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音楽制作業 OFFICE HIGUCHI 10周年までの道のり#13 〜「都心のスタジオ」という欲望に取り憑かれた弟(後編)〜

お世話になっております。代表の樋口太陽です。

築地の居抜きスタジオの審査に落ちてしまった、前回の続きです。詳しく聞くと、会社の規模の小ささに加えて、設立してまだ4年目で実績がなかったこともあってか、オーナーさんの了承を得れなかったとのこと。マジすか・・・そうですか・・・社会って厳しい・・・しかしその時、ガルバプランニングさんから思わぬ提案を受けました。

新しい場所を探して、工事してスタジオつくりませんか?

とのこと。「えっ、そんな事できるんですか?」と詳しく聞くと、ガルバプランニングさんは防音物件の仲介だけでなく、防音工事も手掛けているので、普通のオフィスのような物件でも、スタジオに生まれ変わらせる事ができる、とのことでした。

でも・・・お高いんでしょう?

スタジオの工事なんて、何千万円もかかるのではないか?そう思っていました。しかし、なんと工事費の初期費用はガルバプランニングさんに全額負担していただけるそう。その代わりに賃料の値上げが発生。最初にかかった工事費を、時間をかけて月々返していくようなイメージ、という変わったシステム。なんだか怪しい話に思えるかもしれませんが、僕たちにとって、非常にありがたい条件でした(実際に、とても良心的な会社さまでした)。多額の初期投資が抑えられる事により、ハードル低くスタジオ設立が出来る。もうここまで来たら、やるしかない!

同じく築地周辺で、たくさんの物件を見に行きました。スタジオの工事をした後のイメージを湧かせつつ。ここで成り上がれるか、というイメージを湧かせつつ。そんな日々の中で、思わぬ問題が発生しました。

電車で眠ってしまうという、問題です。

阿佐ヶ谷と築地は、時間にして50分ほど。その途中で電車を二回、乗り換えなければなりません。ずっと家とオフィスを同じにしていた僕らの感覚からいうと、電車を二回乗り換えるのは、それだけで相当なハードワークです。行く途中、帰る途中、思わず寝過ごしてしまいます。ハッ、やばいやばい。乗り換えなきゃ。次も、寝過ごさないようにしないと・・・。阿佐ヶ谷と築地の往復を繰り返す中で、少し、心が折れてきました。はたして、俺たちはこんな遠くまで通えるのか・・・。

都心のスタジオを手に入れたいという、自己実現欲求。
電車での眠気という、生理的欲求。

どちらを立てればよいのかわからない難題。「いや、このぐらいは東京の社会人なら普通にやること。きっと通えるはず・・・」と自分に言い聞かせます。そんな中、兄から提案をいただきました。

「スタジオつくるのはいいとしても、築地はやっぱり遠すぎるんじゃないか、中央線で一本でいける四ツ谷とかだったらどうか?」

僕にとって四ツ谷は、降りたこともなく、特に印象のない土地。イメージが沸きません。築地周辺しか頭になかった僕にとって、ちょっと半端な妥協案ともとれるものでした。でも確かに、一本でいければ電車での寝過ごしは少なくなりそうです。四ツ谷も視野に入れることになりました。

その後、四ツ谷駅近くで、よさそうな物件があった!との連絡が。

四谷7分

早速、内見に行きます。当時の写真が残っていました。

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地下一階の物件。今は倉庫になっているとのこと。

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雑然と物が置かれているが、まぁまぁ広い、100平米ほどの物件です。

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地下ではあるが、いちおう外とは通じていて、少しは日光や風も入ってきます。

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今はあまりオシャレには見えない状態ですが、コンクリート打ちっ放しの壁も、逆によいのかも・・・。
 
新しく物件を探すにあたって、ひとつ条件がありました。それは、ドラムが叩けること。小学校の時からドラムを叩いてきて、高校ではがっつりとドラマーとしてバンド活動をしていた僕にとって、ドラムという楽器は特別なものでした。音楽制作の一連の作業の中でもハードルの高い「ドラムの生録音」というものができれば、アピールポイントにもなります。ドラムの大音量をもコントロールできる防音性能を備えるには、地下の物件がぴったりです。ここは思った以上に、色々とよいかもしれない。
 
ちなみに、最初に何よりも大事にしていた立地に関しては、こんな感じです。

マイマップ再現-02

築地とは離れるが、じゅうぶん都心だ。新宿区ではあるが、港区にも近い。阿佐ヶ谷から、中央線で一本でいける。これだときっと電車で寝過ごさないだろう。

よし、ここを自分たちのスタジオにしよう!

しかし、初期の工事費用がないとはいえ、これだけのちゃんとしたオフィス物件を借りてスタジオを作るには、予想以上に「それ以外」のお金が必要になってきます。敷金も必要。普通は商用スタジオに置いてあるような機材を一から揃えていくことも必要。まとまったお金がいる。売り上げはそこそこ調子よいとはいえ、ほとんどお金は余っていない。ここで僕たちは、会社として初めてとなる借金、1000万円を借りました。もう後には引けません。
 
無事に契約を済ませ、ガルバプランニングさんによる、防音工事が始まりました。広い一つの空間に壁を作り、小分けにしていきます。ブース、コントロールルームの広さをどうするかなどの打ち合わせを行い、進めていただきます。ミーティングスペースは、とびっきりオシャレにしたい。ここは防音など気にしなくてよい部分なので、自分が前からお願いしたかった人に頼もう。妻の古くからの友人。 建築デザイナーの阿相稜さんにお声がけします。

RYO ASO DESIGN OFFICE
https://ryoaso.com/

以前の投稿から、なんで妻にこういう交友関係があるのだろう?と思われるかもしれないですが、妻は別にクリエイティブ界隈の仕事をしてきたわけではなく、ただただ問答無用に友人が多いだけです。結婚パーティーでは僕が40人程度の友人を誘ったのに対して、妻の友人は150人程度という・・・圧倒的な友人の多さを誇ります。
 
阿相さんに手がけていただき、空間は生まれ変わりました。
えっ、壁の打ちっぱなしコンクリートはそのまま活かし、ワイルドな無垢材を床に張ったミーティングスペース・・・?

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新ロゴを使った看板を掲げて、なんか、イケてる会社っぽいエントランス・・・?

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防音部分は、ガルバプランニングさんの管轄です。地下のスタジオということで、一日中真っ暗な中、こもり続けるイメージを抱きそうだが、あまりストイックにはならないように、明るめの壁、床の色でお願いしました。これは、機材をひとつずつ組み立てていくときの様子です。エンジニアの坂口太志さんに、機材のセレクトや、組み立てをお願いしました。

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だんだんそれっぽくなってきた。

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さらに少しずつ物を増やして整えていきます。こ、これは紛れもなく、スタジオだ!


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ブースでは、念願のドラムも、24時間叩ける!

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こんなスタジオが、ほんとに都心にできた・・・。2014年の6月30日に無敵会議で夢を語り、わずかその約五ヶ月後には、このスタジオが完成したのです。この時、僕は30歳。最初はただただ社会人になりたいがため、形だけの会社にしたつもりが、自分が社長になって、社員もいて、都心の立派なスタジオもある・・・もうあとは、無敵への階段を登るしかない。そんな、希望に溢れ、恐れを知らない時期でした。
 
今でこそ思うことですが、築地の物件の審査が思ったとおりに通っていれば、この四ツ谷のスタジオはありませんでした。築地のスタジオだと内装や間取りにも限界はあったし、ドラムは叩けなかったし、電車の乗り換えも大変だった。予想外に審査に落ちたことによって、自分たちの好きな空間を、自由につくれた。後から振り返れば、四ツ谷スタジオの方がメリットだらけ。人生は、自分の思い通りにいかない事によって、よい方向に変わることもあるという事を知りました。
 

若くて信用のない僕らにとことん付き合ってくださったガルバプランニングさん。最高な空間をデザインしていただいた阿相さん。そして、断ってくれた築地スタジオのオーナーさん。この場を借りて、ありがとうございました。

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