旅びとの真夜中

眠れない夜には子守唄を思い出す

緩く巻き取られていく紐引きのオルゴール
薄く笑うボーダーシャツの仔犬
お腹に当たるあたたかい手のひらの熱

途切れつつ紡がれる少し外れた音程は
この世界の何より柔らかく

私は今深い森に立っていて
遠く麓に見えるぽつぽつとした灯りの群れ
何気なく寄せられて歩いている

包み込む大きな木のうろに座って
ひとつ息を吐く

遠く近く吠える声がする
悲しさや寂しさよりもゆっくりと
聞こえないくらいに馴染みよく

脱いだコートに頭を預けると
左手が胸の下に触れました

ここに今もいますか
あなたの声を思い出します
私は遠く遠くまだ歩けます

「おやすみなさい、またあした。」

微睡みの途中にもう一度
柔らかく息をしました


(2021年頃)

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