リンクル3 carpet

並木道。寒さで手がかじかむ。
渚さんの手を自分のポケットに誘った。
「銀杏並木が綺麗ね」
「そうだね」
「ゆうやと付き合って3ヶ月かぁ···」
「渚さんも綺麗です」
ふふ、と笑って渚さんは
「ゆうやの髪も風に吹かれて綺麗」
と、さらっと髪を撫でる。
こういう時、こういうことをさらっと言ってしまう渚さんに、かなわないなぁ、と思う。同時に、年下の子には望めないことだな、と思い、渚さんを選んだ自分を誇らしく思う。
そして銀杏のゴールドカーペット。
踏みしめて家へ帰る。
オレたちだけのカーペット。

「渚さん、渚さーん!!」
次の日、会社で、3階フロアのゆうやが5階フロアの私の部署まで来た。
「社内コンペです!オレ、ポスター作ります!渚さんモデルにします!」
「え!!?」
「渚さん美人だし、絶対イイ線いくと思います!お願いします!モデルになって下さい!!」
・・・返事は3日待ってもらった。

「ハハハハハ」
同じフロアの百合子は大笑いした。
「惚れられてるじゃなーい」
「そうなんだけど···真っ直ぐでビックリするわ。わたしも若い時は、あんな時あったもんなぁ」
「そうね、渚もあんな感じだったもんね、真っ直ぐで。似てるのよ。藤内くんと。それに」
百合子はわたしを眺めて、
「渚を自慢したいのよ。渚、綺麗になったもんね」
「そう!?」
「そうよぉ」
「もー、ポスターのモデルかぁ···」
「明彦さんよりはいいんじゃない?」
「この前、一緒にいるところを、ゆうやに見つかって」
「それで?」
「ゆうや、かなり怒った」
「でしょ。年下男にとって、大人の男って、敵なのよ。しかも元ダンナ。」
「で、コレ」
「何それ!?お守り!?安産祈願!!?」
「ゆうやが」
「キャハハハハ!!!はー笑った、面白いじゃなーい、若い、若い、仕事も出来るし、センスもいいし、間違いないわよ!本気だし!」
「···自慢していいのかな?」
「何を?」
「10も年下の男と付き合ってるって自慢していいのかな?」
「キャハハハハハハ」

百合子に大笑いされたけど、『自慢していいわよ!』の一言で、モデルになろうと決めた。エステ···?サロン···?
待って待って!!冷静に考えると、わたし、モデルなんて柄じゃないのよ!
とにかく予約取らなくちゃ!!

「渚さん!話受けてくれてありがとうございます!」
「苦労したわよ」
「じゃ、インテリア整えてあるんで、オレの部屋に」
ゆうやの部屋のインテリアは何と言っていいか、地中海風になっていた。赤と青と白。緑も混じり、太陽に映える。
「渚さん、これに着替えて」
「え?」
水着!!?
「待ってよ!こんなの着れるわけないじゃない!わたしの歳考えてよ!!」
「イタリアやフランスでは年上女性も、フツーに水着着ます!自信持ってください!渚さん!!」
「わかったわよ!!」
もー、ヤケクソだ!!

「ありがとうございましたー!!渚さん!!」
「疲れたわよ!無理なポーズさせるんだもん!」
「渚さん、若い、若い!!」
「冗談じゃなー···」
「渚さん、今日、スッゲーキレイ」
「ちょっとゆうや」
「水着の中身見たい、オレもう我慢できない」
「ゆうやー···」


「渚さん、マジ、キレイなんだけどどうしたの?」
「エステやサロンよ、もう、大枚はたいたんだから!!」
「渚さん、行こ!!服着て!」
「え!?どこに!?」
手を引かれて行ったのは銀杏並木だった。

カーペットのように敷きつめられた銀杏。
「渚さん、笑って!ゴールデンカーペットだよ!」
ゆうやといると、エステに行って、サロンに行って、ポスター撮って···。何も無かった毎日に、様々な出来事が起こる。新しい風が起きていく。
わたしの生活が鮮やかになっていく。
「コンペで1位になったら、オレ、渚さんを地中海に連れて行こうかな」
「言ったな!」
突然、私の生活になった10歳年下の男の子。
年の差10歳も悪くない。
38も悪くない。
「···誇りに思うよ、ゆうやを」
「渚さん!?なんて言ったの?」
「なんでもない」
ーなんてね。

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