見出し画像

【詩】菫の墓

菫の花を咥えた人魚が
オーロラの下で追いかけっこしている
でも何に追いかけられているのか
分からないまま悲しくなる
地上で交わされる言語に傷ついた
太陽が今日も死んでいく
戦闘機で着飾った空
それが青く見える場合もあった
冷たい夏の呪文を唱えてくれ
活舌の悪いロザリオを首から垂らした
船酔いの水夫が海底に沈む
それを見ていたのは犬のチャッピー
吠える声はさざ波に溶ける
水夫の口から泡がでなくなってから
人魚はそっと抱きしめてみた
禿げている頭髪は脂っぽく
カサカサに乾いた唇
前歯は銀歯が腐っていた
王子様なんかやっぱりいなかった
絵本なんて嘘つきだ
愛は雲の上にはあるけど
海の底にはない
それでも人魚は水夫を
沈没船のソファに寝かせて
骨になるまで透明の歌を聞かせた
美しい舞いも踊った
菫の花を添えてお墓にした
慈悲と言えなくもないが
魂が空に吸い込まれるのが見たかった

いつも記事を読んで頂いてありがとうございます。フォローや、ハートマークで満足ですが、ご支援して頂いたら、詩集の制作費の足しにさせてもらいます!