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【書評】あやうく一生懸命生きるところだった

あやうく一生懸命生きるところだった/ハ・ワン=文・イラスト 岡崎暢子=訳

今回はこちらの本を書評します。

一生懸命生きてきた結果……

イラストレーターのかたわら会社勤めのダブルワーク。
生きるために一生懸命。そんな人生に40歳目前になって、見切りをつけた? 嫌気がさした? 魔が差した? とにかく会社に辞表を提出してしまった著者。
会社が嫌いになったわけでも、イラストの仕事一本に集中したかったわけでもない。ただ、一度くらい勝ち負けにこだわらない生き方をしてみたかっただけ。
そんなハ・ワンさんのこれまでの生き方や悩み、生きづらさの正体、そして気持ちが少しでも楽になるための考え方などが本人のイラスト挿絵とともに描かれる本書。
ぼくとしてはかなり身につまされるところがあって手に取ってしまいました。

全然ダメな人じゃない

40歳手前で急にふわっとした理由で会社を辞めた彼。もしかすると「お? ダメ人間か?」と思い勝手に共感を覚えてしまう人がいるかもしれない。
ええ、ぼくです。
でもこの人全然ダメ人間じゃないどころかむしろハイスペックと言っても過言ではない経歴を持っています。

・三浪したとはいえ韓国一の難関美大のホンデ(=弘益大学校)に合格。
・大学に籍を置きながら美術予備校の講師のバイトをして学費を自ら稼ぐ。
・絵本を描いて出版した経験もある。
・文章が上手く、作家としても活動している。
・彼女もいるっぽい(笑)

まっとうな人生とは言えないかもしれないがどう考えても多才だし、少なくとも若い頃は行動力もあったとしか思えない。
全然ダメ人間ではないですね。ただちょっと、サバイバルレースのような生き方が水に合わないだけで。

何も解決しない等身大の言葉

本書は実用書ではありません(と思います)
彼の人生訓めいた言葉は実はなんにも解決することができないものばかりです。
「努力は必ず報われるわけじゃない」
「そこまで深刻に生きるものじゃない」
「「ムダ足」こそ人生の醍醐味だ」
「いつかはみんな会社を辞める」
「思い通りにいかないほうが正常だ」
自らの人生における実感から発せられた彼の言葉は全然前向きではないし何かを解決することもありません。ただ、ちょっとだけ気持ちが軽くなります。
多分それは決してヒーローではない等身大の彼が言う言葉だから、普通のぼくたちに響くのでしょう。

別に今読まなくてもいい人もいるでしょう

人生がおおむね順調な人、毎日が楽しくて仕方ない人、疲れ知らずで新しいことにどんどん挑戦できる人。
そんな人たちはこの本を読む必要はないでしょう。あなたは十分に強い。
でもちょっと今の生き方に疲れてしまったな、という風に感じる人は本書が寄り添ってくれるでしょう。
そうです。
この本を買ったときのぼくは疲れていました。
一過性の熱病にうなされすっかり体力が落ちてしまい何をしても楽しめなくなってこれからどうしたらいいのか、つらいつらいつらい。そんな気分の時この本を読みました。
別にこの本を読んで命を助けられたわけでもないですし、気持ちが軽くなったとかそれこそ軽いことを言うつもりもありません。ただ、水のようにすっと入ってきた、という感覚ではありました。

心からそう思う

最後に本文から名言を紹介しておわりにしたいと思います。

思いっきり夢見ることが許される世の中になってほしい。
心からそう思う。
そして何よりも、特別な夢なんかなくても幸せでいられる世の中であってほしい。

ハ・ワン『あやうく一生懸命生きるところだった』第3章より

続編も出ています。


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