仮4(鬼の夢)

鬼の夢を見た。集まった僕らの部屋の視界の隅、狭い廊下の陰から掌の大きさのチョコレートを投げる。一人がそれを見つけ、無邪気に頬張る。初め姿は見えないが、とても愛らしい姿の赤い小鬼であるようだ。また一つ陰からチョコレートが飛んでくる。僕もそれを一口で頬張る。そこは二階の一部屋で、たった一つ階段ばかりの廊下にチョコレートを拾いに行くと小鬼と鉢合わせ、二言三言、言葉を交わす。危ういところの無い、無垢な少年の風だった。それから僕は、一階の居間に移っていた。そこにまたチョコレートが一つ。僕はまた頬張る。そのすぐ後に、背後でまた小鬼が声をかけてきた。僕は何となく、食べたところを見られずに済んで良かった、と思った。初めて小鬼と二人きりで対面し、言葉を交わす。「おれの宝物、知ってる?」知らない、と答えた。会話はそれで済み、すぐに二階へ戻った。そこにいた叔父にいきさつを話すと、彼は顔色を変えて「手を洗ってはいないか?」と問うてきた。洗ってない、と答えると、「良いと言うまで水に触れるな。この部屋に篭っていろ。できる限り何も考えるな。」と言われた。そして部屋の窓を全て雨戸から締め切られ、「忘れるまでここにいろ。何も考えるな。」と改めて言われた。生活用品を除けるだけ除いた部屋を見回し、いざ戸を閉じようと言う時に、ふと気になって叔父に訊ねた。「ねえ、もしこの部屋の中に既に鬼が潜んでいるとしたらどうなるの。」すんでのところで戸を閉じ切る前に叔父と顔を見合せ、二人でもう一度部屋を見回した。部屋は薄暗く、白と黒が丁度半分ずつあった。そこで現実が気になって目が覚めた。

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