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グライダー人間

外山滋比古氏『思考の整理学』を読み返す機会があったのだが、この本は40年近くも前に書かれたものなのに今でも色あせない。
現代に通じる問題をその慧眼で見事に指摘している。

外山氏の社会を見つめる目の鋭さとそれを言語化する力に感服すると同時に、社会は40年前から指摘されてきたことを解決できていないともいえるので頭を抱えてしまう。

グライダー人間とは

思考の整理の方法をエッセイ形式で綴ったものだが、その中で「グライダー」という例を用いて問題提起をしている。

 ところで、学校の生徒は、先生と教科書にひっぱられて勉強する。自学自習ということばこそあるけれども、独力で知識を得るのではない。いわばグライダーのようなものだ。自力では飛び上がることはできない。
 グライダーと飛行機は遠くからみると、似ている。空を飛ぶのも同じで、グライダーが音もなく優雅に滑空しているさまは、飛行機よりむしろ美しいくらいだ。ただ、悲しいかな、自力で飛ぶことができない。

外山滋比古『思考の整理学』p11

簡単に言うとグライダー人間とは「教えられたことをその通りにやる人間」のことだ。
外山氏がこういった問題提起を起こすきっかけは、大学生が論文を書く段に入って「何を書いたらいいかわからない」と相談に来る、それができの悪い生徒に限らず、むしろ優秀な生徒ほど自分の力でテーマを見つけることができない、といった経験からだそうだ。

ここでいう優秀な生徒とは「学校の成績が良かったもの」といった意味であろうが、その評価を行うのもまた学校なのである。
すると「いうことをよく聞いて指導通りのことを再現することが得意な生徒」が高評価を得る、というシステムになってしまうのは自然なことと言える。
そこに行動力や独創性、つまりグライダーと飛行機のたとえに従えば「エンジン」は必要ない。

さらに外山氏は「グライダー人間」についてすべてを否定するわけではないが、コンピュータの登場によって自分で飛ぶことができない人間の存在が脅かされる未来を示唆している。
これはさすがの慧眼だと思う。

機械やAIが人間の仕事を奪うというのはかくも前から指摘されていてその憂慮の通りの未来が来ている。
すっかり人間が働かなくてもいい世界はまだ来ないかなーと思っているもののそれは当分訪れそうにない。
なぜならコンピュータが仕事を奪った分、また別の仕事が増えるのだ。

コンピュータは考えない人間のしていた仕事を奪うぶん、新たな仕事を生む。
さすがの外山滋比古氏でもVtuberなる存在が現れその市場がこれほどに大きくなるとは夢にも思わなかっただろう。

その新しくなっていく社会の中で活躍しているのは、機械に使われる人間では無く機会を使う側の人間である。

現代の教育界の取り組み

じゃあグライダー人間ばかりではなく飛行機人間を育成するために国はどのような取り組みをしているのか。
「アクティブラーニング」と銘打った取り組みとしてグループワークだとか教え合い学習などを授業に取り入れている学校も昨今増えてきているようである。
その是非や効果はまだちょっとよくわかんないっす。
方向性もあっているのやら……

塾で生徒を教えていると気づくのは2つ。
・とりあえずやってみるということをしない
・間違えることを極端に嫌う
こういった生徒が最近目につくようになった。いや、昔から大勢いたのかもしれないが。

そこそこ多くの生徒たちは「正しいやり方」を欲していて、そこに至る道はどうでもよいと思っていたりする。
くわしく説明しようとした「そんなんいいから答え教えてください」みたいな態度をされることもしばしばあったりする。

「タイパ」とやらを重視する現代の風潮とも相まってすぐに結果が出ることを望む子が多い。
でも、そんな時代だからこそ時間がかかろうとも自分の頭で考えられる人が頭角を現すと思うのですよ。

まずはじっくりと試行錯誤する練習を行なっていくべきではないだろうか。

↑小学生の生徒にはこの考える力ドリルを解いてもらっています。
学年を問わず、1年生用のものから順に始めてもらうのがおすすめ。
効果があるのかどうかは長い目で見ないとなかなかわかりません。
しかしながら問題に対して試行錯誤しながらじっくりと向き合うトレーニングをする機会を作る教材ってなかなか貴重です。

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