夏祭りで着たいって言ってんの。盆踊りとかさぁ、小首かしげてシャナリシャナリ踊ってさぁ、オンナの色気っていうの?普段の制服とかジャージからは出ないオンナの色気!?出したいの!出して男を釣りたいの!

まきの   ・・・そんなに股広げて座ってたら色気も何もないと思うけど。

みづえ   だって・・・暑いんだもん〜!まきのはずいぶん涼しそうだね。

まきの   火ぃ焚くって知ってたし。つーか、浴衣で串焼きなんかしたら浴衣よごれるっしょ?

みづえ   あたしは焼かないもん!オトンが来るまで店番するだけ。来たらすぐ涼しいとこ行く。そうだ、金魚すくいとか!

まきの   行くのはいいけどすくわない方が良いよ。

みづえ   なんで?

まきの   こういう祭のときの金魚はビョーキもってるやつとか、売り物にならないやつだっていうから。

みづえ   そうなの?えーなんか残念。なんかお祭りーってとこ行きたいなー。

まきの   綿あめ?

みづえ   やめてよ・・・めっちゃ暑いじゃん綿あめ屋さんの前って。暑いの忘れたいのに今。

まきの   じゃあ射的とか?

みづえ   あれは無理!得意じゃないし。だいたいアレだよ、どっかのバカップルとかいてさ、彼女に良いとこ見せようとして彼氏が張り切ってんでしょ?うっざいわ。

まきの   それ言ったらどこ行ってもカップルいるっしょ。ちっさい村の数少ない行事なんだから。

みづえ   あああん!彼氏ほしいー!バカップルになりたいー!(ジタバタ)

まきの   パンツ見えてるよ。

みづえ   (慌てて内股にする)・・・ムダに動いたら余計暑くなった・・・ねえ、なんでもう付けたの?火。

まきの   付け方?よくわかんなくて、練炭とか。なんかネットで調べたら時間かかりそうだったし。

みづえ   オトンが来てからで良かったと思うけどなー・・・ふぃゃ〜顔めっちゃあつい!顔だけ脂肪燃焼してもしょうがないんですけど。

まきの   まあ、やれることは先にやっといたらいいかなって。

みづえ   ふーん、えらいね・・・。で、いまどこらへんいるって?

まきの   わかんない。

みづえ   連絡きてないの?

まきの   きてない。

みづえ   さっきからLINEしてんじゃないの?

まきの   オン、ライン、ゲー。

みづえ   ゲームかよ!

まきの   つーかオトンの既読ついてないし。

みづえ   え?読んでないの、そもそも!?ありえなくない!?

まきの   しゃーないっしょ、運転中だし。

みづえ   ・・・そっか。

二人の目の前に、30代くらいの女性が飛び出す。必死に誰かを探している様子。

母親    あゆむー?あゆむー!(客席を見回して、見つける)こら!そんなとこに入って、だめじゃないの!

近くの茂み(客席)に潜伏していた男の子が勢い良く走りだす。

男の子   わあああああーい!!!

母親    あゆむ!待ちなさい!あゆむ!あゆむー!!

男の子、走り去る。そのあとを、母親が追いかけて去る。

みづえ   うわぁ・・・大変だなぁ、男の子のお母さん。

まきの   ・・・。(母親の背中を目で見やる)

みづえ   ねえ、今のおばさん、いいケツしてたと思わない?

まきの   は?そんな目で見たことないんですけど、ってか何、そういう趣味あったの?

みづえ   いや、別にエロい意味とかじゃなくて。なんつーかさぁ、すごいじゃん。母親のお尻ってさ。

まきの   なにが?

みづえ   だってさ、みんなあそこ通って生まれてくるわけじゃん?なんか、天国と繋がってるトンネル?みたいなもんかなぁって、思うわけよ。

まきの   ・・・まわりまわってエロい話に聞こえる。

みづえ   まわすなまわすな!そんな方向に。

まきの   へえー、姉ちゃんポエマーだったんだね。

みづえ   ・・・なんかムカつくな。

まきの   なんでよ?

みづえ   わかんないけど。「ポエマー」って言われるとなんか。馬鹿にされてるような、なんていうか、

まきの   馬鹿にしてるかもね。

みづえ   え?

まきの   天国のトンネルとか、現実知らない人の勝手な妄想じゃん。だいたい赤ちゃんって天国からくるわけ?死んだら天国だか地獄だか行くのか知んないけど。

みづえ   まあ、たしかにちゃんとは知らないけど、つか、え、怒ってる?

まきの   ・・・別に。ただ、人が産まれるとか、人を産むとかって、簡単なことじゃないと思うんだよね。そんな簡単にポエムんなって思っただけ。

間。

みづえ   ・・・連絡、来た?あっちから。

まきの   ・・・まだ。

みづえ   そっか。オトンには?

まきの   今日、祭が終わったら話す。

みづえ   そっか。

まきの   ・・・本当は後藤君と一緒にって思ってたんだけど。

みづえ   うん。

まきの   どうせそんな勇気も覚悟もなかったんだろうし。もう興味もないんだよ。

みづえ   そうなんかな。

まきの   そうだよ。だからこんなふうにほっとけるんでしょ。

みづえ   うーん・・・

まきの   こっちはもう火がついてるって言うのにさ。

みづえ   ・・・消す、の?

まきの   え?

みづえ   だってまだ、間に合うんでしょ?消そうと思えば。

まきの   ・・・一度燃え始めたら、燃え尽きるまで見守りたいっていうか・・・それが火をつけた側の責任だと思うし。

みづえ   そっか。・・・まきのってホント・・・ポエマー!

まきの   うっせぇ!

みづえ   (大げさに真似して)「一度燃え始めたら、燃え尽きるまで見守りたい」

まきの   うっせ!うっせーよバカみづえ!

みづえ   だいたいアンタどっちかっつったら火ぃ付けられた側じゃね?どっちかっつーと後藤が放火魔だろ!

まきの   ひとの彼氏を犯罪者呼ばわりすんなし!

みづえ   (人ごみにむかって)おーい指名手配後藤ー!ネタはあがってんだ、おとなしくでてきやがれー!

まきの   やめろし!はずいから!

みづえ   後藤ー!お前の悪行うちのオトンが知ったらただじゃおかないからなー!責任取らなかったら串に刺して焼くぞコノヤロー!

まきの   ちょっと、まじでやめて、お姉ちゃん!

まきの、みづえの口を押さえようとするが、みづえはまきのをかわして尚も叫ぶ。

練炭の淡い炎の周りを、ぐるぐる回る姉妹。


<第一部、了> 


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