認知症と医療の良い関係を目指すシンポジウム・10分間プレゼン原稿
*この原稿は、出典さえ明記して頂ければ、勉強会や研修などで自由に使って頂いてかまいません。
*このプレゼンの動画(30分目から10分間です。)
*配布資料 (クリックで他の動画やスライドにも飛ぶリンク集付き。)
*原稿と実際にお話したことは、全く同じではありません。 これは、最初の導入部分が終わったところからです。
私は、病気のために時間感覚が失われています。なので延長しないように原稿を読みます。
まず最初に、認知症というのは「状態」を表す言葉です。(注:文末の「スライドの文章」参照。)病名ではありません。歩行障害と言っても多種多様あるように、認知症を引き起こす病気も数多くあり、症状も様々です。障害の種類も、その重さも、その人が何に困っているかも、一人一人全然違います。
このことは、是非皆さんに知っておいて頂きたいことです。
私は、現在は、「認知症の状態」ではないのですが、色々な障害と不便さがあります。
全ての病気に共通だと思いますが、特に脳の病気は、ストレスによって、一時的に症状がとても悪化します。私も静かで平和な環境が壊れると、今、現在でも幻視や幻聴や様々な症状が一気に出てきます。
認知症で、何が問題かというと、思いっ切りこじらせてしまって、本人も周囲も大変になった時です。
糖尿病もこじらせると失明したり指が壊死したりしますが、多くの方は、病気と折り合いを付けながら上手く生活しています。 認知症を引き起こす病気も同じです。今、そうやって、とても長く、良い状態を保って、笑顔で暮らしている方が、全国に増えてきています。
私は、認知症をめぐる多くの問題は、不適切な医療と、アウェイな環境が作る、人災だと自分の本に書きました。最近、取り上げられることが増えた薬の副作用は、勿論ですが、実は、医療現場では「適切」と考えられているものも、私たちから見ると随分辛く、ストレスのかかるものばかりです。
まず、これまでの医療情報を患者本人が読んだら、恐怖しか感じません。恐ろしくて中々病院に行けません。 でも勇気を振り絞って受診して、受ける知能検査。傷つきます。自信を無くして、自分がダメな人間になった気がします。それが嫌なので、検査のある日は、しっかり予習をしていくと、病気仲間が、みんな言います。
MRIは、縛られて、棺桶みたいな中に閉じ込められて、長時間、耳元でガガガーと騒音が続きます。拷問です。私は狭い空間も騒音も苦手です。多くの脳の病気の方には、相当辛い検査だと思います。更に泣きたくなるような検査を受けましたが、時間がないので、省略します。
正確な診断のためには「受けて当たり前」と、皆さん、思っていると思いますが、私達は、ただひたすら耐えています。それが自分を救うことになると信じているからです。
でも実際には、検査が終わったら、ただ病名を告げられるだけです。精神的サポートや社会的サポートの情報提供は、普通はありません。 これからどうやって生きていけばいいのかということを相談する先も全くわからないまま、絶望だけ抱えて帰宅します。そして多くの方が、そのまま引きこもり、一気に悪化していきます。うつ病を合併する方も少なくないそうです。
この時、本人と家族に安心を与えられたら、その後の進行は、5年~7年遅れるとある医師から伺いました。診断直後からの精神的・社会的バックアップは、絶対に必要だと私は思います。
中には、最初から長期に入院させられる方もいます。若年性で、会社を休んで大学病院に行ったら、検査入院。長く辛い検査の末に、予想もしていなかった診断名を告げられ、そのまま治療のためと、いきなり閉鎖病棟です。
外を散歩して桜を眺めることも、別の階にあるコンビニに行くことも許されません。フロアーの扉には鍵がかかっていて、同室の方は、会話ができない。自分の病気について得られた医療情報は、「急激に進行して、寝た切りになって、早々に死ぬ」。(これは私も同じでした。)
人生のどん底に突き落とされたと感じている時に、一番側にいて欲しい人も、ペットも、友だちも、知り合いすらいない。張り詰め切った心をゆるめるもの、心安らぐもの、気持ちを落ち着かせる物が、何もないという環境です。
どんな名医が完璧な処方をして下さったとしても、私なら即刻うつ病になると思います。想像しただけで怖くて震えます。その方もどんどんおかしくなっていき、「病院にいたら病気になる」と思って無理やり退院したそうです。
医学的には、100%正しいと、何の疑いもなく信じられていることが、私たち患者に致命的な傷を負わせているということは、多々あります。
私は、医師の皆さんには、ぜひ精神科の体験入院をして頂きたい。できれば、医学部時代に1回、その後10年おきに研修として。平均入院日数と比べると随分短いですが、1週間、医師の肩書きを伏せて、本当の患者として遠方に入院します。もし途中で怒り出したら「自分は医師だという妄想が消えない患者」ということにして続けます。
ブラックジョークではなく、本気です。人間の想像力には限りがありますから、自分が本人になって実際に体験しない限り、絶対にわからないことは、沢山あります。
すみません。ひどい話ばかり続きましたが、認知症の未来は、明るいです。入院しなくても本人の立場に立って考え、行動して下さる医師も沢山いらっしゃいます。ここにもお二人(高木俊介氏、上野秀樹氏)。
私は、「人と笑い合うこと、安心と自信を回復することで、症状は改善する」と去年から伝え続けてきました。大熊由紀子さんは、最新のご著書で「誇り、味方、居場所」と表現されています。
『全部を一言で言うと何だろう』とずっと考えていた時、上橋菜穂子さん(作家・文化人類学者)の言葉を聞いて、『これだ!』と思いました。
「(老いや死を定められた)非情な世界で、人は、情を求める」
新明解国語辞典を見ると、人間とは、「他の人とかかわりを持ちながら社会を構成し、なにほどかの寄与をすることが期待されるものとしての人」です。その人間が、求めて止まない情(じょう)とは、「人間関係が深まるにつれて高まる暖かい感情」です。
私たちは、どんな病気であろうと、なかろうと、何歳であろうと、人として扱われ、人間として生きたいと願っています。社会の一員として、どんな小さなことでも何かの、誰かの役に立ちたい、周囲の人と暖かい心のやりとりをしたいという本能があります。
それを「認知症だから」と奪われた時、病気はこじれ、問題が起こります。でも、それさえ満たされたら、認知症であろうとなかろうと、人は、誰でも、笑顔で、尊厳を持って、幸せに生きることができます。 認知症だから問題を起こすのではありません。そのことが、まだまだ広く理解されていないと感じます。
同じ情の字でも、「じょう」と「なさけ」は違います。 「なさけ」は、「同情して援助する親切心」。支援する側が、持ちやすい感情です。
でも、同情はいりません。同情には、既に上下関係があります。「してあげる」と言わないで欲しいと若年性の仲間たちは言います。対等な人間として見て欲しいんです。
「今、何に困ってますか?何がしたいですか?夢は何ですか?」と、家族ではなく、本人に聞いて下さい。本人の目を見て、本気で聞いて下さい。そこから最初の一歩が始まると思います。
今は、一昔前とは違い、かなり早期に診断されます。その先には、長い人生が続いています。私たちは、決して壊れていくのではなく、病気と一緒に、生きていくんです。
もし皆さんが、私たちと同じ人間として、対等な立場で向き合って下さるなら、皆さんと私たちは、共にあたたかい感情を育み、笑い合い、学び合い、与え合い、お互いのいのちを輝かせることができます。
今、医療現場でも介護現場でも、そういう方たちが、どんどん出てきています。仲間たちも情報発信しています。今は、変化のさなかですから、摩擦もありまし、越えるべき山は大きいです。それでも、ここに居る私たち全員が迎える認知症の未来は明るいと、私は、今、信じています。(了)
<会場のスクリーンに映したスライドの文章>
認知症の医学的定義=いったん正常に発達した認知機能が、持続的に低下し、複数の認知障害があるために、社会生活に支障をきたすようになった状態。
大熊由紀子著「誇り・味方・居場所 私の社会保障論」
非情=人間らしさを拒絶する様子。 人間=他の人間とともに、なんらかのかかわりを持ちながら社会を構成し、 なにほどかの寄与をすることが期待されるものとしての人。
情(じょう)=人間関係が深まるにつれて高まってくる暖かい感情。情愛。
情(なさけ)=同情して援助、激励する親切心。
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大熊由紀子さんによる「ことしもまた、新たなえにしを結ぶ会'16 !」
2016年4月16日(土)日本プレスセンターにて 第2部(15:00〜16:15)「認知症になっても精神病院に入れないで」 コーディネーター 竹端寛氏(山梨学院大学法学部教授) パネラー 高木俊介氏(精神科医)上野秀樹氏(精神科医)樋口直美 総合司会 市川衛氏 西村多寿子氏
この豪華なシンポジウム第1部〜第3部の動画と豪華な配布資料→ http://www.yuki-enishi.com/enishi/enishi-00.html
第1部「さまざまに輝く・その若き仕掛け人たち〜地域編」大原祐介氏・飯田大輔氏・仲地宗幸氏(コーディネーター:熊田佳代子氏)
第3部「さまざまに輝く・その仕掛け人たち〜戦略会議」寺田和弘氏・秋山正子氏・佐藤博樹氏・田門浩氏・大胡田誠氏・熊谷晋一郎氏(コーディネーター:大久保真紀氏)
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*パネラーの高木俊介氏が京都新聞のコラム「暖流」に書かれた感想。
⭐️ 樋口直美公式サイト
*このプレゼンの内容を紹介して下さった市川衛氏の記事(’16.5.21)。
*NHKで紹介された「VR(バーチャルリアリティー)認知症」の動画 (レビー小体病幻視編に出てくる幻視を再現した映像もご覧いただけます。)
*医学書院のwebマガジン「かんかん!」での連載『誤作動する脳 レビー小体病の当事者研究』
*『私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活』(2015年発行)
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