日常短編シリーズ:変わり目
※この記事ははてなブログにて、2020年9月21日に投稿した記事の再掲です。
これはフィクションであり、ノンフィクションの話でもある。
黒い革靴の表面を車のライトが滑り抜けてゆく。
既に日は完全に落ちていて、街灯や信号の光が闇に浮き上がっている。
少し肌寒い。半袖のTシャツで出てきた事を間違っていたとは思わない。昼間は確かにTシャツで丁度良い気温だった。何か羽織ろうか考えたが、まだ早い感じがした。
それに久々に押し入れから出してみた薄いジーンズ生地の上着は少し埃っぽかった。クリーニングに出すべきだろうか。
ある日から急に気温は高度を下げ、ほんの数日前まで怒肩で歩いていた夏はどこかに身を潜めてしまったかのようだった。
僕は横断歩道を渡るため、信号が変わるのを待っている。
僕以外に信号が変わるのを待つ人は誰一人としていない。車が行き交い、横断歩道を渡った少し先に歩道橋の見える大きな交差点。さして特徴のない街路樹がなんの感情もなしに佇んでいる。
何故だか心が寂しい気がする。人の心は簡単に気候に弄ばれる。
秋がやってきている事を僕は感じているようだった。
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