突然大学院に行こうと思い立ち、準備期間2週間足らずでTOEFLを受けた地獄の日々の話

記事タイトルの通りのことが今年ありました。
なかなかに面白い体験だったので書き記しておきます。

社会人で大学院に行くことを検討している方や、何らかの理由でTOEFLを受けようとしている方には参考になるかもしれません。

結論

大学院に行こうと思い立ち、受験(社会人枠)に必要だったので準備期間2週間足らずでTOEFLを受けました。本当に地獄のような日々でした。

ですが、TOEFLは受けたものの、結局大学院を受けること自体を考え直し、せっかく受けたTOEFLの点数はお蔵入りとなりました。なお点数は90点弱、準備期間の割にはそこそこ満足の行く結果でした。

たまには英語を勉強するのも良いので、その機会としては良かったと思います。ただ、準備期間が短くて良いことはひとつもない。みなさん、TOEFLやTOEICなどが必要になる可能性のある場合は余裕をもって準備をしましょう。

ことの経緯

今年の6月頃に突然、社会人大学院でなにかをしっかりと学びなおしてみたいという衝動に駆られる。

きっかけはあまり覚えていない。当時、資本主義経済の歴史と今後について強い興味があり、経済学分野の大学院に行けないかと思い立つ。この時、社会人大学・及びTOEFLについての知識は全くのゼロ。

社会人大学の体験記や関連書籍などをいくつか読むも、「そもそも選択肢としてそういうチョイスはありなのか」「どうやって大学を選んだら良いのか」「現実問題として通えるのか」「どれくらい入るのは難しいのか」など、基礎的なことからして全くわからず行き詰まる。

この分野は、思った以上に活きた情報を掴むのが難しかった。

ブレークスルー

そういうときの解決方法は大体決まっている。「小さく試す」か「経験者と話す」の2択しかない。

今回の場合は前者の方法としては「オープン講義」を受講するなどがあったが、開講のスケジュールなどが決まっており、今すぐ生の情報を得たい自分には時間軸としてそぐわなかった。

そこで後者の方法を取ることにした。
この選択が自分の運命を大きく変える。

ネットで検索したところ、「社会人大学を検討している人向けの相談所」をやっている人を見つけることが出来た。社会人として民間企業でバリバリ働いた経歴を持ちながら、早稲田や東京大学といった大学院に社会人在籍した経験を持ち、バックグラウンドとしてはかなり参考になりそうだったので、迷わずコンタクトを取りZOOMでオンライン相談の時間をもらうことに。

指針

1時間のカウンセリングを通して、この先輩からいただけた全体指針は非常に明確だった。

ひとつめは「何も考えずにとりあえず受験すればいい」というもの。

受験料は3万円程度でさほどクリティカルな出費ではないし、入学するかどうかは合否判定をもらってからじっくり決めれば良いことなので、まずは気にせずに受験をしてみればよい。

実際の受験と、合格判定書を目の前にすることでよりリアルに大学院に入るということが実感できるので、進学するかどうかは決めずとも、受験をしてみるのが何より早い。また入学してからも、学部によるがほぼ無期限で休学処置も出来る。故に、まずは入学の切符を手にすれば、やりかたは色々と考えられる。

ふたつめはシンプルに最高峰、つまり「東京大学を目指せ」というもの。

大学は山ほどあるので、迷っていたらきりがない。東大を目指すのが最もモチベーションも上がりやすいし、無駄な悩みも発生しない。経歴的にも十分狙えるので、目指さない理由がない。ご本人も似たような理由で東大を選ばれていただけに、納得感はあった。

いずれも、私自身の性格や指向性を汲み取ってくださった上での提案だと感じられ、スッと腹落ちするものがあった。

最後に先輩は言った。

「なにはともあれまずは東大の受験スケジュールを見てみなさい。最近はオンラインで説明会などもやっているからそれは必ず参加したほうがいい」

衝撃の事実

言われるままに東京大学院の入願HPを見て、情報を探った。そしてわずか5分ほどで、とんでもない事実が判明する。

まず、入学希望者向け説明会は確かに開催の告知があった。
しかし、すでに開催は終わっていた。落胆。

そして、出願期限。

7月の上旬書類必着のこと、とある。

このとき、6月下旬に差し掛かる頃。

残り時間、3週間弱....!

この日から地獄が始まった。

発狂

まず、出願に必要な書類を集めなければならないのだが、この把握がすでに一苦労だった。
もし大学院受験を実際に考える方がいらっしゃればこの点は注意してほしい。

大学院のHPというのはお世辞に行っても見やすいとは言えない。というか、見づらい。情報が全くオーガナイズされておらず、IT界隈で洗練されたUIのものを見慣れていた私からすれば、はっきり言わせてもらうとあまりのわかりづらさに殺意が湧くレベルだった。

そして、学部ごとにHPが異なり、入願案内のページの内容やフォーマットも全く異なる。この時分、ZIPファイルをDLして解答し、その中に入っている謎の情報分割をされた複数のPDFやExcelファイルを順番に見ていかないといけない。そして、また記載の文書が悪意の欠片を感じるほどに明瞭さを欠いている。

これを解読するだけでもひと仕事だ。

また、ある学部では募集要項のDLリンクがリンク切れを起こしていた。期限が迫っていた中で、半分発狂しながら大学事務に電話したときに「あーそのうち直ると思います」という返事を頂いたときの気持ちは今も忘れない。

当時、情報を噛み砕いて必死にnotionにまとめたものが残っている。
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まとめてしまえばこれだけなのだが、この情報を集めるのに半日作業だったことは、経験していない方からしたら笑い事にしかならないだろう。

準備

簡単にまとめると、社会人の場合出願に必要なものは

・推薦書(2名)
・職務経歴書
・TOEFLのスコア証明
・研究趣旨説明書(計画書)
・学生時代の各種証明書

だということがわかった。
タイトだが、3週間あればなんとかなりそうではあった。

まず、すぐに母校の早稲田大学に卒業証明・成績証明を送付してもらう手続きをした。これはWebから簡単に請求できた。スムーズなUX。早稲田はこのあたりは比較的しっかり投資しているイメージがある、母校よありがとう。

また、過去の職歴の恩人2名にメッセージをしたところ、推薦書を快諾いただけた。藤崎さん、今津さんありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

推薦書の内容自体はこちらで叩きを作ってお渡しするのが礼儀だと考え、その草稿もすぐに仕上げた。この時ばかりはメルカリ時代に、四半期ごとに膨大な量のメンバレビュー・ピアレビュー評価を書いたのが活きた。推薦書はいわば自分に対するピアレビューだ。

そして、TOEFL。名前は聴いたことがあったが、人生でこいつとお関わり合いになることがなかった。残り3週間、まあなんとかなるか?このときの僕は何も知らなかった。

TOEFLの悪魔

まず、最初に判明したこと。

TOEFLは受験してから結果が郵送で約1ヶ月かかる。ただし、急ぎの場合はオンラインでの確認できる証明書相当のものも発行できる。ただし、スコアが出るまで受験後最短でも6-10日かかる。

ということは、出願から逆算して10日前には受験をしないといけない。3週間だと思っていた準備期間が、あっという間に10日間縮まり、2週間弱になった...考えてみれば当たり前の話だ。10日で結果がわかるだけでもありがたいというものだ。しかし当時の僕には、この事実は「絶望」の2文字と等価交換できる事実でしかなかった。

そして、このとき初めて調べて知ったTOEFLというテストの実態。こちらのサイトの記載を抜粋させていただこう。

TOEFL iBT®テストはリーディング(Reading)、リスニング(Listening)、スピーキング(Speaking)、ライティング(Writing)の4つのセクションで構成されています。受験者は試験会場で各自で1台のコンピュータを使用し、画面上で問題に解答していきます(専用マイク付きヘッドフォンを使用)。試験時間は約4時間~4時間30分です。

テストはすべて英語で行われ.....

一体どういうことなの....
まずなぜひとつのテストに4時間30分もかかるのか理解が出来なかった。
そしてスピーキング?それはどうやってテストするんだろうか。

勉強

もはや時間がなかったので、シンプルな戦略を取ることにした。

戦略その壱。
勉強はひたすら模擬試験を解くことだけに集中する。

新しく単語やイディオムを覚えている時間はもはやなかった。今から出来ることは、久しぶりに英語に体を慣らすことと、問題の形式に慣れることだけだった。

戦略その弐。
まず、苦手意識の薄い順に攻略する。
具体的には、Listening -> Reading -> Writing -> Speakingの順番。

TOEFLはListeningもReadingも鬼のように長いセンテンスを聴かされる/読まされるため、英語で馴染んでない頭のまま挑んでも全く歯が立たない。

なので、まずはその2つの模試を受けまくり、自分が出せる最大値を発揮できるところまで頭を覚醒させる。新しいことを覚える余裕はないので、自分のポテンシャルMAX以上を目指すことは諦める。それでも足りない分を、Writing, Speakingの点数向上(主にテクニック的なもの)でなんとかする。これで行くしかない!

問題集

ちなみに、模擬試験問題を集めるのにも苦労した。

TOEFLは都市型のコンパクト×売れ筋のみを扱うタイプの本屋には置いていないことが多く、山程あるTOEICの問題集の中にTOEFLは一切見つからない現実を恨めしく思いながら、渋谷の本屋を4軒回ってやっと参考書を手に入れた。これで3回分の模試 + 解説が手に入る。

オンラインでは、TOEFLの公式サイトで全セクション×2回分の模擬試験が公開されている他、testdenというサイトでは14000円で4回分の問題が買えた。


また、Listeningに関しては、Youtubeに問題を垂れ流している動画が沢山あることがわかった。これはありがたかった。これで移動中や風呂の時間にもListeningの勉強が出来る。

この時点で、ここで揃ったもの以上の文献には手を付けないことを決めた。
コードフリーズ。あとはひたすら解くだけ。

魔界の門が開いた10日間

ここからの10日間は本当にキツかった。

まず1日にReadingとWritingの模擬試験を2セットづつ解くことにしたが、これだけで約3-4時間掛かる。

7時前に起きてカフェでそれぞれ1セット、その後WeWorkに行き仕事の合間を縫ってWeWorkのテレカンブースで1セットづつをこなす。

また、testdenでは、Speakingも吹き込んだ音声を採点してくれる仕組みがあったため、テレカンブースで一生懸命英語を喋っていた。

幸い、readingとlisteningは過去にTOEICを受けたり大学受験をしたり、外資で仕事をしていたときの感覚が戻ってきて、それなりの点数(30点満点で20-24くらい)は出せるようになった。

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勉強して3日経過くらいのときの模試のスコア

しかし、Speakingは本当に嫌だった。最初の頃は模試の点数はこの通り散々だった。こちらのサイトに問題例が載っているが、

「Talk about a book you have read that was important to you for some reason. Explain why the book was important to you. Give specific details and examples to explain your answer.(訳:おめーにとって大事な本について説明してみ。理由と具体的な例も忘れずにな。ほれ、喋れ)」

知らんがなって感じですよね。これで即興で1分間英語で喋らされるんですが、これやってみるとメチャきついですよ。

日中はそんな感じで模試と仕事に明け暮れつつ、夜は東大経済学部の研究室を調べたり、SpeakingとWritingのテクニックを調査したりしていた。

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当時のメモ(テクニック)


鬼門と幸運

ReadingとWritingは当初の作戦通り、模試をひたすら解いて慣らせばなんとかなりそうなことわかった。

また、Writingはテクニックを駆使すれば点数はあがることもわかった(論旨を2−3に分けて書く、論理性を重視する、なるべく色んな種類の単語を使う、具体的なエピソードを混ぜる、など)

一番の鬼門はSpeakingだった。練習するのが億劫なのだ。こればかりは、当然何度も話す練習を繰り返さないとうまくならないのだが、ひとりで下手な英語を話すのはかなり気恥ずかしい。また、途中で一度詰まってしまうとそこで諦めてしまい、1分間続けて話すという練習がどうしてつも積めない。

しかし、ここで救世主が現れる....My Wife。彼女は留学経験があり英語が話せ、いまも仕事で英語を使っている。人がいる効果は覿面だ。途中で諦めないように叱咤してくれる。彼女が英語がわかるというのもデカかった。こうした幸運にも恵まれ、Speakingの点数も少しづつ上がっていった。

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70点程度は安定して出せることがわかった。経済学部であれば70-80、国際政治経済は80-90程度あれば英語での足切りはない、という通説の流布がインターネッツ上で見かけられたので、頑張ればなんとかなりそうな水準には達することが出来た。

当日

約10日の英語漬けの日々を経て、心身ともにヘロヘロだったが、受験当日もかなり苦難に見舞われた。TOEFL IBTテストは自宅でPCで受験できるのだが、不正防止のために大掛かりな準備が必要になる。

これは手っ取り早く言えば、TOEFL協会謹製のスパイウェア的なものをMacにインストールさせられ、試験中は常時WebCamでこちらが写っている状態にさせられれ、また遠隔遠隔でこちらのMacの操作が出来る、開いているアプリケーションを監視されるという状態になる。このシステムを通して、ひとり専任の監視員が受験中ずっとつくことになる。

この準備を試験受験前に行うのだが、既存のなにかのソフトウェアとコンフリクトしたのか、設定がうまくいかずにそのトラブルシューティングに1時間を要した。準備に時間がかかりすぎると受験延期になる場合があるらしいので、その日に受けないと結果が大学出願に間に合わないシチュエーションの自分としては、この1時間にかなりの心的ストレスを負った。

また、なぜかこの日に限って家の前の取り壊し中のビルが大きな音を立てて解体工事を元気に始めだしていた。集中できるかな...

幸い、なんとか設定が済むと中継がつながった監視員はナイスガイで、テキパキと受験準備の指示をしてくれた。(部屋の中をカメラでパンで映させ、PCの周囲に何も無いことの確認や、スマートフォンを電源オフにして手の届かない場所に置く、などの手順を踏まされる)

そんなこんなをしているうちに、乱れた心もやや落ち着き、工事の音を頭の外に払いながら、比較的集中してテストを受けることは出来たと思う。

試験時間、約4時間。
あれだけの集中力を発揮させられる機会は人生でも早々あるまい。


スコア

ちょうど10日後にスコアがWebページで公開された。

結果は、R : 24, L : 22, S : 19, W :21 で 合計90点弱。

模試で70-75を彷徨っていた自分としては、想像よりも良い出来だった。
WritingとSpeakingが高得点を出してくれた。妻に感謝。

水準としては、東大でも英語での足切りは超えているだろう。

結末

しかし実は、このスコアが返ってきた頃には、僕は大学院への出願を見送るという結論に至っていた。

理由はいくつかあるが、熱望できる研究室を見つけるには時間がなさすぎる、というのがクリティカルな問題だった。

大学院は何を於いても研究室次第だ。経済学と言っても、その分野は細分化されており、各研究室が特定の領域に特化して研究をしている。心から時間をかけて取り組みたいと思えるテーマの研究室でないと、お互いにうまくいかない。しかし、僕には経済学という領域においてその細分化の解像度が足りず、またそれを補うのに十分な時間もなかった。その状態でプロセスを進めるのは違うと思ったし、何より不誠実に感じられた。

そうして僕の手元には使い所を失ったTOEFLの点数だけが残った。

ちなみに大体のアカデミック機関において、TOEFLの有効期間は過去2年以内のスコア、が規定らしい。

つまり2年経つとこのスコアは実質失効する。いつかまたTOEFLの点数が必要になることがあるか、それはわからないが、できればずっとこの点数を使わせてほしいものだ。

もう二度とTOEFL受験はしたくない。

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