夜遊び

月が掌まで落ちてきた
案外大きいなと思った
落ちてくるとしたら本当の大きさではないというのは大体分かっていたから
しかしせいぜいソフトボールくらいの大きさだろうと考えていて
実際には夏のビーチで遊ぶ西瓜の風船よりも一回り大きい
それで西瓜よりは軽いがしっかりとした重さはあった

月だから当たり前ではあるが
中に兎が一匹いた
それでもやはり本当にいるとなると嬉しくなる
実際の兎よりちょっと小さいくらいだから
なるほど月がこのくらいの大きさなのも確かに理に適っている
しかし姿は随分違っている
まず全体が石みたいにごつごつしているし耳も長くはない
これがもし月の中にいなければ兎だとは思わないだろう
しかし石みたいなのは見た目だけで
兎は月の中をふわふわと動き回っている
顔を撫でるのが石みたいなぶん少し滑稽で笑ってしまう

この月をどうすれば良いのかと考えた
空に返すべきかとも思ったが
空を見ると普通の月がちゃんと浮かんでいる
それじゃこの月は一体どっから来たんだろう
偽物かとも考えたが確かに空の遠くから降ってきてた
そもそも今空にあるのが偽物なことだってあるじゃないか
しかしあれも現に今空に浮いている
少なくともどっちが先に産まれた月だろう
あの空の月がぽこんとこの掌の月を産んだりして落としたのか
それともこの掌の月が落ちてきてしまったから新しく空に月が産まれたのか

それにしてもこれじゃこの月はドッペルになるじゃないか
危うく月と月をツキ合わせる所だった
部屋の中にでも隠しておかなきゃならないか
しかしいつまでそうしてれば良いか
引っ越す時に邪魔になりはしないだろうか
新月の時に返したり出来るだろうか
でもそれで新月がなくなっても困る
そもそも返すことができるのかも分からない
返品不可ならとんだウサギ師だ
ところでこの兎は何を食べるんだろう
なにも食べないでいられるんなら楽で可愛いものだが
食べるものが分からないで飢えて死なせたりしたら嫌な気分になりそうだ

厄介なものを手にしてしまったもんだ
もしかしたら別の時に別の場所でも
同じように困った人間がいるんじゃないだろうか
そいつなら落ちてきた月をどうしたんだろうか
せっかく月を手にしてもそこら中に溢れてんなら有難みも薄くなる
せっかく月を手にしたのにこんな考えばかり浮かぶんなら勿体ない
いっそのこと本当に月を会わせてみようか
しかしそれで月が無くなってしまうのもやはり困りものである
月が手に入るのも良いことばかりではないんだな
とりあえず石の兎でも撫でておこうか
よく見れば薄く光っていて案外綺麗なものじゃないか
こいつが死んだら丸ごと穴に埋めて弔ってやろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?