『Cedar!』シダー・ウォルトン アルバム・レビュー#1

『Cedar!』

1967年7月10日、ニューヨーク録音

レーベル:Prestige

パーソネル:
Cedar Walton(p)
Leroy Vinnegar(b)
Billy Higgins(ds)
Kenny Dorham(tp) on 1,2,4-6
Junior Cook(ts) on 1,5,6

シダー33歳のときに録音された初リーダー作です。
ジャケットは 「Cedar」(杉)という名前からの安直な発想で(笑)、木目調のデザインになっています。
トランペットでケニー・ドーハムが参加していますが、シダーのレコーディング・デビューはケニーの『This Is the Moment』(1958年録音)なので、それ以来の縁の深さを感じる人選です。

ドラムのビリー・ヒギンズは、シダーにとって最大の音楽的伴侶であり、私のドラム・ヒーローでもありますが、2人のパートナーシップは初リーダー作の時点から始まっていました。

※作曲者名の記載があるもの以外はすべてシダー・ウォルトン作曲

1. Turquoise Twice
Aパート:8小節→Bパート:8小節→Aパート:8小節→B'パート:8小節→Cパート:6小節という、少し変わった構成の曲です。
シダーらしいブルース・フィーリングが感じられます。
のちに「Turquoise」という3/4拍子の曲に改作(?)されますが、この曲はアルバム『Midnight Waltz』で聴くことができます。

ジュニア・クックのソロの後、ソロ順の混乱があったのか、はたまた後テーマに入りそびれたのか、シダーがテーマとほとんど同じメロディーを弾いた上で、仕切り直しといった感じでもう一度きちんと後テーマを弾いています。
個人的には一度演奏したことがある曲ですが、先述の通り一癖ある構成なので、ソロ中にロストしないよう注意が必要でした。

2. Twilight Waltz
「waltz」とタイトルにある通り、3/4拍子の曲です。
ケニーが前テーマを吹いた後、シダーがソロをとり、またケニーが後テーマを吹いて終わるという、わりとあっさりとした演奏になっています。
この曲はなぜかのちにタイトルが「Midnight Waltz」に変更され、シダーのリーダー作以外にもクリフォード・ジョーダンやビリー・ヒギンズのアルバムで聴くことができます。

作曲した時点では「Twilight」(黄昏)のイメージだったのが、後から「Midnight」(真夜中)のイメージに変わってしまったのでしょうか。
身も蓋もない言い方をすると、個人的には真夜中の曲にしては曲調が明る過ぎるし、黄昏の感じもそんなにしないかな……?と思ってしまいます。

3. My Ship (Ira Gershwin, Kurt Weill)
本曲では管楽器が抜け、ピアノトリオでの演奏となります。
クルト・ヴァイル作曲のスタンダード・ナンバーに、シダーが大胆な編曲を施しています。
シダーはスタンダードを演奏する場合でも、ただ単にジャムセッション感覚で演奏するのではなく、きちんと独自の編曲を施すことが多く、そこが私がシダーの音楽を愛好する理由のひとつでもあります。
この編曲はシダーの長年のレパートリーとなり、『The Trio vol.1』というライブ盤でも演奏されています。

シダーによるテーマのアレンジメント、ソロの内容ともに素晴らしく、またそれをサポートするビリーのプレイも秀逸です。
あまりに好きすぎて、聴くとかなりの確率で泣いてしまいます。
この曲もシダーの編曲で演奏したことがありますが、キメが多いので、自分でやってみると思ったより難しいです。

4. Short Stuff
タイトルを日本語に訳すと「短いやつ」といった感じでしょうか。
曲名の通り、8小節を2回繰り返すだけの短い曲です。
しかし内容は聞き応えがあり、ピアノソロ→トランペットソロ→ベースソロ→ドラムスとの8小節のソロ交換と、各プレイヤーの見せ場もしっかり用意されています。

5. Head and Shoulders
Aパート:12小節×2回→Bパート:8小節という、これまた変わった構成の曲です。テーマのメロディーもコード進行もかなりクセがあります。特にAパートでAb→G→Gb→Fの半音下降を2回繰り返してからの、5小節目の△7-b5の響きや、Bパートの半音でヌルヌル動くメロディーが何とも不思議な雰囲気を醸し出しています。
シダー以外の奏者がアドリブソロを演奏するのは難しかったのか、途中ビリーがソロを取っている箇所はありますが、それ以外はシダーだけがソロを演奏しています。
このアルバム以降、シダーは本曲をほとんど録音していないようですが、The Osian Roberts & Steve Fishwick Quintet というアーティストの『...With Cedar Walton!』というアルバムに収録されていることは発見できました。

(追記)
この曲ものちに若干の手直しを経て「Shoulders」というタイトルに変更され、クリフォード・ジョーダンのアルバム等で演奏されていました。

6. Come Sunday(Duke Ellington)
デューク・エリントンの名曲をシダーが編曲しています。
シダーはプロのミュージシャンとして本格的に活動を開始する前に、約2年間兵役で陸軍に徴兵されドイツに送られています。ドイツへの出発前、シダーのいたニュー・ジャージー州の基地にデューク・エリントン・オーケストラが来たそうです。シット・インしてもよいかどうか、シダーがデュークに直接たずねると、デュークはちょうど休憩をしたかったらしく、シダーにピアノを弾かせてくれました(出典:Ben Markley『CEDAR. The Life and Music of Cedar Walton』)。
テーマは6/8拍子でソロは4/4拍子になっています。イントロ〜テーマ部〜アウトロでのホーンのオブリガートやシーケンシャルなピアノのフレーズが印象的です。
馴染みのある曲でリラックスしたソロを聴かせるケニーとジュニア・クックですが、その裏で鳴っているシダーのコンピングも職人芸が光っています。

7. Take the A Train(Billy Strayhorn)
※CD化の際にボーナストラックとして追加
これもデューク・エリントン・オーケストラの代表曲のひとつです。本曲は基本的にアレンジはされておらず、ジャムセッション的な演奏です。最初から収録する予定ではなかったのかもしれません。
ドラムソロから後テーマへの入りで、シダーは間違えて1拍遅く入っているように聞こえます。他のメンバーがすぐそれに合わせているので、あまり気にはなりませんが。
短い演奏ですが、ケニー、シダー、ビリーのソロが楽しめます。


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