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音楽制作業 OFFICE HIGUCHI 10周年までの道のり#17 〜宮川祐史の独立と、いろんなお仕事と〜

お世話になっております。代表の樋口太陽です。

2015年の終わりごろの無敵会議の中で、兄がおもむろに「ゆうしはいつか、独立させようと思っちょうきね」と語り始めました。2013年からジョインした初期メンバーの宮川祐史さんです。彼が入社した経緯は、こちらをご参照ください。

えっ、そーなんだ!と僕が聞くと、本人からも「いつかは独立することを目標にしています」とのことでした。そのような目標を聞くのは、この時がはじめてでした。それから後、僕は考えました。

それならば、いつかと言わずに最速がいいのではないか?

後日、兄に提案したところ、まだ経験値が少ない今の状態で、ゆうしを放り出すような無責任な事はできない、という意見でした。しかし、僕の目線から見ると、独立したい & 独立させたい という双方の目標が一致しているのに、形だけは今のまま在籍するのを続けるというのは、不健康に感じる。それに、独立したという宣言の時期が早ければ早いほど、彼の仕事人生にとっても、よい事だろうと思いました。

独立はするとしても、いきなり完全に放り出すわけでなく、フリーランスになった彼に対して、継続して計画的に発注すればよいのではないか?と僕は提案し、兄も「まぁ、そう言われればそうか」という事で話はまとまり、彼はオフィス樋口を卒業する事になりました。こちらはその時の投稿です。

【宮川から大事なご報告です。】 こんにちは。サウンドディレクターの宮川です。 オフィス樋口の宮川から大事なお知らせがあります。 この度、私宮川祐史は1月31日をもって株式会社オフィス樋口を卒業いたします!! そして明日2月1日からは...

Posted by 株式会社オフィス樋口 on Sunday, January 31, 2016

そこから彼は社員ではなく、外部のクリエイターとなったわけですが、僕は時間が経って、彼が社員として近くにいた頃には気づかなかった、彼の魅力や能力に気づくことになりました。まず彼は、低く通る良い声をしていました。そんな彼に、作曲とともに声もあわせてお願いした最近のお仕事がこちらです。

サウンドロゴの説得力のある声と、音楽の中のオモシロイ声は、宮川さんによるものです。

また、彼はバンドをやっていた頃からずっとロックが得意、中でも、激しめのロックが得意でした。このようなハードロックアレンジなど。

木村亮一くんと組んだ、このバンドでは、轟音ギタリストとしても活動しております。

音楽作家という世界において、きれいな感じ、おしゃれな感じの音楽をつくる方は沢山いますが、このような「激しい」ジャンルを得意とする方は希少な存在です。彼の本領を発揮するそのような音楽と、それに似合わぬ落ち着いた人柄と、兄とマンツーマンの日々で練り上げた幅広いスキル、声の魅力などが融合する事により、今では僕がプロデューサーとして数多くのお仕事をお願いする頼れる存在となりました。音楽の発注にまつわる関係者のみなさま、どうぞ彼をごひいきにお願いします。

宮川祐史さんが独立し、2016年のメンバーはこの五人になりました。

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この頃、マネージャー小寺さんの発案による社内恒例イベントが始まりました。フレッシュなエンタメ情報にどれだけ精通しているか?をはかりながら、新しい情報をみんなでお勉強しちゃおう!という狙いでスタートした筆記式のテスト「無敵エンタメテスト」です。

【オフィス樋口の会議のこと】 こんばんは!マネージャーの小寺です。 最近、とある会社の方から 『オフィス樋口の社内会議って、なんだか楽しそうでとても興味深いです。』 とコメントをいただきました。 もちろん、会議の議題はいわゆる普通の社内...

Posted by 株式会社オフィス樋口 on Tuesday, September 13, 2016


僕たちは、こんな仕事をしているくせにエンタメの時事ネタに乗っかっていくという事が、とんと苦手です。それを見かねた小寺さんが、このテストをオリジナルで問題用紙から作成してくれました。音楽の職人であった僕たちからは産まれるはずもない発想です。

この時期から、各々で音楽を黙々と作るというよりも、チームで考えながら解決していくような内容の仕事が、自然と多くなりました。中でも思い出深いお仕事は、こちらです。

ロボットのキャラクターが歌ネタを繰り出す楽曲を制作するというこのお仕事は、音楽制作においての難易度が超絶高い仕事でした。楽曲が流れるのはアニメだけではありません。最初から、おもちゃ製品に音を実装する事ありき。そして、ロボットの頭に差し込むネジの種類の組み合わせによって発する音声が変わっていくという複雑さもあり、普段使わない脳を使うようなお仕事でした。

膨大な種類の歌ネタ音声データと、オケとの組み合わせ方、音楽ジャンルは何種類あれば企画との整合性がとれつつ現実的に制作可能な範囲か・・・などなど、どうやって実現していくかをひとつひとつ考えながら進めていく、一大プロジェクトでした。制作途中の確認事項も、単に曲のフィーリングがよいかという点だけでなく、おもちゃ製品のシステム部分との兼ね合いなど、クライアントとの頻繁で正確なコミュニケーションが求められます。
全員の総力戦で挑んだこの仕事を、見事にマネージメントしてくれたのが、入社間もない小寺さんでした。今振り返ると、制作作業に追われるクリエイターだけでは手に負えないほどの難題だったので、このタイミングでマネージャーの小寺さんがいてくれたおかげで、なんとかやりおおせる事ができたと言ってよいでしょう。
 
この件ではテーマソングの制作も手がけさせていただいたのですが、自分のたっての希望で、伝説のバンド「たま」の知久寿焼さんに歌っていただいたのが、このオリジナルソングです。すごくよいものになったので、ぜひ聴いてください。

知久さんとの記念写真はこちら。

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東京のスタジオで、幼い頃からCDを聴きまくっていたアーティストの方に、自分のつくった曲を歌っていただける・・・本当にうれしい出来事でした。


また、この時期に発達させた変わったお仕事があります。それは、即興で曲をつくる技術を利用した講義です。

まずは、なぜ僕たちが即興の音楽制作ができようになったかを、振り返ります。発端となったのは2010年。単なるネット上の友達同士の遊びとして始まった即興楽曲制作イベント「#1hmusic」です。概要はこのようなものです。

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企画が始まった当初、作詞時間、作曲時間ともに1時間きっかりだったため、1hmusic=ワンアワーミュージックというイベント名になりました。(途中から時間配分のバランスをとって、作詞時間30分、作曲時間90分に変更しました)

2010年に兄がつくった曲はこちらです。「宇宙」をテーマにした歌詞を見ながら作曲、演奏して、歌って、ミックスして書き出すまでで、90分きっかり。

普通、この時間でできることと言えば、ギター弾き語りなどでメロディーをつくることぐらいを想像するかと思いますが、このイベントは楽曲制作の全ての過程を終え、完成音源をUPする事までを行うという、極限のタイムプレッシャーを楽しむイベントです。今聴いても尋常ではない出来だと思います。

同じ日に僕が手がけたものはこちらです。

ちなみに、ここまで時間がないとジャンルやメロディーやテンポといった、普通悩むであろう事柄に悩める時間が一切ありません。気がつけばあっという間に締め切りの時間が訪れるので、ただただ直感だけを信じて手を動かして時間までに終わらせるしかありません。

このストイックな遊びを経て筋肉をつけた僕たちは、即興の楽曲制作をテーマに講義を行うまでになりました。首都大学東京の馬場哲晃先生との、こちらのお仕事です。

馬場先生が講義のテーマとしていたのは「プロトタイピング」。本来は工業製品やソフトウェアを作る時などに活きる考え方ですが、私たちが普段行っている音楽制作の過程でそれに通じるものがあるという事で、特別講義としてお声がけいただきました。
 
TVCMにおける音楽制作の現場のロールプレイを行い、クライアント、代理店、ディレクター役を生徒代表の方に、音楽プロデューサー役を樋口聖典、音楽作家役を樋口太陽が担当し、講座の時間内で架空のCM音楽を作りました。教壇にギターやベースやマイクを持ち込み、その場で即座に音楽を制作してお題に答えました。

また、Schooというオンライン学習サイトの設立5周年を記念して行われた、特別授業では、馬場先生の解説とともに登壇させて頂きました。Schooのアカウントをお持ちの方は今でも映像を視聴できます。

この日に形になった楽曲はこのようなものです。ミックスだけは後日に行なっていますが、作曲、演奏、歌唱は、講義の時間内だけで行いました。

スタッフや視聴者が見る中で、さっきまで影も形もなかった何かをつくる。このようなプレッシャーにさらされつつ、即興で音楽をアウトプットする経験を山ほどやってきたおかげで、今の仕事制作スタイルにも多大な影響がありました。それは、打ち合わせ時のリアルタイムイメージ共有です。広告音楽の打ち合わせでは、限られた制作期間に、立場の違うたくさんの人が関わります。少しでも話を進めておければ、全員の貴重な時間が有意義なものになります。そこで、何をすると一番早いか。

その場で歌ったり、編集してみたりすることです。

まさに、首都大学東京のテーマであった「プロトタイピング」です。なにもこの講義やイベントのように、一時間ほどで完成音源までもっていく必要はないですし、その場で名曲をつくる必要もありませんが、歌ものCMの場合、歌詞やセリフの書いてあるコンテを見ながら口ずさんでみれば、「このテンポと歌の譜割りで15秒の尺に収まるかどうか?」ということぐらいはわかります。これに最も必要なもの。それは、素晴らしい歌唱力でも、鮮やかな発想力でもありません。羞恥心を捨てることです。
 
打ち合わせの場でいきなり歌うなんて恥ずかしい

という固定概念が、リアルタイムのイメージ共有を妨げます。自分の羞恥心のタガさえ外せば、1時間の打ち合わせがグッと有意義なものに変わるかもしれません。音楽制作に関わる方は、即興アウトプットに対しての羞恥心を捨てることを、ぜひお試しください。

さて、話を戻します。チームで結束したものづくりを進めつつ、がむしゃらに仕事をしていった結果、自ずと売り上げも、なかなかよい状態になりました。具体的な数字を出したほうがきっと面白いと思うので、会社を始めてから5年間の売り上げを、ここに晒します。

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ついにキタ・・・

兄弟ふたりで始めた初年度の売り上げは1414万円(税抜)でしたが、5年目は5777万円(税抜)。まさに右肩上がりです。ほぼニートのような状態から上京した僕にとっては、大した数字です。

そして僕は、調子に乗りました。

つづく



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