『Soul Cycle』 シダー・ウォルトン アルバム・レビュー #3

1969年7月25日、ニューヨーク録音

レーベル:Prestige

パーソネル:
Cedar Walton(p, el-p)
Reggie Workman(b)
Al "Tootie" Heath(ds)
James Moody(ts, flute)
Rudy Stevenson(gt)

シダー4枚目のリーダーアルバムです。
3作目の『The Electric Boogaloo Song』は、残念ながら音源が入手困難で、10年来のシダーファンの私もいまだに聴くことができていません。おそらくCD化もされていないので、現状聴く手段としては中古のレコードを入手する以外になさそうです。CD化またはネット配信の開始を願っています。

さて本作の話に戻ると、このアルバムの特徴としては、
・ギタリスト(ルディー・スティーヴンソン)の参加
・エレクトリックピアノ、エレクトリックベースの使用
・ストレート8thフィールの曲の多さ
が挙げられると思います。
ロック、ソウル、ファンクなど他ジャンルの勃興に押される中、それらの音楽の要素を取り入れ、より多くのリスナーに訴求しようという、レーベルの思惑とシダーの意欲が感じられます。
また同じ1969年にマイルス・デイヴィスは、いわゆるエレクトリック・マイルス期の初期の作品に当たる『イン・ア・サイレント・ウェイ』、『ビッチェズ・ブリュー』を録音しています。

本作に参加しているギターのルディー・スティーヴンソンに関しては情報が少なく、Wikipediaでもドイツ語版のページしか見つけられませんでした。ニューヨーク出身ですが、後年はドイツで活動していたようです。私の貧弱なドイツ語能力で読み取ったところでは、60年代にニーナ・シモンのバックバンドで5年間活動したほか、シーラ・ジョーダン、ウィントン・ケリー、デクスター・ゴードンらとの共演経験があるとのことです。

テナーサックス、フルートのジェームズ・ムーディーは、曲に合わせて楽器を持ち替え、雰囲気作りに一役買っています。
自身のリーダーアルバムを40枚以上残しているほか、ディジー・ガレスピーのバンドでも活躍していたそうです。
恥ずかしながら本作を聴くまで彼の演奏をほとんど耳にしたことがなかったのですが、ジャズ界には知られざる巨人たちがまだまだたくさんいるのでしょうね。

※作曲者名の記載があるもの以外はすべてシダー・ウォルトン作曲

1. Sundown Express
シダーお得意の、ファンキーなストレート8thフィールの楽曲です。のちに若干メロディーが修正され"I'm not so sure"というタイトルに変わっています。最近ではシダー本人の演奏よりも、トランペッターのロイ・ハーグローヴの演奏の方が有名かもしれません。

シダーはエレクトリックピアノを、そしてレジー・ワークマンはエレクトリックベースを弾いています。
アルバート・"トゥーティー"・ヒース(サックス奏者のジミー・ヒース、ベーシストのパーシー・ヒースの兄弟)の叩き出すビートが小気味良く、楽しい一曲です。

2. Quiet Dawn
AABA形式で、 Aは15小節のボサノヴァ、Bは16小節のスウィングフィールという構成です。
ジェームズ・ムーディーは本曲ではフルートを吹いており、それがリラックスした雰囲気のボサノヴァにマッチしています。
「Twilight  Waltz」「Midnight  Waltz」「Sundown Express」「Quiet Dawn」と、この頃のシダーには「一日の中の特定の時間帯」をタイトルに付けた曲が不思議と多いですね。

3. Pensativa (Clare Fischer)
2曲目に続いてボサノヴァの曲ですが、本曲はアコースティックなピアノトリオで演奏されています。
シダーの大幅なアレンジメントにより、キメキメのかっこいい曲に仕上がっています。作曲者のクレア・フィッシャー自身が演奏しているテイクと聴き比べると、違いが歴然とわかると思います。

シダー在籍時のアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのアルバム『Free for All』でもフレディー・ハバードの編曲によるヴァージョンが吹き込まれています。

最後はフェードアウトかな?  と思いきや、意外にもちゃんと終わります。

4. My Cherie Amour (Henry Cosby, Sylvia Moy, Stevie Wonder)
このアルバムと同年の1969年1月にリリースされたスティーヴィー・ワンダーの楽曲のカバーです。

シダーによるスティーヴィー楽曲のカバーといえば「Another Star」が最初に思い浮かびますが(私も大好きなアレンジメントです)、こんな曲もカバーしていたのですね。

ここでもアルバート・ヒースの叩くビートが素晴らしいです。

5. Easy Walker (Billy Taylor)
3. に続き、アコースティックなピアノトリオでの軽快なスウィングフィールの演奏です。個人的には、やはりこのような演奏でこそシダーの本領が発揮されるな……と感じてしまいます。エレクトリックピアノ使ったファンキーな演奏も、それはそれで格好いいんですけどね。
おそらくベースソロの途中からドラムの拍が裏返ってしまっているのですが、そのテイクをそのまま収録してしまうのがすごいですね。
ドラムとピアノのソロ交換の途中で、裏返っていたのが無事元に戻り、一安心といった感じです。
アルバート・ヒースのソロの内容からは、エルヴィン・ジョーンズの影響を感じます。

6. I Should Care (Sammy Cahn, Axel Stordahl, Paul Weston)
ビル・エヴァンス等も演奏しているスタンダードです。

シダーが気の利いたイントロ・アウトロを付けています。2曲続けてのアコースティックなスウィングフィールの演奏でホッとしますね。
高度な演奏技術と強靭なリズム感に裏打ちされた、融通無碍なシダーのソロが聞きどころです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?