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「おれんじドア」に参加して

2017年7月22日、仙台市で丹野智文さん(若年性アルツハイマー病当事者)が中心になって月1回続けている当事者のための窓口「おれんじドア」に、レビー小体病当事者として参加した私のごく主観的なメモです。

(私は、普段は「当事者」よりは「本人」という言葉を使うことが多いですが、ここでは「当事者」という言葉を使います。)

丹野智文さんと活動パートナーの若生栄子さんの承諾を得て、公開します。 考え方や対象者は、いろいろですから、いろいろな形があっていいと思いますが、対象を「診断前後の本人」に絞った場合、1つの理想の形だなと感じました。

全国に増えつつある認知症カフェが、診断された本人にとっても、安心して笑い合える場所、希望を取り戻す場所になることを願っています。

(メモなので重複する部分もあります。)   

< 私の印象に残ったこと >

スタッフは裏方で目立たない。
一歩引いて、静かに柔らかく微笑んでいる感じ。
積極的に支援する感じ、世話する感じが、全くない。
当事者が言葉に詰まった時、つい助け舟を出そうとするスタッフを丹野さんは「話すまで待って」と制止するそう。

②診断前後の絶望と不安の中にある当事者にとって、理想的な場だと感じた。
同じ当事者だからこそ分かる配慮が行き届き、心に寄り添う場だと感じる。
病人でも「認知症の人」でも「支援が必要な人」でもなく、普通の人として普通に接することに徹していると感じた。
これは、丹野さん以外のスタッフにも共通していた。
それだけで「自分は普通の人間なんだ」という気持ちを回復できると思う。
そして元気に笑っている丹野さんを見て、「自分も大丈夫だ」と希望を見つけられると思った。
支援も相談もケアも必要なく、ただ「元気な仲間」と接することが、何よりの希望となり、絶望と不安から立ち上がるきっかけになることを再認識した。

< 「おれんじドア」の特徴 >


敷居の低さ
連絡先、病気(病名、病歴、症状、困りごと)について、何も聞かれない。
アンケートや意識調査のようなものもない。(そのためにスポンサーをつけないそう。)
匿名希望なら匿名でもいい。
参加費もない。(寄付はできる。)
「会」でもない。(「居場所」ではなく「入り口」)
取材が入ることもなく、プライバシーは守られる。


居心地の良さ
貸切の会場の広さ、快適さ、間取り。窓から見える緑など、環境が非常に良い。
普通の喫茶店のような雰囲気で、誰が座っていても違和感や圧迫感、見られている感じがない。
当事者の席は、個室のように感じられて、守られている感じがある。
スタッフの控えめで、あたたかい、自然なムード。
「認知症の人」として扱われることがない。
今まで通りの生きがいのある楽しい生活を送るのが当たり前だという前提で雑談をしている。すると、どんどん表情が明るくなり、笑い声が出てくる。
丹野さんの笑顔と親しみやすさ、話を引き出す上手さ。


③「当事者第一」というコンセプトの明快さ、ぶれなさ
当事者が笑顔になることを何よりも大事にし、それは譲らない。
(当時者が笑顔になれば、家族も笑顔になる。)
テレビ、新聞の取材も入れない。
宣伝や人集めもしない。大勢来たら話ができない。
当事者を育てる。(ファシリテーターもしてもらう。講演もすすめる。)

< 全体の流れ >

会場は、駅の目の前のカフェを貸し切り。
(東北福祉大学の広く明るく気持ちの良いカフェ。)
受付は参加者は、入り口のテーブルでシールに名前を書いて胸に貼るだけ。
(名前を書きたくない人は、書かなくてもよい。)
かわいい寄付金箱があり、お茶代・運営費を寄付したい人は、好きな金額を寄付できる。
テーブルの上には、ケアパスなどのパンフレットなどがあり、持ち帰ることができる。
当事者たちが書いた本の紹介のチラシもある。

まず中央にテーブルを集めて作った広いテーブルに当事者と家族がぐるりと座り、丹野さんが一言挨拶。
続いて、丹野さんが用意した原稿を読み始める。丹野さんのご講演の短縮版と自己紹介的な近況など。
「おれんじドア」についての説明は、ほとんどしない。

その後当事者と家族とに分かれる。

当事者は、角の奥まった半個室のような場所へ。
3方囲まれているのでプライバシーが守られている感じがし、落ち着ける。
当事者から家族やスタッフは見えない。

家族は、大きなテーブルにとどまる。
家族からは、移動すれば当事者が見える。
当事者が、和やかに話している雰囲気は、伝わる。

スタッフが別のテーブルに集まって何か話し合いをしているが、会場全体が普通の喫茶店のようなムードなので、違和感がない。
見学者も離れた所に黙って座っているが、広いせいもあり、見られている感じは、全然しない。

それぞれのテーブルにスタッフがつく。
当事者のテーブルには、2人。しかし2人とも基本的に会話に入らない。
話は、相談ではなく、気楽なおしゃべりの形。終始明るい話題。
丹野さんが中心になって、全員に均等にうまく問いかけていく。
最初に、丹野さんが、「これから何がしたいか?」と聞く。
当事者からポツリと出る一言二言から趣味などを問いかけていく。
以前楽しんでいたが今はもうできないという趣味の話が、少しづつ出てくる。
登山の話が出ると、丹野さんが、「他にも同じ趣味の仲間がいるから一緒にやろうよ」と誘う。
次に「(生活の中で)どんなことを工夫しているか」という話。
居間にあるカレンダーにスケジュールを書いて、自分が忘れても家族が気がつくようにするなどの体験談を共有。
その後は、趣味や以前得意だったことなどの話で段々盛り上がり、皆さん、生き生きとした表情になり、全員でよく笑う。
合唱をやっていた人には、「翼の会の合唱がある」と紹介する。そこで初めて翼の会のスタッフが一言声かけ。無理強いはしない。

時間になったら全員中央のテーブルに戻り、一言づつ話した。

皆が帰ってから、スタッフが集まって、振り返り。
丹野さんが、リーダーシップをとっている。

< 丹野さんから個人的に聞いたお話 >

「なんでもゆる〜くやる」のが、大事。
宣伝も人集めもしない。参加者の気持ちを考え、メディアにも出ない。
良いことをやっていれば、自然に広がる。
一度に大勢来られても話ができないし、1人も来なくても全然構わないと思っている。
しかし病院などでも「おれんじドア」のことを伝えてくれるので、参加者は常にいる。

当事者が笑顔になることが、何よりも大切。
それだけを基準にすべてを考えている。
「おれんじドア」は、診断前後の苦しい時期に最初に叩く扉であり、当事者は、地域の居場所を紹介される。(中には、何度も来る人もいる。)
大勢のスタッフ(10人以上)が、それぞれの知識で居場所を紹介できる。

当事者が笑顔になれば、家族も笑顔になる。

スタッフは当番制でなく、来たい人が来たい時に来る。
必ず行かなくてはいけないというのは、負担になるから。
(スタッフは、この日は、医療関係者が多かった。行政の人が来ることもある。)

ファシリテーター(中心になって話を引き出す人)は、どんどん他の当事者に任せる。
丹野さん自身は、「自分でなければできない」とは、全く考えていない。
おれんじドアや講演などで活躍できる当事者を育てている。(最初に丹野さんと2人で組んで講演すれば、次からは、自信を持って1人でできる。)
そのために積極的に任せるという姿勢がある。
周囲のスタッフが無理だと思っても「できるさ~」と励まし、現在、仙台市には講演できる当事者が8人いる。


*丹野智文さんのご著書『丹野智文 笑顔で生きる』アマゾン 楽天

*ヨミドクター(読売新聞の医療サイト)の連載            『僕、認知症です~丹野智文43歳のノート』

*日経ビジネス 39歳で認知症と診断されたトップ営業マン

*BLOGOS 39歳の認知症当事者がスコットランドを旅して分かった「認知症にやさしい社会」 認知症当事者3人のスコットランドの旅 後編 - 丹野 智文

(関連記事は、少しづつ増やします。)





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