音楽制作業 OFFICE HIGUCHI 10周年までの道のり#40 〜かつてない規模の甚大な重圧・・・GOOD MUSIC VS BAD MUSIC よい音楽つくる篇〜
お世話になっております。代表の樋口太陽です。
“音楽はとても大切である” このことを広く感じてもらうために、よい音楽と、わるい音楽を誰でも簡単に比較することができる実験の場を作るプロジェクト"GOOD MUSIC VS BAD MUSIC"という企画が始まりました。
今回は、よい音楽つくる篇です。
#19の、奥地のフルーツを思い出します。
#20の、がんばんべあを思い出します。
自主クリエイティブは、イバラの道。
それは身に染みています。やるからには以前の経験の反省点を活かし、作戦をとことん考えて実行しなければなりません。しかも、これは今までになく大掛かりなテーマ。気軽にとりかかると全てが壮大な無駄になってしまうという覚悟を持って、挑みます。
この企画をやる上で、動き出しが最もしんどいところ。それは・・・
GOOD MUSICを形にしなければならない、ということです。
音楽制作会社である僕たちは日々、お客さんに満足してもらえる「よい音楽」を産み出しているつもりですが、この場合のプレッシャーはまた特別なもの。なぜなら、今回のターゲットは全世代・全世界。音楽制作会社の僕たちが胸を張って「これこそがGOOD MUSICです」と言える楽曲を用意しなければなりません。下手なものをつくると「ふ〜ん、オフィス樋口が考えるGOOD MUSICは、こんな程度か」ということで、もう誰からも仕事を依頼して頂けないかもしれません。
ある意味で、かつてない規模の甚大な重圧です。ヤバいっ。
この企画を思いついた時には、こんな重圧に向き合うことになるとは思っておりませんでした。かといって音楽制作会社である僕たち自身がオリジナル楽曲を作らないわけにもいきません。企画書の段階で最初から決めていたのは、音楽制作については、こういう役割分担でいくことでした。
オフィス樋口のプロデューサーのぶちが、GOOD MUSIC担当。僕がBAD MUSIC担当です。僕は企画者なので、GOOD MUSICの制作までを担当すると、プロジェクト全体を俯瞰的に見れないだろうと予想しました。
さて、どうやってこの難題をなんとかクリアするのか・・・。
そもそも、人にとってのGOOD MUSICとは、いったいどういうものなのでしょうか。なんなら、アコギ弾き語りで、しゃがれた声で歌うものも、GOOD MUSICになりうる。80年代のビートマシンを使ったシンプルなテクノも、GOOD MUSICになりうる。繊細な声の人がアカペラでささやくように歌うのもGOOD MUSICになりうる。
逆に、BAD MUSICとは、いったいなんなのでしょうか。ジャンルがパンク・ハードコア・メタルだからといって、BAD MUSICというわけでもありません。もちろん、その中には素晴らしい楽曲が沢山あります。カセットテープで畳の部屋で録音したからといって、BAD MUSICではありません。保育園の窓から聴こえてくる、子供たちの音程もリズムも合っていない合唱も、BAD MUSICではありません。
「全ての音楽は素晴らしいから、BAD MUSICなんてこの世にはない!GOOD MUSICも、お前らが決めることじゃない!」という罵声がくることは、容易に予想されました。
あー・・・どんな曲をつくっても、誰かから文句言われそう〜。
究極的には音楽に良し悪しなどないかもしれない。ただ、現実的な話でいうと、音楽には良し悪しのジャッジが下されるものです。まぁ、やってみないとわからないので、くよくよ考えても仕方ありません。ぶちと「さぁ、どうしよっか」と話し合います。BAD MUSICの方は置いておいて、まずはGOOD MUSICをつくることに。僕からぶちに、お願いをしました。
「GOOD MUSICの作曲は、他でもない、ぶちがやってほしい」
ここでひとつ、ご説明します。音楽プロデューサーは、音楽の責任者として作曲家やミュージシャンをアサインして楽曲を形にします。ですので、音楽プロデューサーは、必ずしも自身で作曲ができなくても務まる仕事です。むしろ、「自分が曲をつくりたい」という思いが先走ってしまうと、案件に対してコミットできなくなるので、冷静に案件を見つめ、最適な作曲家にお願いした方がクライアントにとってよい結果となります。つまり、広い視野をもって、社外の作曲家にお願いしてもよいのです。
しかし、この GOOD MUSICをつくるという案件の場合、他の作曲家は考えられませんでした。僕は、彼と何年も仕事をともにしてきて、彼が音楽プロデューサーとして優秀なだけでなく、作曲家として人の心を動かすようなメロディーを産み出すことができることを知っていました。そして、この案件のプレッシャーは、他のどんな優秀な作曲家にも押し付けることはできない、と考えました。
ぶちはこの甚大な重圧を感知して、ウグググッという感じのリアクションでしたが、受け入れてくれました。
まぁ、あんまり気負うとよくないということもわかっていたので、ひとまず最初は超ラフでよいから!と、気楽にやってもらいます。外国の方にも理解してもらえそうなコンテンツということで、いちおうターゲットは世界。というわけで、つくるものはJ-POPのようなものではありません。ヒップホップなど世代が偏りそうなものも避けたいし、ロックなど、流派が偏りそうなものも避けたい。普遍的なものを目指します。
メッセージは歌ではなく、英語のナレーションとしてのせようと考えました。ナレーションで読む言葉を日本語でひとまずざっくり考え、Web翻訳にそのまま流し込み、簡単に形にして、いったん自分が読みます。英語の発音もぜんぜん上手にはできませんが、雰囲気をつかみたいだけなので、気にしません。そのナレーションの雰囲気に合わせて、曲をつくってもらいました。
これが第一弾のデモです。
うん。
GOODですね。
これをBADという人は、あまりいないでしょう。でも、この企画においては、目的に沿うよう、さらなるブラッシュアップができそうです。最初に聴かせてもらったこの第一弾デモのおかげで、この企画に必要な要素が、さらに見えてきました。
・ただキレイとか、美しい感じという意味のGOODではなく「壮大・凄み、ヤバさ、ゾワワっ・威厳・偉大」などのワードがしっくりくるようなGOODにしたい。
・BAD MUSICは、GOOD MUSICとはまったく違う曲ではなく、GOOD MUSICと共通のメロディーを使いつつ、クオリティを低くしたい。だから、もっとメロディーがはっきりと見えるような曲にしてほしい。
・全世代・全世界にとってのGOODの共通認識にふさわしくなるよう、思い切ってフルオーケストラ編成でいきたい。最終的には生録音しようと思うから、そのつもりで楽器編成を考えて欲しい。
このようなお願いをして、何度かやりとりをしつつ、発展させたGOOD MUSICが形になりました。
おぉ!かなりGOOD!
流石、ぶちです。一気にこの企画に求められるGOOD MUSICの方へ駒を進めてきました。このメロディアスさだったら、BADの方を形にした時も、映えそうな気がします。
ビジョンなしに、GOOD MUSICという言葉だけを追い求めた場合は、話が広くなりすぎます。やっぱり有名ボーカリストに歌ってもらった方がよいのか・・・とか、シンプルにピアノソロとかでもいいのか・・・とか、後で迷ってしまいそうですが、#34のいくつかの特訓のおかげか、企画の芯からブレることなく進めれます。
ここからさらにジャンルレスな雰囲気を出すために、部分的に激しめのエレクトロ音やエキゾチックな和楽器などを入れてほしいとかはありますが・・・そういう細かいとこは置いといて、GOOD MUSICの基本は、これで決まり!ここに至るまで、ぶちは大変だったと思いますが・・・これで安心して企画を進める事ができます。
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ここで、豆知識を書きます。このような社運を賭けた絶対にハズせない楽曲制作の場合、何十ものパターンのデモ音源が必要では?とか、何十人もの作曲家に頼んでとりあえず作ってもらって、最適なものを後から選ぶコンペ形式にしたほうがよいのでは・・・?など、考えてしまう人もいると思います。でも、僕はそういったやり方はおすすめしません。
闇雲に多くのパターンを欲すれば欲するほど、ひとつひとつの気合いが薄まったものしか手に入らなくなります。すると、どれもなんかイマイチだなという事になってしまい、そのあとは何をどうがんばってもうまくいかない結果になることがあります。下手をすると、また違う作曲家をアサインして、一からのスタートになるかもしれません。
信じれる人に気合いの入る条件でお願いして、産まれた種のよいところと欠点を的確に判断し、前向きにブラッシュアップしていくのが、よい楽曲をつくるのに効率的な方法だと思います。ご参考まで。
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さて曲の基本形はできたけど、生録音をどうしようか。四ツ谷のスタジオで、楽器の生録音は幾度となくやってきましたが、恥ずかしながら、僕たちは大人数のフルオーケストラ編成での生録音なんて、やったことありません。ベテランの音楽プロデューサーならば、もちろんいつかは通る道だと思いますが、残念ながら僕たちはベテランではないし、「全案件総貧困」の時代を生きています。そんな贅沢な音楽制作の経験は、いままで出来なかったのです。誰に頼ってよいのか、わかりません。ぶちに、冗談で言いました。
斎藤ネコさんに、お願いしたい。
斎藤ネコさんは、僕が大学時代にものすごく影響を受けた、椎名林檎さんのアルバム「平成風俗」にてオーケストラアレンジを手掛けております。写真左の方です。※ちなみに、2021年大晦日の紅白歌合戦では、YOASOBIさんの曲で指揮をされていました。
冗談のつもりだったのですが、いざ口にすると妄想が先走り、本当にお願いしたいと思うようになってきました。斎藤ネコさんは雲の上レベルの方。お願いなんて、できるのか・・・?
僕はこの10年間で、数々の「タガを外す」練習をしてきました。あくまで冷静な判断として、今回のプロジェクトはあらゆる意味でタガを外した行動をとらなければならないと思っていました。知り合い通じてのツテもないのでオフィシャルサイトを訪れ、真っ向から問い合わせの連絡をします。
マネージャーさんと連絡がとれました。前例のない企画なので非常に説明が難しいのですが、丁寧に内容と意図をお話して、検討していただきます。その結果・・・
快諾いただけました。
マジですか・・・。こうなったら、とことんやるしかない。直接お会いしてデモ楽曲を聴いていただきつつ、オーケストラアレンジのためのお打ち合わせを進め、楽譜を作っていただきます。まさか、ぶちと、斎藤ネコさんの名前が並ぶなんて・・・。
2021年5月19日。レコーディングの日です。はじめてのフルオーケストラ録音。どんなものなのかあまり想像もつかないので、逆に気楽に訪れてしまいましたが、着いた瞬間、ただごとではないことが起こっているのに気がつきました。
スタジオのスタッフの方が、駐車場の交通整理をしていたのです。
これは、交通整理が必要なほどたくさんの演奏者の方が、今このスタジオに集まっているということ。僕たちの自主クリエイティブの2分ほどの楽曲を演奏するためです。ヤバい。ふと思いついたアイデアの種が、こんなにも大勢の人が関わるプロジェクトになってしまった。
またまた甚大な重圧を感じたのは、意外な場所、駐車場でした。
さて、いよいよ収録が始まります。感染対策も考慮して、フルオーケストラの全員がいっせいに演奏するのではなく、パートごとに録音することになりました。まずは、ストリングスとピアノです。
別室には、ハープも。楽曲の最後を締めくくる、大事な役割です。
指揮をとっているのが、斎藤ネコさん。
レコーディングエンジニアは、内沼映二さん。
内沼さんは、ピンクレディー、西城秀樹、 郷ひろみ、福山雅治、ゆず、Misia作品など。アニメや映画は「ジャングル大帝」「ブラックジャック」などを手掛けられた、レジェンドです。
さて、演奏が始まります。このような光景が繰り広げられました。
ヤバすぎる。右脳をえぐられます。
これは夢か現か。時にやわらかく、時に激しく、いきもののように一体となった音の波に、感性を撫でまわされているようです。
次は、木管楽器。楽曲に、どんどん深みが加わります。
次は、コーラス。声の力も加わり、壮大すぎるものになってきました。
次は、金管楽器。トロンボーンを吹いているのは、村田陽一さん。伝説のドラマーである、村上“ポンタ”秀一さんと一緒に演奏されていたのを、高校生の僕は、田川の実家のテレビで観ていました。そんな村田さんというレジェンドがこのプロジェクトに参加していただけるとはつゆ知らず・・・演奏者リストを見て、ビビりました。
次は、箏(こと)です。大きい!まるでピラルクのようです。ピラルクの説明は・・・割愛します。画像検索してください。
メロディーを確認しているところです。華麗すぎる・・・。
写真に撮れていなかったのですが・・・もう一つの和楽器である、篠笛も録音して・・・
最後は、パーカッション。デカい。デカいものが、いろいろ。
ドラも。たいへん大きいものになっております。僕たちもタガを外したつもりですが、こんなに大きなドラを鳴らしていただけるほど、演奏者のみなさまにもタガを外していただけるとは、思ってもみませんでした。
社会見学のために連れてきた、息子の太郎(当時4さい)は、スタジオの大きい音にビビりながらも、釘づけ。
パーカッション収録の模様はこちらです。
たのしすぎるし、本当にやってよかった。ここまでやらないと、GOOD MUSICという冠にふさわしいものには、ならなかったと思います。しかし、ふと、疑問が沸きます。
なんで? なんでみんなこういうこと、やらないの??
ここまでやりぬくと、ずっと誇れるような音源になるのに、なんで???
改めて言うと、僕たちの会社はこの時、たった3人だけの会社。零細も零細。会社規模でいうと、日本の底辺レベルの零細企業です。しかもこの案件のスポンサーなど、まったくいません。この案件の予算は全て自社でまかなっています。このプロジェクトのための補助金とかも頼っておりません。
なのに、この超贅沢な音楽制作をやれている。ちなみに広告案件で、このような規模の音楽制作が行うことのできた例は、今までに一度もありません。
年間売上が数兆円以上の規模の会社のTVCM案件よりも、今、自分たちは、はるかに音楽制作にお金をかけている。むしろ、自分たちがスポンサーだからこそ、誰にも遠慮なく、よいものを追求するためタガを外せている。なんだ、この奇妙な現象は。
僕も経営者のはしくれ。会社経営10年間、いい時も悪い時も経験してきましたが、ついに禁断の事実に気がついてしまいました。
予算がないとは、予め、計算に入れていないこと。
いいものをつくろうとする気持ちが最初から無いこと。
そうか・・・わかってきた・・・
僕たちは、よい音楽をつくりたいと思っているから、今これをやれている。
違いはそこだけだ。
きっと、企業には、お金がないのではない。
お金だけでいうと、僕らより余裕のある会社は、山ほどあるはず。
もっていないのは、よい音楽をつくりたいという気持ちだ。
「カネ」ではなく・・・
「気合い」が足りないだけなんだ!!!!!!!!!!
カネがないのではない。
気合いが足りないだけである。
樋口太陽
いつの日かこの言葉を、大きな石か何かに刻んで頂ければ、幸いです。
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いちおう補足しておくと、気合いが足りないことは、もちろん悪いことではありません。企業は、必ずしもよい音楽をつくりたいという気持ちなどを持たなければいけないわけではありません。
しかし、これからの時代はクリイエイティブを「めちゃくちゃよくする」ことが、ビジネスにとって必要になることもあるかと思います。そのためには、クリエイターが容赦無くタガを外せる環境づくりが必要です。※これについては、触れると長くなるので割愛します。
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さて・・・ずっと天国にいるかのようなオーケストラ録音が終わりました。次の作業は、ミックスです。続いてのレジェンドは・・・ミックスエンジニアの、井上うにさんです。
僕は、高校の時、椎名林檎さんのサードアルバム「加爾基 精液 栗ノ花」に、めっちゃくちゃ音楽的影響を受けたのですが、このアルバムにて、エンジニアのみならず、編曲にも関わっていたのが、井上うにさんでした。斎藤ネコさんに心からのお願いをして、井上うにさんを繋いでいただき、ミックスを手掛けていただきました。
フルオーケストラの演奏を、ガッツーーーーーーンと、魂に響く音像に仕上げていただきました。マジでヤバすぎることになってきた。ミックス終わりの記念撮影です。
左から、ぶちさん、うにさん、ネコさん、僕です。
ついに、GOOD MUSIC VS BAD MUSICの、「GOODの方」ができました。
GOOD MUSICができたこの時点で、演奏者やエンジニアなど含め、すでに74名に関わっていただいております。もう後には引けません。
恥ずかしげもなく、お出しします。こちらが、僕たちが考える、僕たちなりのGOOD MUSICです。※SOUNDCLOUDの仕様上、本来より音質はかなり劣化しておりますが、雰囲気だけご体感ください。
プロジェクト全体でいうと、まだまだやることは山積みですが、これがGOOD MUSIC制作の全過程です。いかがだったでしょうか。
この膨大な過程を経て手元に残る完成音源は、たった数十メガバイトのデータ。ただ音楽をつくるだけであれば、いくらでも予算も労力も時間も削減できます。
しかし、「よい音楽であること」というのが要件であれば、話が変わってきます。
ここまで徹底的にやらなければ叶えることのできない音楽制作案件もある、ということが、少しでも伝われば幸いです。
さて次は、映像の撮影です。
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