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パラドックス大全/ウィリアム・パウンドストーン

「実は、確かにそうではないと証明する方法はないのだ。」(p.14)
「「水槽の脳」は、哲学者が「知識問題」〔知っているとはどういうことか〕と呼ぶものを絶妙に図解したものである。要点は、われわれが水槽に浮かぶ脳だというあまりありそうにない可能性ではなく、想像もつかない形で騙されているかもしれないということだ。」(p.19)
「自分自身の心が存在することを疑うとしよう。自分が疑っていることも疑うことになるーーー結局、疑っているのだ。その疑いを行なっている何かがなければならない。いろいろな騙され方はしているかもしれないが、少なくとも騙されている心は存在していなければならない。そこで出てくるのが、デカルトの有名な命題、「われ思う、ゆえにわれあり」である。」(p.24)
「本物の逆説の単純な例は、「嘘つきの逆説」である。」(p.34)
「科学はおぼえやすくする工夫である。起きたことを枝から落ちたリンゴひとつひとつに至るまで、細大漏らさず記憶するのではなく、重力の法則をおぼえるのである。それは外の世界の地図である。どんな地図でも、細部は省略される。道路地図からは、高速道路、海岸線、国境など、地図の利用者にはもっと重要と思われる地形を優先して、小さな集落、木、家屋、石などは落とされる。科学者も同様の判断をしなければならない。」(p.37)
「世界中の有名な宝物庫が同じ鍵で開くことがわかったようなものだーーーその鍵が存在するならば。任意の/すべてのNP完全問題への有効な解法があるのだろうか。これは今日の数理論理学で解決のついていない最も奥深い問題のひとつである。」(p.42)
「いちばん有益な仮説は一般論である。ヘンペルの逆説は、ある常識の裏をかいている。ジャン・ニコという哲学者にちなんで「ニコの規準」と呼ばれるものである。黒いレイヴンを用いて言えば、この規準は(a)黒いレイヴンを見ると、「すべてのレイヴンは黒い」という一般論が成り立つ可能性が高まる。(b)黒くないレイヴンを見ると、命題は否定される。(c)黒いレイヴンでないものを見ても、黒くないレイヴンでないものを見ても、それは無関係である。黒いボウリングのボールや芝生に置いた青い妖精の人形も、レイヴンの色については何も言わない。ニコの基準はあらゆる科学の探究の背後にあり、それでまずいことがあるとすれば、確かに深刻な事態になる。」(p.47)
「一般論は、証明するより否定する方がずっと易しいということだ。」(p.52)
「対偶の等価性を否定する必要はない(論理学者ならそんなことは無理だと言うだろう)。ヘンペルはただ、仮説の論理的な変形には気をつけようと言っているだけだ。その通り。対偶は同値である。しかし確認は必ずしも論理的変形を「承認」するものではない。帰納によって言じていることの帰納が誤解をもたらす場合はいろいろあって、それが多くの逆説の元になっている。」(p.71)
「科学には美意識がある。理論の「美しさ」は、おおむねその単純さで測られる。多くのことを説明する単純な理論は、少しのことしか説明しない複雑な理論よりも好まれるーーー額面どおりに見れば、複雑な理論の方が単純な理論よりも正しくないと言じる理由はとくにないのだが。この重要な原理は「オッカムの剃刀」と呼ばれる。」(p.87)
「オッカムは自分では言わなかったかもしれないことで有名になった。Entia non sunt multiplicanda sine necessitate-つまり「必要以上に事物を増やしてはならない」である。言葉そのものはオッカムのものではないとしても、その感覚はオッカムのものである。オッカムが言おうとしていたのは、必要な場合以外には、新たな仮定や仮説(事物)に訴えるべきではないということである。雪についた足跡が熊でも説明でき、未発見の人間に似た生物でも説明できるなら、熊説の方が採られるということだ。」(p.87)
「ブラックホールの中心には、「特異点」という、空間が無限に圧縮された、曲率が無限大の点がある。事象の地平を横切る物体は、特異点に引き寄せられる。観測する側から見れば、それがどういうものであれ、特異点は終わりである。どんな存在も装置も、無限大の潮汐力には耐えられない。」(p.111)
「すべての心はかくのごとく、他の心にはうかがい知れず、感情の共通分母はありえない。」(p.115)
「たぶん、癌を防ぐ方法、十番めの惑星の位置などを導くのに必要な事実はすべて手にしているが、誰もそれを正しい順序に並べていないということかもしれない。それだけではない。もしかすると、われわれは世界についてあらゆる種類の論理的結論を見逃しているのかもしれない。われわれが見聞きする物すべてに隠されているのに、わずかに入り組みすぎていて把握できないのかもしれない。」(p.267)
「「科学の大目標は、できるだけ多くの経験的事実を、できるだけ少ない仮説あるいは演繹から、論理的な演繹によってカバーすることだ」とアインシュタインは書いている。」(p.267)
「未来はやはり知りえない。自分がしようと思うことをすればいい。」(p.374)

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