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任期付き教員の2023年問題と札幌大学事件の不当判決の衝撃

〔1〕 6年間の闘いで非常勤講師の雇用はやや安定

 2019年度は、6年間にわたる当組合の闘いの結果、ほとんどの大学で非常勤講師の 5 年上限が撤回され、非常勤講師の非常勤講師の無期転換が進み、非常勤講師の雇止めは激減しました。例年、多い時には数十名の雇止めの相談があるのに、桜美林大学を除くと今年は数名に留まっています。また桜美林大学に関しても、個別の雇い止めやコマ減に関しては交渉中ですが、業務委託による大量雇い止めは阻止することができました。このように、非常勤講師の雇用はやや安定に向かっており、これは当組合をはじめとする全国の非常勤講師組合の共同の闘いの成果です。
 その一方で、専任の教職員の労働条件の引き下げや、任期付き専任教員の雇用の不安定化が目立つようになりました。とくに任期付き専任のいわゆる「 2023年問題」が焦点となっています。

〔2〕 「教育に特化した大学」論による大学崩壊の進行

 山梨学院 大学では、「教育に特化した大学」を目指すとして、今後は専任教員の研究を業務としては評価しないことが宣言されています。これは、教育と研究を二本の柱とする大学の責任を完全に否定するものであり、大学崩壊の道です。山梨学院のように公然と宣言する大学はまだ少数ですが、少なからぬ大学が本音では、同じことを考えているように思われます。

(1) 専任の待遇引き下げ(山梨学院など)又は労働強化(日大、東海
大など)

 教育に特化した大学では、専任教員の研究がどんなに素晴らしいものであっても大学での業務としては評価されないので、専任の教 員 は、賃金が大幅に引き下げられるか、責任担当講義数が増やされるかのどちらかになります。
 実際、山梨学院では、専任教職員の一時金が大幅に引き下げられ、日本大学や東海大学では、専任教員の担当講義数が増やされています。このようなやり方は、大学非常勤講師の雇止め・コマ減にもつ大学非常勤講師の雇止め・コマ減にもつながりかねないものです。

(2)業務委託化による教育の放棄(桜美林など)
 大学崩壊のもう一つの現れは、ベネッセや語学学校に教育の一部を丸投げし、外注化を進めることです。これは、大学が教育さえも放棄することを意味し、非常勤講師の雇止めにも直結します 。

(3)任期付き専任教員の急増と2023年問題
① 任期付き専任教員の急増 ――終身雇用専任教員の「少子高齢化」

 既に大学の講義の約半分を占めている非常勤講師をこれ以上増やすことには大学設置基準上の制限があるため、増加は頭打ちになっています。その一方で、任期付き専任教員は急増しつつあります。現状でも、専任教員(常勤教員)の4分の1が任期付き( 2018 年 5 月 20 日『朝日新聞』)となっています。専任教員の退職後の新しい公募は任期付きの方が多いので、終身雇用の安定した専任教員は、高齢化し減少していくと思われます。

② 任 期付き激安専任教員の募集(学芸大など)
 最近話題となった学芸大の専任教員(特任教員)の公募では、年収で計算すると非常勤講師よりも安い待遇が提示されています。その公募内容は概略以下の通りです。
「専門領域 哲学・倫理学。職名 特任教授又は特任準教授又は特任講師。
職務内容 学部生に対する講義のほかに、卒論指導・修論指導。教室会議出席、合宿研修引率、教育実習の連絡教員、学部の入試業務。
応募資格 博士の学位またはそれと同等の研究業績を有すること。任期 1 年間(更新の可能性あり)勤務条件 勤務時間1日 8 時間以内、 1 週当たり 12 時間以内、年間 400 時間以内。給与等 4100 円 6210 円(時間給)」
 要するに、特任教授・准教授でも、専任の業務を全て果たした上で、どんなに働いても、年収 164 万円~ 248 万4000円 以下ということになります。これは、週 10 コマ程度の非常勤講師の年収 300万~ 360 万円)をはるかに下回る水準です 。
 今後は、非常勤講師よりも安い賃金で任期付き専任教員を採用する大学が増加すると思われます。

③ 任期付き教員の無期転換直前の雇止め
 従来は、3 年とか 5 年の任期が付いていても、 有 期契約のまま更新される場合が多かったが、 2013 年に労働契約法 18条が施行されて、 5 年(例外として 10年)継続勤務で、無期転換の申し 込み ができることになりました。任期付きの専任教員を無期転換して、終身雇用並みの待遇 にした場合と、無期転換前に雇止めにして、新たに非常勤講師又は低賃金の任期付き専任教員を雇う場合では、生涯賃金で一人 1 億円程度の差が生じます。
 そのため、無期転換を恐れて2013 年から 10 年たつ 2023 年になる 前に雇い止めする動きが強まりました。これが任期付き専任の 2023 年問題です。

〔3〕 2023 年 問題をめぐる二つの道

(1) 札幌大学事件不当判決 7年勤続の任期付き専任教員の雇止め容認
 任期付き専任の雇止めが増えている中で、今年の 9 月 24 日に札幌高等裁判所は、7年間勤務( 2013 年以降 4 年勤務)した任期付き専任教員(准教授)の雇い止めを「 裁量 の自由の範囲」とする驚くべき判決を下し まし た。これでは、無期転換前の有期雇用労働者の期待権がほとんど無視されることになりかねません。
(2)神奈川大学で画期的な成果
 他方で、2019年11 月 28 日の団体交渉において、神奈川大は、首都圏大学非常勤講師組合と大学等教職員組合に対し て 5 年を超えた任期付き教員の無期転換を認めることを約束しました。当面、当組合は、任期法適用について採用時に同意書を交わしていない場合には、5年で無期転換申込権が生じることに基づき各大学と交渉し、任期付き専任教員の無期雇用化に取り組みます。           (首都圏大学非常勤講師組合委員長 志田昇)

出典:首都圏大学非常勤講師組合 機関紙『控室』2019年12月

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