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「それは私であり、あなたです。」演劇『LeFils息子』観劇レポート

2021年10月15日(金)
兵庫県立芸術文化センターで開催された
演劇『LeFils息子』を鑑賞しました。

想像を遥に超える名作だと思いました。

つらつらと、その理由を10個、書かせていただきます。

1.観劇中に思ったのが、どの役に対しても、「私だったら、どうするだろう?」という思いが
 ずっと巡っていました。
主役のニコラ。
ニコラの父親のピエール。
ニコラの母親であり、ピエールの元妻のアンヌ。
そしてピエールの再婚相手、ソフィア。
役名が日本人でも分かりやすい固有名詞です。特別な名前を付けていません。
そのことからも、脚本家フロリアン・ゼレールが、役の持つ普遍性を観客に伝えたかったのではないかと思われます。

2.誰もが父親と母親から生まれていること。
 奇しくも最近流行った言葉に「親ガチャ」という言葉があります。
そして、「親ガチャ」もあるなら「子ガチャ」もあるのではないか、という言葉も生まれました。
仕事で成功しているピエールの悩みは、唯一、息子ニコラのこと。
フロリアン・ゼレールは過去の作品『Le Pere 父』で、認知症の父親に悩む娘の姿を描きました。
観客は思ったでしょう。少なくとも私は思いました。
「ピエールの子どもがニコラじゃなかったら、、、」
「ニコラの父親がピエールじゃなかったら、、、」
しかし、これは抗えない事実です。
誰の子であるかは、そして誰の親であるかは、自分で決められません。

3.2番とよく似ているのですが、「もし、、、、でなかったら」という思いがいつも交錯していました。
 もし、ピエールとアンヌが離婚しなかったら、
 もし、ピエールとソフィアが出会っていなかったら、
 もし、ニコラが、もっと以前に自分の気持ちを両親に訴えていたら、、、
 その思いが常に頭の中を行き来していました。

4.セリフが胸にグサッと刃物のように刺さりました。
 これからお芝居を見る方のために具体的にその言葉は書きませんが、
 こんなキツイこと、セリフに書くんだ、、、と驚きました。
 人生の真実を突いていて、辛辣です。

5.公演プログラムが良い。
 最後のページに星野概念さんが書かれた「精神科医の考察/Le Fils 息子』台本から」が掲載されています。
このお芝居では、役で精神科医が登場するのですが、実在の精神科医さんからの考察が載せてあるのです。
冒頭には※舞台後半に出てくる内容が多く入っていますので、観劇後に読まれることをおすすめします。
との、但し書きがあったので、観劇後に読みました。皆さんも観劇後にお読みください。

6.泣きます。
観劇中に泣くことはあるでしょう。しかし、観劇が終わって、幕が下り、自分の席を立った瞬間、
涙がとめどもなく流れてきたのです。
それは私だけではありませんでした。
客席で涙を拭うお客さんが、たくさんいらっしゃいました。

7.こちらの投稿のタイトルにもしました。
「それは私であり、あなたです。」
お芝居を見ながら、私の姿を見ることが出来ました。
そして、私の気持ちがバイヤスとしてかかっていることは承知ですが、
私がこれまでの人生で出会ってきた人々の姿だと思いました。

8.舞台美術が洗練されている。
 特筆すべきは場面転換。
 暗転の時間が長いとお芝居への感情移入が途切れてしまいますが、
そういった事は一切無しで、
無駄のないオシャレでクールな舞台美術に魅了されました。

9.役者さんが上手い。
 ピエール役の岡本健一さんは数々の演劇賞を受賞しています。
またアンヌ役の若村麻由美さんは、舞台、映画、テレビドラマで活躍されているのは、
御存知でしょう。
ソフィア役の伊勢佳代さん、
医師役の浜田信也さん、
看護師役の木山廉彬さんも熱演されていました。

10.2年間のアメリカの演劇学校アメリカン・アカデミー・オブ・ドラマティック・アーツでの
学びを終えた、岡本圭人さんの初単独主演舞台であること。
2時間10分の舞台。
あの感情を作り出すのは、並大抵の努力では出来ないと思います。

さあ、今日と明日の兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールの公演で、
『Les Fils 息子』の上演は終わります。

お見逃しなく!


Le Fils 息子



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