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【書評】『さいはての彼女』原田マハ

旅はお好きですか?
普段はそうでもなくてもあるときふと旅に出たくなる時ってありませんか?

原田マハさんの『さいはての彼女』は旅をテーマにした4つの短編をまとめた本です。

どの話も主人公は女性で、仕事に生きるキャリアウーマンだったり、未亡人だったり、どこか疲れていたり傷を負っている人たち。
彼女たちが旅の果てに何を見て何に気付くのかがテーマです。


さいはての彼女

最初の短編が表題作であるこちら。
主人公スズキスズカは勢いのある女社長。
信頼する秘書に会社を去られることになり失意の旅行に出かけることに。
沖縄での優雅なバカンスのはずがなぜか行先は北海道の女満別。
セレブな旅とは程遠い田舎で奇跡的な出会いを果たします。
「サイハテ」という名のハーレーに乗った少女・凪。
その場所、その道の、最も快適な走り方を熟知し、純真さと人懐っこさで多くの人を巻き込んでいく魅力を持った女性です。
彼女との出会いで少しずつ変わっていくスズカの心情が見どころです。
北海道の広い道路を大型バイクで切る風の心地が感じられる一編です。

旅をあきらめた友と、その母への手紙

次の話の主人公は、友達には「ハグ」と呼ばれる波口という女性。
出世、結婚、育児など細かに立てていたプランは、付き合っていた彼が「おれは君の成功アイテムじゃないから」という言葉とともに彼女のもとを去って崩れ去ってしまいます。
失意のうちに仕事を退職。無職の彼女には友人・ナガラから旅行の誘いがやってきます。
女性二人の気安い旅行。いくつもの季節、いくつもの土地を二人で旅していく中でハグとスズカはよく笑いよくしゃべり、よく食べ、よく眠りました。
ある日、とある事情でナガラはしばらく旅行に行くことができなくなってしまいます。
ハグは一人で旅行に行く間ずっとながらのことを思います。
この話を読むと、二人の関係がとてもうらやましく思います。
気安く旅行に行ける友人がいること、一緒に人生をあがく覚悟を持てる友がいること、一人でいる時も一人じゃないと思えること。
宝物ですね。

冬空のクレーン

三つ目の話。
都内の最大手の都市開発会社の課長補佐・陣野志保は自ら引き抜いた中途入社の後輩との関係で会社での居場所を失ってしまい、半ばやけになって一か月の有給休暇を取得。
単身釧路へと旅行することに。
そこで出会ったのはタンチョウヅルの生息地とそこでタンチョウヅル保護のために活動するレンジャーの男性。
彼との出会いで志保はどのように自分と向き合うのか。

時に自然は人の心を激しく揺さぶる景色を見せてくれます。きれいな描写とタイトルのダブルミーニングが秀逸です。

風を止めないで

最後の一編は一話で登場したハーレー少女・凪の母親が主人公。
トンネル事故で夫を亡くした彼女。それから八年たっても心に穴が開いたままの彼女のもとにどこか夫の面影を連想させるような男性が訪ねてきます。
大手の広告会社の部長を名乗る桐生という男は、凪をハーレーダビッドソンのキャンペーンガールに抜擢したいと言い出します。
始めは断ろうと思っていた彼女でしたが、桐生から感じる独特の空気感、”風”に不思議な心地よさを感じます。

他の話と違い彼女自身は旅をしませんが、旅中の娘・凪からの短いメールからは旅へのさわやかな満足感が漂ってきます。
ハーレーの重たい振動音が胸に心地よく響いてくるような物語です。

おわりに

4編どの話も少し物足りないくらいの分量で、それだからこそ自分もその景色の続きを追体験したくなります。
この本を読むときっと旅に出たくなるでしょう。

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