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「意思決定」の科学/川越敏司

「わたしたちの人生は選択の連続です。」(p.3)
「この期待値が最大になる選択肢を選べばよいという考え方を最初に明確にしたのは、ブレーズ・パスカル(1623-1662)です。」(p.15)
「一般に、多くの所持金を持っていればいるほど、同じ賞金額を得ることに対して感じる効用の増加分は少なくなると考えられます。この背景には「限界効用逓減」という心理的な法則性があるためだと考えられています。」(p.22)
「このように、ベルヌーイは限界効用逓減の法則を満たすような効用関数を導入し、人々が期待値ではなく、期待効用に従って賞金額を評価していると想定すればパラドックスが解消されることを示しました。」(p.26)
「プロスペクト理論とは、心理学者のダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman,1934-)とエイモス・トベルスキー(Amos Tversky,1937-1996)によって生み出された理論です。なお、プロスペクトとは、予測、見込み、見通し、などの意味を持つ英語です。このプロスペクト理論を非常に簡単にいえば、期待効用理論に対し、実験によって得られた「様々な心理学的洞察」を組み入れて改良した理論ということになります。ちなみに、カーネマンは、このプロスペクト理論を中心的理論とする行動経済学(behavioral economics)と呼ばれる意思決定理論に関する開拓的業績によって2002年にノーベル経済学賞を受賞しています(トベルスキーはすでに亡くなっていたため受賞していません)。」(p.86)
「プロスペクト理論を生み出したカーネマンとトベルスキーは心理学者です。彼らは意思決定に関する数多くの実験を通じて、被験者の意思決定が、偶然や単純ミスではなく一定の規則性をもって期待効用理論の予測から逸脱することを指摘しました。そして、その原因と考えられる様々な心理学的な傾向性(バイアスといいます)を意思決定理論に取り入れ、行動経済学という分野を基礎付けたという業績で、カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を授与されています。」(p.107)
「また、確率重み付け関数は、リスクのある状況において、人々は小さな確率を課題に評価し、大きな確率を過小に評価するという、確率の評価について客観的な値とは違う、ある程度ゆがんだ主観的評価をするということを表現しているものなのです。」(p.111)
「その状況において、何が損失で何が利益なのかという判断は、意思決定の時点でその人の参照点(reference point)が何かによって変わるとされていることです。」(p.115)
「そこで、問題のある独立性公理を排除し、順序公理と連続性公理だけで構築された意思決定理論として、カーネマンとトベルスキーによって提案されたのがプロスペクト理論なのです。」(p.141)
「プロスペクト理論は、確率重み付け関数と損失回避性を伴う価値関数という2つの関数に特徴があります。」(p.141)
「時間選好とは、時間の経過に対してあなたが抱いている価値や評価のことです。」(p.159)
「このように嫌いなことを過度に先延ばしにする、言い換えれば、好きなことを過度に前倒しにするという行動は、将来時点よりも現在時点での効用を過度に重視していることから、現在バイアス(present bias)と呼ばれています。」(p.165)
「このように対等の立場で得た利益の配分についても、その人の社会的選好によって、選びとる配分額は違ってきます。こうした人の社会的選好は、心理学の世界では社会的価値志向性(SVO: Social Value Orientation)と呼ばれています。」(p.181)
「意思決定理論の研究では、社会的選好は他者をも考慮する選考(other-regarding preference)と呼ばれることもあります。」(p.185)
「ここで大事なことは「人はみな異なる社会的選好をもっているが、その選好から見て自分にとって最も望ましい選択をしている」という意味で合理的なのだということです。」(p.194)
「実験13はベルリン・ニューメラシー・テスト(Berlin Numeracy Test)と呼ばれているものです。おそらく、皆さんにとって「ニューメラシー」というのは聞きなれない言葉だと思います。これは、文章の読み書きなどの読解力や記述力といった能力を総合的に表すリテラシー(literacy)との対比で、計算能力や数的な判断能力といった能力を総合的に表す言葉です。」(p.201)
「実験14は、認知熟考テスト (Cognitive Reflection Test, CRT)と呼ばれているものです。ベルリン・ニューメラシー・テストが確率の計算に関わる問いが中心であったのに対し、認知熟考テストではもう少し範囲が広い、算数的な問題が多いのが特徴です。このテストには、冷静に時間をかけて熟考すれば正解できるのに、直観的に即答しようとすれば間違ってしまう、そういう問題が集められています。」(p.204)
「つまり、現実の意思決定では、リスク選好に関わる属性と時間選好に関わる属性は独立なのではなく、人は受け取る時期が将来になるほど、リスク回避的ではなくなるという意味でリスク選好と時間選好との間には相互作用があるということです。」(p.220)
「これらのことから、人はリスクが高まると、我慢強くなるのだと考えられます。」(p.222)
「このように、配分が平等であるか不平等であるかがリスク選好を変えてしまうと考えられます。より具体的には、配分を平等にするためならば、リスク愛好的になるというリスク選好と社会的選好との間の相互作用があるということです。」(p.226)
「つまり、よりリスクが高まると、人は不平等な選択をしてしまうということになります。このことから、人は配分を得るリスクが高まると、不平等回避的ではなくなる、ということがいえそうです。」(p.227)
「このように、配分が平等であるか不平等であるかが時間選好を変えてしまうのです。より具体的には、人は配分を平等にするためならば、将来バイアス的になるという意味で、時間選好と社会的選好の間には相互作用があるということです」(p.230)
「また、これも何度も述べてきたことですが、皆さんの選択の基準となる効用関数は人それぞれで違います。効用関数が違えば、当然期待効用が最大になる選択肢も異なります。そこで、あなたとは別の誰かの効用関数を測定すれば、その人がなぜあのような選択をしたのか?という疑問に答えることができます。言い換えると、意思決定理論を使って、他の人の行動や選択を理解することができます。わたしたち研究者は、日々様々な実験課題を用いて人々の行動を観察し、その行動の背景にある動機や行動原理を探ろうとしています。その出発点になるのが、本書で紹介してきたリスク選好や時間選好、社会的選好になります。
つまり、これらの選好から導かれる効用関数を人々の行動や選択に当てはめ、それを理解しようとしているのです。その際、わたしたち研究者は、どんなに不可解な意思決定をしようとも、その実験参加者のことを愚かであるとか不合理であるとみなすことはしませんし、してはいけません。そうした不可解な選択は、相手が自分自身とは異なる効用関数をもっているためなのであって、どのような効用関数であれ、その下で期待効用を最大にするような選択をしているという意味で合理的な選択なのだと考えます。」(p.244.245)
「ルネ・デカルト(1596-1650)はその著書『方法序説』の中で次のように述べています。「われわれの間での意見の食い違いは、ある人が別の人よりもより理性的だからなのではく、ただわれわれが様々な道筋でその考えを導いているからであり、同じ事柄を考えているのではないからである」(第1部)」(p.245.246)
「また、本書の冒頭に引用したパスカルは、同じく『パンセ』の中でこう述べています。「人に間違っていることを示す場合には、その人が物事をどういった方向から見ているかに注意すべきである。なぜなら、通常物事はその方向から見れば真実だからである」人が間違っているように見えても、実は自分とは違う方向から見ている、つまり、自分とは違う効用関数で評価している、ただそれだけのことなのだとパスカルも考えていたようです。」(p.246)

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