子育て中の女性アーティスト・インタビュー vol.2 寒川晶子

子育て中の女性アーティスト・インタビュー vol.2 寒川晶子
インタビュー日:2020年12月1日〜28日(メールでのインタビュー)
インタビュアー、編集:高橋律子(NPOひいなアクション)
公開日:2020年12月29日

寒川晶子 SAMUKAWA Akiko
http://akiko-samukawa.com/index.html
京都市生まれ。フェリス女学院大学音楽学部ピアノ科を卒業後、現代美術や現代音楽に関わり、全国の美術館や芸術祭、大学研究機関などの主要公演に多数出演。現代音楽の初演・再演や録音、また、自身も積極的に創作やワークショップを行う。2010年より特殊調律によって「ド」の音だけが鳴るピアノの演奏を展開している。2012~2018年には、女子美術大学にて非常勤講師を勤めた。現在、横浜市在住。 

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(写真)寒川晶子さん   

高橋:お子さんの年齢と性別を教えてください。

寒川:1月で1歳になる現在0歳の子と3歳、どちらも女の子で2学年差の姉妹になります。

高橋:ご結婚されたのはいつですか。

寒川:2014年、32歳で結婚しました。1人目は2017年に生まれました。出産前の2016年にロームシアターでの大きな仕事を経験しています。

高橋:ご出産については悩まれたりしましたか?  2人目のときはどうでしょうか。

寒川:活動ができなくて悩んだというよりは、むしろ活動できなくなってでも欲しかったというのが本音ですね。これまで演奏の本番があると生理がこないことが多々ありました。なので、ストレスを受けやすい性格だろうと思っていたし、両立できるとは思っていなくて。なぜか、あえてか、妊娠前には言われず、2人目を妊娠した後に先生に言われたのですが、一般的な値に比べて男性ホルモンが多いそうです。でも医師から見れば身体に予測がつくから不妊症ではなかったようです。私自身は自分のことを勝手に不妊症だと思っていました。2歳差育児、ついつい辛いと言ってしまいますが、実は望んでいた結果なんですね(笑)。感謝しないといけません。

■オンラインでのワークショップについて

高橋:今回のオンラインのワークショップの企画は、寒川さんからひいなアクションにお声がけいただき実現することになりました。子育て中のアーティストにとってのオンラインの試みは、コロナ禍だからというよりは、もともと「移動しづらい」課題を解決する1つの方法だと感じました。実際にお声がけいただいた具体的なきっかけがありましたら教えてくさだい。

寒川:2人目を妊娠中に旅行した金沢旅行で、金沢21世紀美術館で開催されていた故粟津潔さんの個展「粟津潔 デザインになにができるか」を見に行きました。そのとき、粟津潔さんの息子さんで展覧会の監修もされていた粟津ケンさんに高橋さんをご紹介いただきました。(高橋は金沢21世紀美術館キュレーターとして展覧会を企画担当していた。)いわば粟津ケンさんにいただいたご縁です。2009年に金沢21世紀美術館で開催された「荒野のグラフィズム:粟津潔展」の関連プログラムで演奏させていただいたことがケンさんとのご縁です。そのご縁をきっかけに、高橋さんと何度かメールをさせていただくうちに、何かご一緒したいなという思いが出てきました。その間に2人目を出産し、どうにもこうにも動けない状況が続いていましたが、活動を復帰していきたいという思いだけが強くなり、再びご連絡させていただいた次第です。
 確かに私にとっては、コロナに関係なく外出できなかったし、企画もできなかったし、私自身はコロナが流行しなくても現在と変わらない生活をしていた気がします。ですが、偶然にも社会が「オンライン」にシフトしていきました。ある意味コロナのおかげで活動においてのハンディが軽減されたような気がします。

9月24日 ローム写真まきちゃん撮影

(写真)ロームシアター京都での演奏(2016年)

高橋:こんなふうに東京都と金沢と離れていてもプログラムを作れること、また鑑賞者の方々がオンラインを受け入れてもらえるようになったことは大きいと感じています。けれど、初めての動画撮影はイメージを作る上でなかなか難しかったのではないでしょうか。やってみていかがでしたか? オンラインならではの難しさと面白さについて感じたことがあれば教えてください。

寒川:誰も気にとめないと思いますが、私自身は妊娠する数年前と顔が変わってしまったと思っています。子育てに追われて化粧もしないし、おまけにコロナで毎日マスクしていると頬の筋肉もかなり下がり……(笑)。子供以外の人との対面での会話がほぼない上に毎日寝不足。そんな毎日なのでオンライン用に顔を急には作れませんでした。そんな顔がインターネット上に残ってしまうことに「勇気あるなぁ、自分」と思いました(笑)。
 また、言葉、方言も気になります。私の場合、実は関西人というバックグラウンドがあり、どうしてもなまっていて、自分では違和感を感じたりします。いろんな意味で等身大の自分が残りましたね。自分のことを考えると、アナウンスを仕事にする方ってすごいなと思います。ただ、東京圏と金沢といった距離を超えて凄いものを創れた!という自負は感じます。

高橋:今回、制作されたオンラインのワークショップはどんな人に見ていただきたいですか?

寒川:子供を対象にしたチャレンジャーな企画を望んでいました。今回はそれが念願叶ってのものになったので、もちろん全国のお子さんに見ていただきたいと思っています。そして、企画をしている方、あるいはテレビや舞台をプロデュースする方など、常に何か新しい世界を探し発信していらっしゃる方にもぜひ見ていただきたいです。それもあって子供対象ではありますが、ピアノ演奏の時間をたっぷりとってしまっているかもしれません。とはいうものの、一足早く私の生徒さん(4歳~8歳)に動画を見ていただき絵を描いてもらったところ、ほぼ全員、時間を持てあますことなく絵に集中していたと聞きました。初めて聞く音で、いきなり絵を描くことを課題にする無茶ぶり具合でしたが、こちらが何一つ心配することなく向き合ってくれたことがわかりました。嬉しかったです。広く社会に配信してみてどうなるか気になります。

音楽家の活動と子育ての両立について

高橋:お子さんが生まれてから、活動環境に変化はありましたか?

寒川:おおありです。練習ができなくなりました。上の子は、新生児の頃はよく寝てくれて昼寝もたっぷりしてくれたので時間に余裕がありましたが、2歳近くなったころからややこしくなってきました(笑)。意思をもって動きだしますし、昼寝もしなくなります。また下の子は新生児の頃からほとんど泣いていました。上の子がいつも声を発したり、おもちゃの音が響いたりしていて過敏になっていたのでしょうか、上の子に比べて手がかかっていましたね。でも月齢を重ねて目が見えるようになってからか、次第に落ち着いてきてくれています。
 2歳差の育児は相当ハードです。我が家の場合、上の子の嫉妬や赤ちゃん返り、そして離乳食とトイレトレーニングが重なったりと、すべてが私に対して同時に要求してくるものごとです。おまけに家事は蓄積できません。ご飯を作ってはお腹に消えてなくなり3食作り直し、洗濯も洗っては干してたたんでの繰り返し。掃除もそうです。一度すれば、しばらく、数日でも落ち着いてくれる仕事なんて何一つなくて。
 私の場合、何かのときには母親に甘えているのですが、母の体力も、たった2年の違いですが、上の子が赤ちゃんの時と今とでは違ってきています。今は特にコロナで相談していいものやらです。

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(写真)寒川さんの上のお子さん:紙いっぱいに描くのが大好き!

高橋:子育てへの周りのサポートはありますか? 

寒川:主人は今、仕事が非常に忙しく、平日は私がほぼワンオペせざるをえない状況になっています。母親が定期的に、また困ったときはプラスαで、たびたび来てくれています。
 上の子は2歳から保育園に通っていて、上の子だけなら私自身はかなり時間が取れるのですが、現在は下の子の子守りをしています。下の子も2歳からは保育園を考えていて、1歳の間は一時保育を利用したいのですが、私が住んでいる付近は一時保育がほとんどありません。上の子が1歳の間は一時保育を時々利用していましたが、その保育園も今春から一時保育を受け入れなくなりました。コロナが心配な3月くらいまではひとまずベビーシッターの利用も考えています。

高橋:さしつかえなければ、どのように収入を得ていらっしゃるか教えてください。というのも、表現する活動で生活しているアーティストの方というのは本当にごく一部で、多くの方は別のかたちで収入を得ていらっしゃって、ただでさえ子育てで時間がないのに、仕事があることでまた制作時間や考える時間を圧迫してしまう、という課題があることを感じています。

寒川:私の場合は結婚して主人の収入が前提にあるので、本当の意味での生活への危機感や孤独感というのはない中で活動させていただいています。また、ピアノを演奏すれば収入にはなっています。企画の規模はさまざまで生活の質にもよりますが、月に一度弾いたら十分、といった場に立たせていただくことも。ただ演奏の仕事は、待っているだけで定期的に入ってくるというわけではないので不安定です。ワークショップは自分が主宰で行うときは会費として受講生からお納めいただくのであまり黒字にはなりませんが、組織や団体が主催してくださる場合は収入となります。個人的にピアノも教えていて、現時点ではほぼ一般的な相場でレッスンしています。
 どこを目指している? 舞台だけをずっとやっていたいという訳でもありません。音楽の関わり方が複数になるほど出会いがさまざまで一つの輪におさまらない、そんな環境が自分にとって刺激的で生き生きできるので、仕事の方向性を絞るつもりはなく、基本の生活スタイルは現在のままで規模だけを今後大きくしていけたらと思っています。

岡本太郎美術館WS12

(写真)岡本太郎美術館でのワークショップの様子(2019年) 

高橋:収入と子育ての分担は関係があると感じますか。

寒川:収入と子育ての分担……。主人は仕事が忙しくて帰宅が遅く、連日23時近くです。ですので平日に関しては必然と、仕事は主人、子育ては私、みたいになっていますが、土日は子供の公園への連れ出しやご飯の支度もしてくれてとても助かっています。子供がもう少し大きくなって、私が毎日活動をしても問題のない時期がきても、生活費は主人の収入からで、私の収入は子供の将来への投資用に貯金することができればと思っています。

高橋:お子さんは保育園に入っていらっしゃいますか? ママ友さんたちにはご自分のお仕事のことを伝えていらっしゃいますか?  アーティストであることを保育園では言わない、という方も多いようです。

寒川:上の子はこの春から保育園に通っています。ママ友さんには自分のことはあまり伝えていないですね。アーティストという概念が全然定着しない日本です。なんて紹介しましょう。ましてや「ド音ピアノ」は特に説明がつかないなぁ。話せば話すほど、不思議な存在だと思われたり(笑)。ピアノを教えていることは知っているママ友さんは多いですね。

高橋:どのようにピアニストとしての時間を作っていらっしゃいますか?

寒川:レッスンがある日は母親が来てくれて、ほぼ一日子供と過ごしてくれています。一方、レッスンがない日の日中は、子供をおんぶしたり、あやしたりしながらになります。全力で集中できているとはいえず……。夜は20時ごろ上の子を寝かしつけるのですが、保育園でお昼寝するのでなかなか寝ない(笑)。寝た後に洗濯、下の子が起きていたら寝かしつけ。自分の時間ができるのは23時過ぎですね。そこから仕事のメールや考察、ピアノ。レッスンがある日もない日も24時ごろのミルクを挟んで、メールや考察などをして就寝は26時過ぎ、という毎日です。もう少し上の子が大きくなれば、夕飯を作っている時間なども一人で遊んでくれるのだろうなと思いますし、そうしたら日中もう少し活動できます。今は食事を作る時間も一人で待ってくれないのです。
 産後1年は一般的に育休の方も多いでしょうし、私も調整しながら仕事をするといったやり方で、労働時間の基本的な条件に合わせなくて良い時期なのかもしれません。2人目が上の子と同じ保育園に入園したら母の助けは終了予定で、子供2人で18時過ぎまで園に残ってもらう予定でいます。

高橋:私の場合、自分のしたいことが優先してしまって、子供たちをほったらかしになってしまうことが多いです。それでもいいのかな、という気持ちと、もっと子供に時間を割いてあげなきゃいけないんじゃないかという気持ちが常に葛藤しています。寒川さんの場合、どんな気持ちでお母さんをされていますか?

寒川:正直なところ、今は子供優先で考えてあげられていない気がしています。土日に子供を外に連れ出すにも私自身は眠くてだるくてそんな気になれないし、家に一緒にいてもやりたいことあるなぁ、とか思いながらネガティブな気分になったり。もっと全力で向き合ってあげられたらと思いますし、後悔するかもしれません。とにかく今がいっぱいいっぱいで、常にマラソンで息切れしているかのようで。
 
 近い将来実現できるのかもしれないですが、もう少し大きくなって言葉が本当に伝わり合うようになったら、あまりない世界に連れ出して一緒に刺激を受けたり、うんと世界を広げてあげようと思っています。とにかく言葉が通じ合えるまでというのは本当に宇宙人ですね。面白いけれど、必要があって注意しても通じないから一方通行ですし、私がただただ補ったりするしかないことが多い。
 人が秩序をもって自分以外の人と共にいられる、また成長していくというのはすごいことなのだと思うし、そうなるまでの無秩序な世界というのを子供を通じて経験しました。お腹いっぱいです(笑)。ある意味それはもう無理といえるほどお世話してあげたということだと自分のなかで無理やり解釈し、子供が大きくなったらそのままを明るく伝えられるように私自身が長く元気でいたいと思います。

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(写真)寒川さんの下のお子さん:ある時からのこと
気づいたら大きなおもちゃギターを胸に抱えて弓をはじいてました。

■子育てを通して表現されること

高橋:子育てされていることで、ピアノを教えることの変化はありますか? またピアニストとしての表現に、子育ての経験が何かしら影響している部分というのはあるのでしょうか?

寒川:まだ子供が小さすぎて、教えることへの変化はない気がします。ただ、すぐ上のご質問に書いたように、小さな子供を育てることは、無秩序ってこういうことなんだと実感できる大きな経験です。子育てのおかげで、表現する「自由さ」というものがリアリティを持ってできる気がします。影響していてほしいです。

高橋:数年後、10年後、とお子さんが成長されるとまた環境も変わってくると思うのですが、将来のことを考えたりしますか? お子さんの手が離れたらやってみたいことはありますか?

寒川:自分がこれまでの活動で構築してきたことを長期的に生かせるように往来自由なインフラを今から計画しています。これまでは、ピアノ教室と自分の活動が、こっちの世界あっちの世界と、互いにあまり繋がりを持たずに行っていたのですが、実践型の研究室のようになれるといいなと思っています。
 私は、音楽を通じて広い社会に変化が生まれるところに立ち会いたいという思いが強くあります。面白そうな現場があれば、自分の経験や技術を持ってアプローチしにいきたい。そういう目標を持つと、練習の励みになります。また、ド音のピアノは「リトルグラデーションズ」という名称でシリーズにしていて、その名称を生かしたとあるものを構築いていく予定です。そういったインフラを整え、私自身の独自な企画やそうでないものでも、生徒さんに何らかのお手伝いをしてもらって生徒さん自身の音楽経験が増やせるような、社会的に広い往来が可能な道を描けるようにまでしたいです。何年かかるかな。

高橋:芸術表現をされるお母さんとして、ご自身のお子さんにこれだけは伝えておきたいということはありますか?

寒川:毎日、生き生きと過ごしてほしいと願っています。でもこれは、芸術表現している、していないに関わらず、どんなお母さんも望んでいることではありますね。

高橋:子育てをされているアーティストの方へのメッセージがあればぜひ。

寒川:試行錯誤を情報交換しながら、是非繋がっていきたいです!

高橋:ありがとうございました。




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